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魔法少女の鎮魂歌  作者: みにぼぶ。
0章 それは出会いの始まり
9/13

0-7 模擬戦1

『各自、戦闘準備。十分後戦闘開始、以上』


 携帯電話の画面に浮かんだ文字列を読み、静かに頷いて画面から目を離す。ホワイトは白いマントの内側に再びポケットの中に携帯電話を納めては視線を外し、建物の影から路地を覗く少女を見据えた。


「さてさて……どうなるかなぁ。普通に考えて正面から突進は完全な悪手、かといって少数奇襲なんて効き目無さそうだしなぁ」


 口元に手を宛てながら落ち着き無さそうに左右に体を揺らし三角帽子の先を揺らしている。彼女の名はフラタニティ、今回ホワイトが共に行動する事となった魔法少女の一人だ。とはいえ彼女の事は詳しくは分からないし、何故カーレッジが彼女と自分で組む事を推奨したのかも不明である。嫌われてしまったという訳ではないのだろうか。

 そんな疑問に思考を乱されている中、ふとフラタニティは動きを止めて振り返った。


「――で、なんで貴女と組む事になったかだけど、私が頼んだんだよねぇ」


「え」


 何故、問おうとしたがフラタニティは何かを企むような妖しい笑みを浮かべて脇を閉め口元に人差し指を宛てている。


「静かに。これはちょっとした秘密の会話なんで」


 口を閉ざす。彼女の目的が何を意図するものなのか、どういう理由があるのか。それ以上に――彼女の赤色を宿す瞳は笑っていない。怒りを宿しているわけでもないとは思うのだが、不穏な気配を向けて来ている。

 僅かに瞼を細めたが、気付いたかのように片目を閉ざして「そう固くならないっ、怖い話しようってワケじゃないしぃ」と微笑み――「多分」と曖昧な言葉を残した。


「………、私に話?」


「なに、大したことじゃないよ。――カー姉ぇに何した?」


「――」


 瞬間、半透明の青白い刃が眼前に形成されていた。ホワイトはそれに咄嗟に反応する事が出来ず、


「あんな他人に執着するカー姉ぇ、初めて見た。ねぇ、何した?」


「何、って」


 フラタニティに笑顔はない。先程まで浮かんでいたものはまるで気のせいかのように跡形も無く消えている。


「あれからずっと気が抜けたみたいになってんのよね。あの夜の話は何も言ってくれないし、だとすりゃあ……あとはあの時制止の声を振り切って逃げた貴女に問題があると見たワケ」


 ホワイトは遅れながら跳び退こうとするが、半透明な刃左右に、さらに枝のように分岐して全方位を取り囲むように刃を伸ばしていた。それはまるで檻のように、僅かにでも動けば串刺しにしようとするかのように。

 睨み付けてきたカーレッジの顔を思い出す。とても彼女の気が抜けていただとか、気力がなくなっているだとか、そんな雰囲気は一切感じられなかった。ならばフラタニティが一方的な難癖を着けて来ていると言うのか。


「……あの時は、」


「カー姉ぇは待ってって言ったよ。貴女は見捨てた」


 見捨てた、その言葉が頭の中に響くような気がした。ホワイトは表情を強張らせ、目を見開く。

 あの場には敵は居なかった。もう危険はない、増援を要求され、それに従った。

見捨てたわけでは、断じて。


「見捨てた、つもりはないよ。あの場なら君達も居た、これ以上……あの子に無理をさせる理由があった?」


 断じて無い。あの時ホワイトは確かにカーレッジの制止を聞き入れなかったが、カーレッジは明らかに魔力を多量に消費し、無理をした上であの場に留まっていたのは分かった。

 だから、咄嗟に否定する為の言葉を発するつもりで――抑えていた本音を発した。思わず目を開いて口元を抑えようとしたが、それよりも早く。半透明の鋭利な槍がその姿を薄い緑色の粒子となって砕け散った。


