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プロローグA 佐藤英二の殺人剣

佐藤祐介は17歳の高校生である。


見た目は少し大柄の男子であり、容姿や学力で優れているというわけでもない。


ただ、彼には剣道という特技があり、小学生になったころからやっていて、すでに10年以上やっていることになる。履歴書に書いたり、面接で答えるのに困らないいい特技だ。


そして、継続していることももちろんだが、彼には実力も伴っており、剣道の世界ではそこそこ名前が知れている。


彼は中学の全日本大会を3連覇し、昨年のインターハイは優勝。


そしてなにより、彼の所属する剣道の道場がとてつもなく有名なのである。


彼の祖父であり、剣道の世界では生きる伝説とまで呼ばれる佐藤英二。


この平成の世の中に殺人剣の思想を持ち、生半可な覚悟で剣を握るものには血肉を砕くこともいとわない。


そのあまりの厳しさのためか、彼の門下生は10人にも満たないが看板は非常に重かった。そんな彼は既に90を超えていて、技術面は伝説のレベルとなっているが、体力の衰えは隠せない。


そんな彼の後継者はどうなるのか、というのが最近の英二への興味である。


彼の門下生には、50歳で八段を持っているものも2人おり、そのどちらかの可能性が高いと思われていた。


ちなみに祐介が持っている剣道の段は三段。


日本一とも言われる道場に所属しているのだから、もちろん実力は同じ門下生に劣らないが、剣道の段位は単純に強ければいいというわけではなく、年齢や剣道の年数の制限がある。


祐介はまだ17歳で最年少であり、これだけは仕方のないことであった。


「祐介、祐介よ」


今日も道場が終わり、残っているのは英二と祐介だけ。


現代に生きる武士とまで言われている英二だが、孫である祐介には少し肉親らしい態度を見せる。


もちろん剣道をしているときは肉親であっても手加減はない。


祐介のほかにも、4人孫がいたが、全員彼らの親、つまり英二の子供に反対されて、長くても1年続かなかった。


それもあってか、やや英二とほかの家族の関係はギクシャクしている。


それが唯一異なるのが、祐介なのである。


祐介ももちろん、手加減されず、始めたばかりの頃に骨折したこともあるし、未だに暴力、怒号をもらうことも少なくない。


だが、祐介は剣道が好きであった。そしてややいじっぱりでもあり、1度はじめたものをやめるのは敗北したみたいで嫌だったのである。


そしてなんだかんだで2、3年も続けば簡単にはやめられない。そしてどんどん入れ替わる少数精鋭の中にもまれて、ずっと剣道を続けていた彼に同世代の敵はいなくなった。

本来大会で負けなしなら、慢心したり、やる気をなくしたりしそうなものだが、門下生の中では、彼は1位ではない。10人前後の門下生が入れ替わり常に強い門下生が入ってきて彼の壁になる。そして、彼はどんどん強さを求めるのである。


「英二じいさん、どうしたんだ?」


彼は普段から英二を英二じいさんと呼ぶ。既に祐介が英二の孫であることは知られているし、肉親であることを理由に英二が手心を加えるわけもないので、特に呼び方の区別はしていなかった。


「お前の剣はどんどん強くなっている。実に喜ばしい」


「ああ。成長を実感できる。次のインターハイも間違いなく優勝できる」


「ふむ、剣道ばかりにかまけてはおらんか。厳しくしているわしが言うのもなんだが」


「ああ、勉強も平均と少々程度にはやってるし、友人もいる。好きなテレビは録画して、休日に見ている。ちょっと女子と話が合わなかったりして、彼女だけはいないけど」


「ならばいい。剣の道と人の道は違うからな。お前はそれをよくわかっている」


英二は殺人剣の思考を持つ。究極に殺人剣を極めるのであれば、常日頃からその姿勢を保つことも必要だろう。


だが、今の日本は現状は平和であり、仮に戦争を行うとしても剣は主流の道具にはなりえない。


だからこそ、殺人剣の思考は現代の日本では似合わない。


「日本、いや今の世界で殺人剣は必要ないと思っておる。友は既に無くなり、今の世界には昔の戦争をしるものはいない。おそらくワシが死ねば殺人剣の思想を伝えられるものはいないだろう」


「そんなことないんじゃないだろう。清水さんとか、服部さんとか英二じいさんの思想そのままじゃないか」


「いや、あいつらは厳しいが、剣を武器には使おうとはしない。言葉では厳しいが行動はしない。お前もしないだろう」


「まぁ、やりたくもない。偶然そうなるのは仕方ないし、そうなる覚悟もできてるけど」


彼の強さは覚悟の強さ。自分の剣が相手にどのような影響を与えるのかを覚悟して使っている。


スポーツにおける精神面の成長だとか、お互いに強くなろうとか、そういうことではない。ただ、目の前の敵を倒し、その結果相手が二度と剣道ができなくなろうが、怪我をしようが気にしない。それが彼が受け継いだ剣道である。


もちろん普段の彼は温厚で、剣道をするときだけだが。


「ワシは戦争で剣を使って人を何人も殺した。だから、剣をつかって人を傷つける覚悟もある。だが、今剣で人を殺したことがあるとすれば、それこそ犯罪者だ。その点がが違う」


英二はしみじみと語っていた。


「じゃあ英二じいさんは、殺人剣が無くなってさみしく思うのか?」


祐介は英二がいつもより多く話していることを感じ、そう問いかける。


「いや、殺人剣ではなくなっても、ワシの剣の道さえ生きてくれればよい。佐藤道場がこのままの状態でい続けてさえくれればいい。だが、不安なのだ。だから、お前には伝えておきたい」


「何で俺に? 清水さんか服部さんでいいじゃないか。あの人がこの道場つぐんだろ」


清水さん、服部さんとは、祐介と同じく入れ替わりの多いこの佐藤道場で、長く席を置いている実力者。世界大会でも好成績を残している。八段持ちの2人である。


誰の前でも強気でいる英二が年齢どおりの弱弱しい姿を見せたことに驚いた。


彼が横になる姿すら、誰も見たことは無かったのである。


「お前はワシの血筋で唯一剣の道に進んでくれた。そして佐藤家の人間だから、今後も続けてくれる可能性は高い。学生生活と剣道を共有できる器用さも持っているしな。お前には佐藤流をずっと続けてほしい。どんな形であっても」


その日を最後に、英二から言葉を聞くことはなかった。その日の夜、英二は急死したのである。


こちらの作品は、既に全話投稿済みです。


1話3000文字前後で、30話、約90000文字の内容で、1日3話投稿、10日間の連載を予定しております。


よろしければお付き合いください。



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