第22回 不穏?
「しかし、未来とは恐れ入りますな」
話が一段落つき、祐介の話に戻る。
「ええ、でも未来のことは聞かないわよ。分かったら面白くないしね」
「いえ、俺はそんなにはこの時代に詳しくないですし、そもそも俺の知ってるものとは違うんですよ」
「ほぉ……、どう異なるのですかな?」
久光がかなり興味深いのか、身をのりだして聞いてくる。
「未来が分かる話はしないでね」
斉彬は、少し不安そうになりつつも、やはり興味がある話なのか、耳はふさがない。
「俺の知ってる歴史では、薩摩の有力な人間は、皆男性なんです。ですから、斉彬様も、吉之助さんも正助さんも男性なんです」
「あら、私が男? それなら今みたいな跡継ぎ問題は起こらないのかしら?」
「いえ、それは起こってます」
「そうなの? 散々自分が女性で困ってたけど、結局変わらないの……。でも私自分が結構美人だと思ってたのに、男にされるのはちょっと気に食わないわね」
「私も女性だったりするのですか?」
「いえ、確か久光さんは男性です」
「それはそれで面白くないですな」
「なので、俺の知っている通りの未来になるのかは、俺にも分かりません。ですから、言われるまでもなく未来の余計な話はしません」
祐介の知っている未来では、斉彬が一応藩主になっていることは知っている。
ただ、祐介の歴史の知識は一般教養レベルであり、島津斉彬について知っているのは、藩主になって、西郷隆盛を見初めたことくらいである。
つまり、斉彬がどういう経緯を経て、藩主になるのかを彼は知識として持っていない。
祐介が現状何もしないのは、斉彬に対して迷惑をかけないためでもあるが、本来の歴史なら、何もしなくても斉彬が藩主になるのだから、祐介が何かをすることによって、流れを変えてしまうことを恐れているからである。
だから、2人の考えに意見をすることはあっても、否定して反対をすることは無かった。
例外では、斉彬の命を助けるとか、藩主になるのをあきらめそうなのだけは助けたが。
だからこそ、この後起こる薩摩での一騒動を知らなかった。
先ほど本来男性なのに、女性になっている人間の例をあげたときに、現在比較的親しい赤山靭負の名前が出てこなかったこともそれと関係している。
斉彬の危機が明らかに去ったのと同じ頃、薩摩の入り口で、密かな密会が行われていた。
薩摩の女性複数人が、2人の男性の武士と話しているのだ。
もちろん直接の干渉はできないので、薩摩の内部と、男性がいてもいい場所の境界線を挟んで話している。
男性と女性の密会ではないのは、その真剣な表情から分かった。
『斉彬様は無事でした』
『ですが、次もまた何かないとは言えません』
『命を狙われたんです。やはりこちらもやり返すべきでしょう』
『斉彬様は悲しまれるかもしれませんが、これも斉彬様のためです』
『江戸殿、老中の方は、斉彬様を押されているのですね』
江戸殿と呼ばれているのは、どうやら男性2人のようで、祐介と共に斉彬を助けた武士である。名前が分からないため江戸殿と呼んでいるようだ。
『間違いないです。安部殿は、開明派ですから、斉彬様が藩主になられた方が、都合がいいはずですから、何かきっかけがあれば、絶対に斉彬様を任命します。ですが、斉興様は調所様の協力もあって、薩摩の財政を立て直されましたから、簡単にはできないようです』
『つまり、斉興様か、その側近に不正があれば、十分理由になりうるということですね』
『何かあるのですか?』
『はい、実は…………』
『なるほど……、それなら……。斉彬様に言ってもらいますか?』
『ええ、斉彬様は斉興様を落としてまでは、藩主になりたいとは思ってないと思いますが、調所様が来てから、やりづらいとは思っているはずです。調所様を、薩摩から追い出せるのでしたら、賛成してくれると思います』
『よし、じゃあその話は私から安部様に通せるから、そちらの動きだけは任せていいか』
『ええ、これならきっと祐介殿にも文句を言われないと思います』
そんな不穏な会話を残しつつ、薩摩の夜はふけていった。
お由羅の方の呪いの話もそろそろ忘れられ、よくも悪くも、薩摩に動きが無くなっていった。
そんな時に、斉彬の元に1つの手紙が届いていた。
「祐介。この手紙をどう思うかしら」
斉彬の部屋には、また祐介と2人きり。手紙の中身を知っているのは、現在斉彬だけである。
『調所様に、密貿易に関する不正の容疑がかかっています。既に漁に出たり、貿易に関わっている人間から確実な証拠や証言を頂いております。そちらも文面だけですが、同封いたしました。必要であれば、お触れをいただけばご提供できます。密貿易は、薩摩の借金を完済するために必要であったので、多少大目に見られていましたが、そこに関わる金銭の一部を調所様が手数料と偽って不正に受け取っているとの証拠です。ただ、私達は平民ですので、直接的に調所様に意見は言えませんので、この証拠を見せた上で、調所様にご確認ください。不正を行ったままでは、間違いなく薩摩の不利益になると存じます』
「祐介は何か知っているかしら?」
「いいえ、俺は何も聞いていません」
そもそも、調所と祐介はあまり親しくないのだから、話を知っているはずも無いが。
「調所さんが、俺を追い出さなかったのだけは助かってますけどね」
調所が薩摩に来たときに、突然薩摩にいた祐介をはじめは、追い出そうと考えていたのである。
ところが、斉彬が祐介を気に入っていることを知ったとたんに、それを内密にしたのである。
理由はいくつかある。
まず1つは、斉彬に1つ仮を作っておくことで、自分の意見を通しやすくするため。
そしてもう1つは、斉彬に男性の影がある方が、都合がいいからである。
調所は斉興に基本的には従うが、斉彬のことに対してだけは、前々から物申していた。
斉彬を非常に好いている彼は、結婚をさせようとは考えもしていなかった。
だが、調所は好きな男性をつくり、身重になれば自然と当主にはなりずらいと思っていた。
本来薩摩には男性がいないので、斉興も油断しているが、祐介の存在は、調所の考えとしては都合が悪いものではなかった。
この2点により、調所は祐介の存在を黙認していた。
「打算的なものよ。あの人はそう言う人だわ」
「これは、どう思いますか?」
「そうね。本当か嘘かは分からないけど、揺さぶりをかけてみるのは意味があるかもしれないわ。私の藩主の話は抜きにしても、この問題を放置しておくというわけにはいかないし、違えば違うで別にいいから」