「――え?」


「あっははー……うん、ごめん、ぶっちゃけそれが聞きたかっただけなんだけどね?」


 悪びれた様子も無く謝罪の言葉を告げるフラタニティは帽子越しに後頭部を抑えて悪戯に失敗した子供のような笑みを浮かべて瞼を閉ざし身を軽く反らしている。引き攣っていた表情が微かに驚きに染まり、瞬きをして見据え続けるも、彼女の表情にかげりの一つも見当たらない。

 初めから、そんなつもりは無かったというかのように。


「ふふん。カー姉ぇったら妙に貴女の事を気に掛けててさぁ。けどこの前置いて行かれた事が引っ掛かって自分で聞く勇気がなかったらしくてね。あ、これオフレコでよろしく。言ったら私が殴られちゃうしぃ」


 殴られるなんて危惧は一切していないかのような余裕の笑みを浮かべるフラタニティは余裕そうに身を左右に揺らしてから腰に組んでいた手を外して緩く両腕を左右に広げた。


「ねえねえ、カー姉ぇの事嫌いだったりする?」


「……何を」


「いやぁ、嫌われたかもしれないって思い切り凹んでたからさぁ?ねえ、実際どう?」


 話の繋がりが分からない、彼女は何を言っているのか。そんな戸惑いに対して何の気にも留めた様子も無く一歩、二歩と踏み込んで顔を覗き込んでくるフラタニティ。


「わかるよ?わかるわかる、実際あの人ちょーっとお節介が過ぎるっていうか馴れ馴れしいっていうか、ちょっと気を許せそうな相手にはすぐ近付いて行くちょろ姉っていうか、うんうんわかるんだけどさぁ」


「ちょ、っと……待って。私、一言もそんなこと」


「あれ?言ってない?そっかそっか、ならやっぱ苦手だったりする?あー確かになんか少し上から目線だからねぇでもあれ高圧的なんじゃなくて不器用なだけっていうかなんていうか」


「待って、あの……それを言うなら君の方が!」


 戸惑う。一体彼女は何なのだ、早口で一方的で自分の言いたい事を羅列するように並べていく。此方の答えなど初めから求めていないかのような物言いにホワイトは声色を、いつぶりかに強めてフラタニティを否定するような言葉を吐こうとして、慌てて口を閉ざした。その様子を少し驚いた様子で見据えていた彼女は、身を離してお腹を抑えると笑いを堪えるように肩を震わせて声を零していた。


「ぷはは……あー、そうか!そりゃそうだ、うん、ごめん、そうだろうね。でもそう言ってくれるって事は嫌いじゃないってコトでいいんだよね」


「当たり前――……あ」


 何を、馴れ馴れしい事を言っているのか。自らの言葉を上手く止められない、いつもならはぐらかしてその場を逃れるというのに。彼女の妙な積極性に乱されているのだろうか。


「――それ、後でカー姉ぇに言ってあげてくれる?というか多分これが終わったらあっちから来るからさ、是非話し相手になってあげてほしいの。ダメ?」


「………、考えて、おく」


「んー、まぁ今はそれでいいや。……そろそろ時間みたいだし」


 フラタニティが諦めた様子で溜息と笑顔を薄めると、殆ど同時のタイミングだろうか。携帯電話が再びバイブレーションによる振動を伝えて来る。それは紛れも無く、模擬戦開始の合図だ。なぜなら――それと同時に、路地の先にある広場にて激しい衝撃波が襲って来たのだから。

 ホワイトとフラタニティは衝撃波に煽られながら建物の影に隠れ、その路地から広場の様子を目を細めて凝視する。


「何、が……」


「突っ走ったんでしょ、どっかの誰かさんが!」


 戸惑うホワイトに対して楽し気に微笑むフラタニティは、広場を指差した。その先に見えるのは――赤い焔が立ち上る、戦場と化した広場の姿だった。


****************


「――やはり貴女がいらっしゃいましたか、ハイスピード」


 激しい魔力の粒子が、電撃のように四方八方へと飛び散っている。鋭く放たれた空中からの蹴りを軽々しく右腕で受け止めている少女は、金色の長髪を風圧吹き乱されながらも目元だけを隠す仮面からは真っ直ぐにその蹴りの主を見据えている、ブレイブの姿。しかし焦った色は一つもない、その邂逅は全て想定通りであるかのように。

