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魔法少女の鎮魂歌  作者: みにぼぶ。
0章 それは出会いの始まり
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0-5 デッド・リーパー初戦、リザルト

 デッド・リーパーの操る屍による襲撃から数日が経過した。

街のどこかに紛れ込んだらしい彼女の行方は分からないまま、魔法少女達に警戒を促したブルーローズもしばし音沙汰が無い。

 今までに比べて、前線に出向いた魔法少女達が警戒するように街を飛び回っている姿を見かけるようになった事からまだ擬きは討伐されてはいないのだろうが、彼女達が動き回っている影響があるからなのか犯罪や事件の件数は比例するように極端なまで減少している。


(――私達が居るよりも効果があるんじゃないかな)


 尤も魔法少女とて、変身していなければ皆日常生活を持つ人間である。誰もが同じように動けるわけではないだろうし、それに関してはホワイトも同じだ。――だからこそ、魔法少女は数が必要になる。勿論それが出来る地域も限られているし、そういった隙間がある街では、犯罪などが起きやすいらしい。

 だから、ホワイトも出来る限り動き回っていた。動く事によって少しでも犯罪や事故による被害が減るはずだから。



「――、ん」


 時刻は二十二時を回っている。白いマントに全身を覆ったホワイトは、建物の屋上から一点を見据えていた。

 人影が複数、少し離れたところに一つ。どうやら一人が複数の男女に追われているらしい。複数名は手に刃物を持っているので、少なくとも平和的な解決が行えるような集団には見受けられない。

ホワイトはそれを理解すると、その両者の間に入って食い止めようとするのだが。


「理由は存じ上げませんが」


 不意に、真っ白な灰が周囲から小さな竜巻のように一点に集まり、人の形を成す。瞬く間もなく白き灰は一人の少女を形成した。


「武器を持たない人間に武器を持って集団で追い回すというのは、些か関心しませんね」


 吹き荒れていた風が止み、少女が乱れた髪を掻き上げ、集団へと静かに呟いた。

 地上に降りたホワイトは逃げる男性が視界から消えるのを確認すると、集団に対峙する少女を背後から見た。


 黒銀色の髪で耳元まで覆った少女。橙色の羽衣のような上着は肩まで大きく晒し、袖は通しているが中途半端に背が見えている。かといって素肌が見えているというより黒いインナーが見えており、首までしっかりと覆い隠していて、見えるのは精々袖の無い二の腕程度。白黒のスカートには所々赤いラインが縫い込まれ、覗く足は赤く長い靴下に覆われて黒いブーツの中へと伸びている。

その姿は初めて見るが、灰を扱う魔法少女など暁之町(あかつきのまちには、ただ一人しかいない。

 名を、


「………黒灰のアッシュ!!」


 誰かが叫んだ。恐らく、集団の内の一人だろう。名を呼ばれた事に対して微かに肩を竦めたアッシュは、


「名を知って頂けているというのは光栄ですが……知った上で去らない、ということは、引き下がる気などないと、そういう意志の現れと見て良いのですね」


 淡々とした、しかし柔らかさを崩さないアッシュの声色。だが、物陰で聞いているだけのホワイトであってもその声は畏怖を覚えさせるかのような威圧感を纏っていた。

 その理由は、間も無く明らかとなる。


「お前さえ倒せれば恐れるもんなんか何もなくなるんだよ、このクソガキがぁっ!!」


 誰かが再び叫ぶ。同時に一人の男が小さな長方形の物体をポケットから取り出すとその上部にあるスイッチを押した。


「……!!」


 アッシュが驚いたように一歩下がる。当然だろう、彼女に向けられたのは眩い光。それこそ裸眼で直視すれば目を潰されかねないほど、強烈な。物陰に居たホワイトでさえ、アッシュの影からであってもその眩しさには目を細めて眼前を手で覆わなければもうアッシュの姿さえ見据える事も叶わない。


「掛かれぇっ!!俺達の縄張りを取り戻すんだぁっ!!」


 一斉に男達が叫びを挙げ、各々の武器を振り上げてアッシュへと切り掛かる。ホワイトは咄嗟に物陰から飛び出したが、


「大丈夫ですよ、白い子」


「え……」


 此方など一切見向きもしない、ただアッシュは前を向きながら、優しい声色で確かに、後方に居るホワイトへと囁いた。

思わず止まってしまったホワイトの眼前。強すぎる照明の中で煌めく凶刃がアッシュの体を切り裂いた。白い灰が、躍り掛かる刃によって次々に舞い上がり、ホワイトは足を止めた事を後悔し、すぐに駆け寄ろうと一歩踏み出した。


