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第10回 理想と暗躍

「薩摩の海は綺麗ね。久光、祐介」


「はい」


「そうですね」


最後にその日は海を見に行った。


日が沈みつつある海に夕焼けが映えて幻想的な光景が広がっていた。


江戸時代末期はまだ大気汚染が問題になることはない時期であり、空気も澄んでいて自然も豊富である。


今後世界は人間にとって便利になる代わりに、どんどん汚れていく未来を祐介は知っている。

この世界に来てから、綺麗な水や空気に触れていて、それが失われることは少し悲しくもあった。


祐介は、機械として使うのはスマートフォンくらいで、しかも通話とメール程度。


テレビ、漫画やゲームも話のタネになるように付き合いでやる程度。


この時代については、衛生面で多少不便を感じつつも、特に困ることは無かっただけに、十分便利に暮らせるこの時代をそれ以上にすることはないとも感じていた。



「薩摩は200年以上前から江戸から目のかたきにされてしまい、自由なことができなかった。だけど、私は改革によって、薩摩を守っていきたいと思っているわ」


「姉さま、私もそのとおりだと思います」


「俺も正しいと思います。守るためにはあえて変化をしていかないといけないです」


久光も祐介も斉彬の意見に賛同する。


祐介も斉彬と1日過ごして、いつのまにか、斉彬の高い志に触れて、元の世界に戻るとかそういうこと関係なしに、自分に良くしてくれた薩摩を守りたいと思うようになっていった。



「それで、姉さまは今回のフランスの行動にはどう思われていますか?」


「そうね……、案はあるけど、私ばかり考えていてもね。2人とも何かあるかしら?」


斉彬は2人に意見を言うよう促した。


この時点で2人に自分の部下ではなく、同じく統治者としての期待をこめていた。


「そうですね。琉球大使との情報交換をして、話し合いの席を設けるのがいいのではないでしょうか」


「祐介はどうかしら?」


「外国の人間は言葉が違いますよね。大砲を威嚇でもいいので作ってけん制するのがいいんじゃないですか?」


久光と祐介の意見はどっちが今の時代の人間か分からない意見を出した。


「2人ともどうしてそう思うのかしら?」


「はい、目的が分からなければ行動はできません。それに薩摩に来ているのですから、ここで対応を間違えれば江戸にまで被害が及びます」


「フランスの要望について、靭負さんから聞きました。完全に日本を下に見てます。話し合うにしてもまずは対等な立場になるべきだと思いました」


祐介の意見は英二の考えを強く受けている。


からかわれても負けてもいいが、舐められてはいけない。舐められるというのは当人の対応が間違っているのであり、改善が必要である。



「2人とも、私の考えは祐介に近いわ。大砲をたくさん作って、対抗できることを示したほうがいいと思う」


「お言葉ですが……」


その3人の会話に、お目付けの人間が声をかける。


「言ってみなさい」


「大砲をたくさんつくるなど、江戸の幕府に謀反の疑いを持たせることになってしまいます」


「それについては、既に老中安部正弘殿に話をつけてあるわ。薩摩に来た異国船への対応については、私に一任するとのことだったわ。それでも心配だったから確認をしたけど、むしろ予算も頂いたから、何も問題ないわ」


さすが斉彬。薩摩は江戸にかなり警戒されているのにも関わらず、武力を強くすることを賛成させるとは、交渉力の高さがそれだけで伺える。


これを言われては、何も言い返せない。江戸が予算に協力をしているのであれば、それをやらなかった場合はかえって問題になる。


「…………」


「久光? どうしたの?」


「私はそこまで考えが至りませんでした。姉さまはもちろんですが、祐介殿も博識でいらっしゃるようだ。やはり、多くの人間と接されているほうが、考えも深くなるのですね。お恥ずかしい限りです」


久光は祐介が斉彬と同じ考えに至れることに、多少ショックを受けているようだった。


「気にしなくていいわ。何度も言ったでしょ。あなたは知識はあるんだから、経験を積めばいいって。それに今回はたまたま祐介の意見が私に近かっただけで、逆なこともこれからあると思うわ。それであなたは、祐介を劣っていると思う?」


「いえ、そんなことはありません」


「なら、心配しなくていいわ。それに久光の意見は、私の考えた作戦の進み方次第では十分有効な考えで、間違ってはいないわ。だから、これからも自信を持って意見をちょうだい」


「はは!」


「祐介の意見は驚いたわ。でも同じ意見を持ってくれている人がいたというだけで、自信が持てるもの」


「俺はなんとなくそう思っただけですから。対等にならなきゃ話にならない思っただけです」


「ふふ、じゃあ2人ともよろしくね」


斉彬は弟と付き人の2人に微笑んだ。


少し後、江戸にて


「斉彬が久光を家来のように扱って、薩摩中を連れまわしている上に、新しい付き人の意見ばかり重要視して、久光をないがしろにしている?」


お目付け人からの報告に、お由羅の方はかなり怒っていた。


「さすが斉彬だな。あの美貌では誰も逆らえまい」


「何をのんきなことを。それでは久光がかわいそうではありませぬか」


「斉彬と久光は仲は悪くないのだ。そんなに気にすることもあるまい。それに、姉と弟ならそういうこともありえるだろう」


そう言って、斉興は部屋を出て行ってしまった。


「久光……、かわいそうに。もしこのまま斉彬が間違って藩主にでもなってしまったら、女性に藩主を奪われたという屈辱を受けることになるわ……。斉彬さえいなければ……」



薩摩と比べて、江戸ではどこか不穏な空気が流れていた。

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