 そんな彼女の腕にぶつけた足に力を籠めたがその腕が大きく右へと振り払われるとそのまま蹴りを放った少女は宙を舞って薄汚れたコンクリートの地面を削り砂煙を上げながら片手を地面に着き、強気な笑みを浮かべつつも額から冷や汗を浮かべた金色のセミロングの少女。左右に跳ねた髪も動きに合わせて襲ってくる風に煽られて揺れていたが、動きが止まればまた元通りの髪型を取り戻した。


「ハッ、奇襲でさっさとやられてくれれば良かったのになぁ……やっぱこんなんじゃ足りないか!」


 振り返るブレイブは武器を持たない。ただ両手には淡く白い光が纏って居て、決してただ素手で防いだわけではないとわかる。彼女は腕を魔力で補強しているのだ。

だがそれは今、地へと弾き飛ばされたハイスピードも同様であるはずで、ハイスピードもまた両脚に激しい魔力の蒼の粒子を纏い、炎のようなオーラを纏わせている。


「魔法少女擬きとて同様の事ではありますが……魔力を高めれば連中は真っ先に気付きますよ。その時点で奇襲は失敗しています。貴女の魔力だけ、明らかに膨大に高まって居ましたから、位置を特定するのも簡単です」


 ブレイブはそのまま武器を展開する様子はない。ルールの通り、武器を扱わないという事なのだろう。ハイスピードはそれに対してやはり『舐められている』と確信する。


「あーそう、成程、そりゃそうか……魔法少女擬きだなんて言うくらいだもんな、じゃあ――コイツはどーだいッ!!」


 一度左右に揺れながら立ち上がったハイスピード。しかし再び身を屈めると、まるでクラウチングスタートのような姿勢を取って、口端を釣り上げ、彼女の体から蒼の粒子が激しく舞い上がる。それが意図する力を見遣りながら、ブレイブは尚も表情を変えない。そんな彼女が、ハイスピードは気に入らない。


「――いくぜっ、バースト・スピードッ!!」


「……ほう」


 抉り取る。

 激しく飛び散ったのはコンクリートの破片だが、それは後方の光景。急激な加速で視界が一瞬にして変貌するが、ハイスピードの目は、体は、その速度に適応する。

 音速には大よそ及ばない。だが、人よりも、ただの魔法少女が能力を高めて動く速度よりも早く、ハイスピードはブレイブの背後に回り込み――だがブレイブは無駄のない動きで振り返り、視線で追ってくる。


(速度なら誰にも負けねえ、それが例え最強の魔法少女だろうがッ!)


 停止せず地を蹴り、コンクリートがその威力に耐え兼ねて穴を空け、破片を飛び散らせ、ブレイブの斜め右上を抜けて空中へと舞う。だがそれでハイスピードの足場が消えるわけではない。

 蒼い魔力の線が彼女の進んだ後へ伸び、彼女が進む空間には魔法陣が浮かんでいた。


「魔力を足場にして空中移動も可能にしますか……面白い技術ですね」


「面白いだけかなぁっ!?」


 蒼い魔法陣を踏み付けると同時に、足に力を入れると――九十度以上傾いた場所から再び斜めに跳ぶ。すると重力に引かれる速度に合わせてハイスピードの体が急加速。再び振り返ったハイスピードの背後へと、先程よりも早い速度で回り込み、さらに地を蹴って走るとその場にブレイブが振り返ればそこにハイスピードはいない。

 さらにハイスピードは跳び、着陸し――まるで、加速するかのように速度を向上させていく。


「壁を蹴る力をバネにするような加速、それを空中の魔法陣を用いて行っている……成程、確かにそれで貴女の速度は何倍でも伸ばす事が出来るわけですか」


 だが。


(――これだけ加速してても、まだ追えるっての!?)


