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第21回 本当のこと

そして約束の日、斉彬の部屋に、久光と祐介がいた。


「斉彬様、久光様。俺から集めてしまって申し訳ないです」


「い、いいのよ。私がいつも祐介を呼び出してしまっているもの」


「私もお世話になっておりますし、遠慮なさるな」


斉彬も久光もなかなかそわそわしている。


特に斉彬は、かなり落ち着いていない。まぁ、話の内容から考えれば仕方の無いことでもある。


「さて、本題の話をする前に2人に話しておきたいことがあります」


祐介は軽く息を吐いて、緊張感のある表情をする。


それが伝わったのか、2人もかなり真面目な表情になる。


「2人とも、俺の話が変だと思われましたら、信じなくても大丈夫です。それだけのことを話します」


「祐介の言うことを疑うなんて無いわ」


「私も大丈夫です」


「はい、では。俺がこの薩摩に来る前の話をしようと思います」


「? 記憶が戻ったのかしら?」


祐介が薩摩にはじめていたときに、自分が以前何をしていたかは知らないとのことだったので、記憶がないという報告を吉之助らから受けていた。


「いえ、俺はそもそも記憶喪失ではありません。俺の過去をどうしても話せない事情があったんです。お2人にだけお話します」


「! 祐介殿……」


斉彬と久光は、これだけ緊張感のある表情をした祐介を見たことは無かった。


命の危機になってもあまり表情を変えない落ち着いた祐介をいつも見てきていたからである。


それだけで、祐介が話そうとしていることが、かなり深刻であることを感じていた。



「俺は未来の日本からここに来ました。俺は150年以上先の未来を生きている日本人です」


「……………………え?」


「……………………まさか……」


かなり覚悟をしていた2人だったが、それでもそれ以上に衝撃であったのか、搾り出すような声が少し出ただけで、硬直してしまった。


「さすがに信じられませんか?」


「い、いいえ、疑っているわけではないわ。ただ、どうすればいいのか……」


「私もなんと言えばいいのか……」


「分かります。俺だって同じ事を言われれば、言った相手の頭がおかしいと思いますから」


「そ、そんなことは思ってはいないわ。本当は信じられないけど、祐介が嘘を付く意味がないもの」


「私もそう思います。祐介殿は博識で、頼りがいのある人材です。既に私達から信頼を十分に得ております。ここで、そのようなことを言う意味がありませぬ」


「俺の言っていることをすぐに受け入れてくれとは言いません。ただ、俺のことを斉彬様も久光様もとても大切に思ってくださっているようですから、嘘やごまかしをしたくなかったんです」


祐介が2人に本当のことを言ったのは、2人にとって自分の存在が大きくなっていったことを感じたからである。


その状況で関係が深くなっていけばいくほど、祐介が2人に協力を静楽なってしまうので、妄言かと思われようが、2人に正直に言うべきだと思ったのである。


「それで斉彬様」


「何かしら……」


「俺は自分の意思で過去のここに来ていません。どうしてここに来たのかも分かっていません。どうすれば戻れるのかも分かっていません。ですから……、もしかしたら俺は何かの役割を果たしたら、急にいなくなってしまうかもしれないんです」



「……」


言葉はなかったが、聡明な斉彬には祐介が何を言いたいのかは理解したようであった。


と、いうより、斉彬は多少察していたところはある。


斉彬の周りには、斉彬の意見に賛成する人間はいても、その内容を完全に理解し、同調できる人間などいなかったのだ。


加えて、見たこともない我流の剣や、普段の細かい行動や言動の違和感から、薄々理解していた。


久光と比べて、斉彬が祐介の発言に対して、やや驚きが静かなことから、それは明らかであった。



「俺は斉彬様にも久光様にも、形は多少異なりますが、今の薩摩での問題が終わっても、側にい続けて欲しいと望まれました。ですが、俺にはこの後もここにいて、お2人の手伝いをし続けられる根拠が無いんです」


「それに俺のいた時代は戦争を民間人が体験することの無い平和な時代です。俺は心意気としては持っていますが、やはりこの時代の人間と比べても、覚悟は足りていないと思います。今はまだ大丈夫ですが、今後はむしろ足を引っ張る可能性もあります」


祐介は自分が隠していた思いは2人に包み隠さず話し終えた。

やはりいずれ自分が急にいなくなる可能性が1番不安であり、自分の立場や価値が高くなりすぎる前に、ある程度のところで抑えなければならない。

その理由を説明する上では、どうしても真実を話すしかなかった。


祐介は斉彬を尊敬していたし、好意を向けられることに対しても、純粋に嬉しい思いがあった。


そうでなければ命をかけて助けようとなど考えるわけが無い。


もし、祐介がこの時代に普通に生まれ、同じ関係になっていれば、間違いなく斉彬と久光の要望を受け入れたのは間違いない。


つまり、自分がこの時代の人間ではないということ以外には、断る根拠が無かったのだ。


「祐介。話してくれてありがとう。それだけのことを話してくれると言うことは、本当に私たちのことを思ってくれているってことでしょう。嬉しいわ。だけど、1つ勘違いしているわ」


「勘違いですか?」


祐介は、このことを話せばかなりいい方向に向かったとしても、現状維持が限界であると思っていた。


要は斉彬と久光を少なくとも喜ばせることはないであろうと考えていたが、今の2人が浮かべているのは、おおらかな微笑であった。


「私が好きになって、私達が一緒にいて欲しいと望んだのは、今のあなた。未来から来たあなたよ。あなたがこの時代に生まれていても、まったく同じ人間は生まれないでしょう。人間は、いろいろな要素が巡ってできあがるんだから。だから、あなたが未来人ということは関係ないわ。祐介が祐介であるから好きなのよ」


「私も今回は姉さまと同じ気持ちです。それに祐介殿はここまででも十分薩摩に恩恵をもたらしております」


2人の意見は、祐介の不安を知っていたのかとでも思うかの答えであった。


2人は、純粋に祐介のことが好きなのである。女性としてと男性としてとの違いはあれど同じである。


「だから、もし祐介が急にいなくなるとしてもいいの。その日まで私たちに、祐介がやってくれたことや、言ってくれたことは無くならない。あなたは、私の側にずっといてくれると言ったけど、あれは本当の気持ちでしょう」


「ええ、もちろんです」


「それで十分よ。私の心の中にあなたのことはずっと残るわ」


「もったいない言葉です……。ありがとうございます」


「それに、まだいつ戻られるかも分かりませんからな。それはそのときに考えればよろしいでしょう。そのときまでに、祐介殿が協力いただければ、私としても依存はございませぬ」


「私はあなたが戻るまでの短い時間でも構わないわ。もし受け入れてくれるなら、またあなたから教えて」


その時の斉彬には、強がりや去勢をはるような感じは見られず、やはり強さを持っていると改めて祐介は感じたのであった。

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