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第15回 呪殺の噂

「祐介。私は我慢ならない……。斉彬様が藩主になれないのはまだ仕方ない。だが、斉彬様のやり方を完全に否定して、しかも久光様が逆らえないのを知ってて藩主代理にするなんて……」


その日の夜。西郷家に祐介が呼ばれ、そこには、靭負、吉之助、正助がいた。


「大砲だけじゃないよ。私の調整した年貢のバランスも勝手に変えられた……。免除していた人からも、多少取るって……」


「書き仕事も資源の節約だからって、紙や筆が粗悪品になった。納得がいかない……」


斉彬は大砲以外にも、本当にためになることであれば支出を惜しまなかった。


それが百姓に好かれる理由の1つでもあった。


「皆の怒りは分かりますし、俺も同じ思いです。ですが、斉彬さんは一旦何もされないように指示してきました」


「何でだ!」


靭負は我慢できず立ち上がって祐介に迫る。


「力ずくで何かすることは斉彬さんが望んでないんです。俺たちに望んでるのは、話し合いで解決できる方法です」


「斉彬様がそう言うのか……」


「はい。元々女性が藩主になるのは難しいんです。そこで無理を通せば、江戸における斉彬様の立場にも響きます。斉彬様は、きちんと考えられる博識なところを評価されて、薩摩に派遣されたんですから、それを覆すことはしてはいけないです。なので、俺たちは、きちんと考えを出せるまでは、なんとか強硬派を抑えておきましょう」


「分かった。吉之助、正助、聞いたとおりだ。斉彬様がそう望まれているのだ。絶対に事を急がないようにな。もし、斉彬様が完全に薩摩から完全に追い出されるようなことがあれば、完全に斉興様の管理下になる」


「「はい」」



大砲があまり作れなかったが、斉彬は琉球に上陸していた宣教師を言葉巧みに説き伏せて、立ち退かせることに成功した。


このことで、調所は『やはり大丈夫だってではありませんか』と更に立場を高くした。

斉彬としては、今後相手が強硬な手段に出る、あるいはそれをさせにくいためには大砲が多めに必要であると考えていたが、あくまでも調所はその場さえ乗り切れればいいとの考えであった。


斉興の考えとは、斉彬を調所を送ったことにより、あきらめさせるという目的もあったが、斉彬が成功してしまったことで1つ誤算が起こる。


斉彬が、幕府が与えた予算を抑えて、異国船を追い返したことで、老中における斉彬の地位が上がり、調所を残した上で、斉彬を藩主にすべきではないかという意見が斉興に出されたのである。


「それで! 何を言ってきたのですか?」


そのことを斉興がお由羅の方に話すと、彼女は怒りを見せて、斉興を問い詰めた。


「別に何も言ってはおらん。まだ確定ではないしな」


「何と悠長なことを! ようやく久光が藩主代理になって、あと1歩だと言うのに!」



その日から、お由羅の方は、毎日一定時間姿を見せなくなった。



「祐介殿、どうぞ」


祐介の元に1つ手紙が届き、二才の女子から渡される。


「誰からだ?」


「江戸からです」


差出人は、前回斉彬と共に来たお目付け人の護衛役の武士であった。


実は前回の火事騒ぎの際に、同じ家に泊まっていた10人の武士とは、祐介は知己になっていたのである。


その理由は、祐介のおかげで、彼らが命を救われたことである。


祐介が気づかなければ、彼らも煙に巻かれて危険な目にあう可能性が高かったからである。


彼らは元々斉彬のお目付け人についてきたので、どちらかと言えば斉彬を認めていない側の派閥であったが、火事が明らかに故意で行われたことを知ると、やりすぎであること、そして、自分たちのことを死んでも構わないとして不信を抱き、祐介と話して斉彬の考えを知ったことで、斉彬側になっていた。


ここで、祐介は彼らは一旦そのままでいてもらい、江戸に戻って、状況を確認してもらうようにした。

(これは、斉彬に確認済みで、彼女も賛成している)


そんな彼らからは定期的に連絡があった。


祐介と剣の打ち合いをした3人も、協力体制を整えてくれたこと。その3人は斉興と直接会っていることもある地位の高い武士と面識があるため、動きを確認しやすくなったこと。


