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第6回 貧弱正助さん(病弱ではない)

フランスが琉球に顔を出したことから、斉彬が近く戻ってくるということで、祐介の対応はその際に考えることになるという指示があった。


それまで住処や立場がはっきりしないため、西郷家と大久保家に交互にお世話になることになった。


西郷家にずっといることにならなかったのは、先日の剣を見せた際に目立ってしまい、ずっと西郷家にいることは、あまり良いことに思われなかったためである。


それ以外にも理由はあるが、それは利世に呼ばれて1日だけ大久保家に世話になったときのことが原因である。


「いや~、助かる助かる。庭が本当に乱れちゃってね」


正助は現代の人と比べてもとんでもなく細身であることは分かっていたが、やはりその見た目どおり非力であった。


畑を耕すための桑や鎌を持つことができない。これはまだ細身の彼女であればまだ分からないでもない。


だが、生えている雑草が抜けないとか、風がちょっと吹くと流されてしまうとか、そもそも風も何もなくともちょっとゆらゆらしているとか、虚弱というか貧弱である。


それは親である利世も同じで、西郷家では作物が育っていた庭が、大久保家では荒れ放題であった。


「食べ物とかどうしてるんですか?」


「そこはここだよ」


利世は自分の頭を指す。


「ふふふ、私も母さんも頭脳労働はなかなかできるんだよ。だから自分で作物を作らなくてもお金はあるんだ。そもそも作れないから勉強するしかなかったんだけどね。まぁ、運動もできない虚弱で頭も悪かったら救いようがないからね」


「だけど庭をちゃんとしておくことに越したことはないんじゃないのか? 仕事を急に失うことだってありえるだろう?」


現代日本ではリストラはよくあること。


「それは吉ちゃんにも言われているんだけどね。まぁ私も母さんもほとんど食べないから問題なかったよ」


「じゃあ俺がやるよ。今後自立するのに必要になるだろうし」


「そうかい? じゃあうちの庭使ってくれて構わないよ。昼間は私も母さんも仕事でいないから、好きにしてていいよ」


というわけで、祐介は大久保家の庭を整理し始めた。


そこまで大きい庭というわけでも無かったので、雑草は1日かからずにすべて取ることに成功した。


そして吉之助に協力してもらって土を作り変えた。


ギリギリで土は死んでいなかったので、吉之助の人間関係を充てに、栄養の多い土をたくさん手に入れて、土を耕しつつ、石を取り除いて土を入れ替えて空気を入れ替えるように毎日土を耕し続けていた。


参勤交代で斉彬が戻ってくるまで2ヶ月はかかるとのことだったので、吉之助の家に世話になっている日も時々畑作りにせいを出した。


その間に、吉之助が忙しいときに、二才や稚児の訓練に付き合ったりもした。


給料がもらえるということで、靭負に頼まれたことでもある。


薩摩には男性がいないが、いずれ戦争になれば相手が男になる可能性はある。


殿方よりも強くあれとは言っていても、殿方を知っている女性は少ない。いくら強くても、男を知らない女性は男性には勝てない。


相手の男性は女性を知っているのだから、それだけで単純に不利になる。


事実、祐介が剣を見せたときには、大半の女性はひるんでしまっていた。


剣は技術面で教えることは無い二才には実践形式を交えての訓練。稚児には祐介のやり方を教えてもいいとのことだったので、自分のやり方になじみそうな相手には佐藤流の剣を教えた。


剣術以外にも、身体の鍛錬はあった。短距離や長距離の競争、または水泳。旗取り(現代風にいうとビーチフラッグス)、根性試しの我慢大会などいろいろあり、そのすべてで祐介は誰にも負けなかった。



『祐介様はとても強い殿方です』

『それだけでなくとてもお優しくもあります。剣がうまくならない稚児にずっと付き合ってあげたり、皆をよく見ていてくれて、体調管理もきちんとしてくれています』

『女性に囲まれてもいやらしくもありません。私の知っている殿方とは違います』


祐介は全力でがんばり続ける薩摩の女性達をただ、全力で手助けしようと思っていて、そこに一切の下心は無かったのだが、その姿は非常に好感をもたれていた。


祐介は小さい頃から剣道をしっかりこなしていたが、学生生活をおろそかにしたことはない。


だが、本気の殺人剣を学び続けた彼が、学生生活以上のことまではさすがにこなせなかった。


学校に朝来て、授業に参加し、部活を行って、また剣道をするという生活が彼にとっては当たり前であり、友人と学校以外では接することが無かった。


道場で練習しつつも、一応中学や高校で所属していた剣道部はずっと強くて、男子剣道部と女子剣道部に分かれていたので、部活でも女子とは接していなかった。


つまり、祐介は今薩摩の女子と接するように、近い距離で女子と接することはほとんど無かったのである。


もしかしたら、ここに来る以前にも彼に好感を持った女子もいたかもしれないが、祐介自身がそのパイプを作っていなかったので、それは知りようが無い。


だから、彼は自分が周りにどう見られているか理解していなかったし、彼自身もただ純粋な気持ちでやっていた。


本気の指導をするものだから、剣の型を教えるときに手や足を普通に触ったりするし、怪我した子を処置したり、うまくこなせた相手に、言葉をかけたり頭を触ったりするものだから、男性に免疫のない彼女たちは、紳士的で純粋で、女性が持っていない強さを持つ祐介を好いていた。


『いったいどこの方なんでしょうね……』

『ずっと薩摩にいていただきたいです』

『吉之助さんと一緒に薩摩を守って欲しい。三郎様は身分が高すぎてここまではしていただけないですし』


彼女たちも正助同様、吉之助に負担をかけていることは自覚があった。


そこにもう1人頼れる人間が現れ、新しいことを教えてくれるのだから、救世主のようにも感じていたのである。



祐介も頼り頼られ、自身の経験が生かされている今の立場を決して悪いものには感じていなかった。

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