 ブレイブの体が常に己に向いているわけではない。

 だが、確かに彼女の目は己の動きを捉えて離さない――獲物を睨み付ける獣かのように。


「いつまでそれを繰り返すつもりですか?魔力の無駄遣いに他なりませんし、それでは他の魔法少女達も手が出せないでしょうに」


 今回の目的は単独でブレイブを撃破する事ではない。それはハイスピードも理解している。

だが、それでも舐められた事へ、一矢報いてみたい――そんな感情が先行している。もし上手く仕留められたなら、ハイスピード単独でも擬きと戦える可能性があるのだから。しかし、しかしだ。

 これではとても、その可能性は無いに等しかった。


(ええいっ、ままよッ!)


 高速に動く世界、いつしかハイスピードの跳び回り走り回った世界には青白い線がブレイブを取り囲むように、網のように展開され残光のような魔力が残った。

 それを見てハイスピードは魔力と身体の酷使に冷や汗を浮かべながらブレイブの側面の魔法陣を蹴り付ける。途端に激しく魔力の粒子が弾け、ハイスピードは全身に魔力の粒子を纏いながらブレイブへ一直線に突き進む。


「どりゃああああああッ!!」


「どれだけ加速しようと」


 乾いた音。ブレイブへ放った跳び蹴りは、身を軽く捻り回避した彼女の真横を掠め、その直後に足首を掴まれ、世界が一度大きく回転すると、直後に浮遊感。


 つまり――投げられていた。


「――おわ」


 短い悲鳴と同時に硬いコンクリートの壁に体が激突。凄まじい炸裂音が耳に残響の如く響き、体中が複雑骨折――などという事にはならない。魔法少女は身体的な防御を魔力によって行っているもの、ハイスピードとて魔力を激しく消耗させてはいたが、最低限の防御は怠って居ない。

 それでも、高速に加速した速度のまま壁に叩き付けられれば砕け散った壁に減り込み、力なく地に落下するというものだが。


「まずは一人、でしょうか」


「……はは、なるほど、やっぱ一人じゃ無理、よねッ!」


「――?何を言っているのです」


 ハイスピードは一気にガス欠になる程に消費した魔力の影響ですぐに立ち上がる事が出来ず、地に仰向けで伏したまま、声を張り上げた。

 ブレイブはその意図を即座に察する事が出来なかった。それで、十分だった。


「HAHAHA、御見事!脚力馬鹿!!そして、チャンス到来であるっ!!」


「ウィッシュ?……なるほど、これは――」


「遅いっ、吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 ブレイブの周辺に浮かんだままの青白い魔力の線。それに視線を向けた彼女が直後、建物の屋上で腕を組み、堂々と勝気に笑みを浮かべた少女を睨み据える。赤茶で毛先が黒い、黒い鎧のような物体を手足に巻き付けた少女は、腕を振り上げる。腰に取り付けた射出するような装置からは既に何かを放った後のように白い煙が浮かんでいて、そこか伸びた線はブレイブの側面へ左右に突き刺さって居て、その全てに、真っ赤な魔力が走っている。ウィッシュ、即ち――ハイスピードが爆弾女と呼んだその理由が、今、起きる。


 ブレイブが気付き声を発そうとした途端、彼女を取り囲んでいた蒼い魔力線は全て炎のような赤へと染まる。途端に表情を引き攣らせたのをはっきりと目撃したハイスピードは、勝利宣言と共に腕を振り上げた。


「名付けて!ハイスピード・エクスプロージョン!!」


 直後。

 ブレイブを中心とした赤い色を宿した光が一際神々しく輝くと、赤の魔力粒子が激しく掠れ合い。


 衝撃波を引き起こす程の赤い爆発がその地を襲った――。

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