斉彬が江戸で高い評価を受けていることなど、大きなことから、また細かいことまでもらっていた。


「これは……。ちょっと相談が必要だな。絶対斉彬様や久光様には教えられない」


その手紙の最後の内容はなかなかショックを受けるもので、内密に確認しなければならないものであった。



「なんだい? 祐介にしては、仕事があってもそれを切り上げて来てくれなんて珍しいな」


「私も任せてきたよ。皆に悪いことしちゃったから、今度祐介さん埋め合わせしてあげてね」


「母さんに投げちゃったよ、仕事。ただでさえ紙が使いにくいのにさ」


再び、靭負、吉之助、正助を集めていた。


「しかも、私の家を使うとは……、それだけの用事なんだろ」


加えて、祐介はいつも集まっている西郷家ではなく、赤山家を指定した。


下級武士の西郷家や大久保家とは異なり、赤山家は、周りに家もなく、部屋の数が多いので、話が外に漏れにくい部屋もいくつかある。


靭負が他には漏らしたくない情報を話すときには、自分の大きい屋敷を使っており、祐介もそれを知っていたので、靭負にあらかじめ頼んでお願いしたのである。


「3人とも、3人を信じていますので、お見せします。何があっても、斉彬様と久光様には知られないようにしてください」


「ん? 斉彬様と久光様だけでいいのか? 二才達はいいのか?」


「はい、あの2人だけでいいです。この手紙の存在だけ、隠してくれればいいです」


そういって、祐介は手紙を靭負に渡す。


「ふむ、では見て見るぞ……」


「失礼します~」


「私も見るよ」


3人が手紙を読む。そこに書かれていることを見て、3人とも顔面蒼白になる。


『お由羅の方が斉彬様に対して、呪殺を行っていた。斉興様が、話しているのを私の上様が聞き及んだ』


「これは……、義理とは言え娘に対してしていいことではないだろう……」


「ひどい…………」


「なんてことを……」


「祐介、これは確かなのか」


「間違いないと思います。以前の火事の際に俺と一緒に斉彬様を助けてくれた武士の方の言ってることです。それに、証拠もあります」


手紙を一緒に送られてきた書類を見せる。


そこには、5日にわたって、お由羅の方が呪殺を行い、その代金を坊主に渡したことが書かれていた。


「偶然1人が奉行とつながりがあって、斉彬様のために切腹覚悟で知らせてくれたそうです」


「それで、斉彬様は大丈夫なのか……」


「こちらも確認してあります。5日行ったので、そこから5日あけて、10日間の間、斉彬様に何らかの災いが1度起こる可能性があるそうです」


「それで、いつからだ」


「明日からです。手紙が間に合ったのが幸いでした」


「なるほど、じゃあ明日から警戒を内密に行うようにするか」


靭負は祐介がまたこっそりと警護をするように言うと考えていた。


「いいえ、今回は薩摩の皆にこれを知ってもらいます。皆で守ってもらわないとだめです」


「え、でも祐介さん、このことを知ったら皆怒ると思いますよ~」


「その通りだよ。今でも強硬派を必死に吉ちゃんと靭負様が押さえ込めてるけど、これ以上は無理だよ」


靭負は驚きの表情を見せて、吉之助と正助は反論した。


「うん、今回のことは分かってる。無理を言うことになるとは思う。だから俺も押さえ込むのに協力する」


「祐介にしてはずいぶん豪胆な作戦だな。どうしてだ?」


「ここで、もしお由羅の方が刺客を送ったとかなら、俺達だけでこっそりやってもよかったです。ですが、呪殺では、ちょっと俺達だけでは対策の立て用がありません。10日間の間に、いつ、どこで、何が起こるか分からないんですよ」


「それは確かにそうだな……」


「でも今回のことはできれば斉彬様と久光様には知られたくないんですよ。あの2人はとても、純粋で、繊細です。2人とも、お由羅の方がそのようなことまでしたと思えば、傷つくでしょう」


「そうだな。2人とも本当にいい人だもんな。久光様だって、十分尊敬できる人だ。柔軟な思考を持っておられるし、斉興様に逆らえないだけで、頭もいいしな」


「なるほどね~。これで、4人しかいないと、私達がずっと斉彬様の側にいることになるもんね~。それは斉彬様に疑われる可能性があるもん」


「斉彬様くらいの方だと、呪殺のことを知っていて、気づかれる可能性もある。でも、毎日違う人がいれば、そこまで変じゃない。理にかなってるな」


3人も祐介の案に乗ることにした。そのためには、まず今回のことを説明した上で、強硬派を抑えて、協力を仰がなければならない。まずはそれが大きな課題であった。





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