 異変は、直後に起きた。


「馬鹿な……っ!?」


 男性の誰かが叫ぶ。覇気などない、もはや戦意を挫かれ、怯えたような弱々しい声。


「『黒灰のアッシュ』……その名を知るのならもっと勉強為さるべきでしたね」


 ゆっくりとした動きでアッシュは右腕を真っ直ぐに突き出すと、親指と中指を重ね合わせ、


「『灰に成れ(チェンジ・アッシュ)』」


 指が鳴る音。直後、眩く照らしていたはずの照明が消失し、白い灰が舞い上がった。


「ひっ」


「私の魔法はこの世のありとあらゆる物を灰に還る力。……どうしましょう、私は魔法少女ですから悪は滅ぼさなければなりません。今はほら、ほんの気の迷いだったかも知れませんから武器だけを消ささせて頂いたのですが……」


 腕を降ろし、回りで腰を抜かす男性達。どう見ても、もう戦意など喪失している。

きっとこれ以上立ち向かう事などできない。

だが、アッシュはそこでは止まらなかった。


「もし、さらに悪意を振り翳すと仰るのであれば……」


 照明を灰にされ、立ち尽くしたままの男性に左腕を伸ばし、距離を詰め、やがて男の頭を掴もうと――、


「――アッシュさん!!」


 だがその腕が男の頭へと到達する前に、ホワイトは叫んだ。それは、魔法少女がやってはいけない行為だ。そう思ったから。


「ひ、ひいいいいいい!!!」


 その叫びで我に返った男達は、もはや集団行動など意識もなく一目散に逃げ出していく。腰を抜かしていたはずの者達まで壁に手を着いては必死に離れて行き。


 やがて、襲いかかってきた集団はただの一人も残らなかった。


「……あの」


 そんな静寂に残されたホワイトとアッシュ。彼女は相変わらず腕を突き出したまま背を向けていたが、彼女は未だに魔力を羽織ったままであり。


「――何故邪魔をしたのです」


静かな問いかけを耳にしてホワイトは身を強張らせる。時折居るのだ、過激な行為を迷いもなく行う魔法少女が。だから彼女もそういう類いだったのかもしれないと思い、身構える。一際魔力が高まり、ホワイトは咄嗟に守りを固めようとするが。


 その魔力は不意に、跡形も無く霧散した。、


「なんて、ちょっとした冗談だったのですが……悪趣味でしたかね?」


 緩やかに振り返ったアッシュは、銀色と金色のオッドアイでホワイトを見据えると、少女というには大人びた顔立ちで悪戯な笑顔を向けるのだった。


***********************


「……嘘?」


 その後、ホワイトとアッシュは人気のない建物の屋上で対話していた。

アッシュは先程の集団にあたかも『人体も灰に変えられる』とでも言うかのような仕草を見せていたが、実際にそんな力は無いという。


「私に出来るのは精々己に触れた無機質を一定量灰にできるというだけです。生命は勿論、建物だとか大きい物体になってくるとすぐに限界が来てしまいます」


 つまり、脅しである。自分が来た時、下手に悪事を働けば容易く灰にされてしまうという、危険性を植え付ける。そんな例が誰も知らないのは見た者が悉く灰にされてしまったのかもしれない、などと噂が一人歩きを始め、彼女の危険性を前にして悪事を続けようとする者の戦意を折る事が出来る。


「でも、離れていた照明も灰にしていた……あれは?」


「それこそ、魔法ですよ。触れずとも一定の範囲内なら灰に出来る。まあ、ちょっとした条件付きなのですが」


 苦笑いを浮かべるアッシュは屋上の柵に寄り掛かり、


「一つは私に悪意を向けていること。二つ、私の視界にあること。三つ、灰に還る限界を越えていないこと。そして四つ、私の視力ではっきりと見える範囲にあること……ですかね?」


 四本の指を立てて一つずつ折り曲げながら条件を発するアッシュ。何故曖昧な言い方なのかと問うと、「私自身まだ把握できていない部分もあるみたいで」と眉尻を下げながら微笑んだ。


「ただ、魔法的存在ならもっと条件は緩くなるんですが、それでも限界はあって、擬き戦においてもそこまで優位に動ける訳では無いんですよね」


 などとため息混じりに憂鬱を溢すアッシュは、言葉を止めてホワイトを見据えてきた。首を傾げるホワイトに対して「いえ」と瞼を伏せて首を左右に振ってから、再び金銀の瞳でホワイトへ視線を送ると、


「さて、何故私が自分の能力を晒したのか……正直疑問なところもあると思います。実を言うと、私がここに来た目的は貴女達にあるんですよ」


 銀色の瞳を瞼で閉ざしながら、金色の瞳でホワイトを見据え、彼女は言う。


「この街に潜む魔法少女擬きと再び戦う時が来た時の為、貴女達には力を付けて頂きたいのです。ブレイブや私のような魔法少女が居なくとも、相見えるように」


 告げられたその言葉は、ホワイトにとってもまだ、数日前の戦いが終わっていないことを再び自覚させるのに十分なもの。そして、それがホワイトにとっての『始まり』となる事など、この時己自身、気付いてなど居なかった。

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