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魔法少女の鎮魂歌  作者: みにぼぶ。
0章 それは出会いの始まり
3/13

0-1 呼び出された理由は

 白銀の魔法少女、白いゾンビ――ことホワイト。

 彼女は学校を終えて、動けそうな状態であれば魔法少女として活動をする。

そんな日々を繰り返し続けて、どれだけの時が経っただろうか。


「………?」


 夜景が広がる時間帯。銀髪を風に煽られ、白いマントに身を包んで夜の街を跳躍し、三角屋根の建物に着地。すると反対方向から同じように建物を蹴って跳躍し、目の前に優雅に降り立つ存在があった。


「どーも、ホワイト」


「また君か。今日は随分早く来たね」


 立ち塞がる蒼いコートを袖を通さずに羽織った黒ローブのフードを被った少女。蒼い魔法少女とホワイトは呼んでいるが、本当の名前は未だに知らない。

 さて、そんな彼女は普段であれば事件の前後、基本的には後に現れる事が多いのだが今日に至っては全く別のタイミングである。まさか事件を見付けるよりも早く、此方が見つけられた。


「少し、用がある。話、きいて?」


「……構わないけれど」


 毎日どこかで事件が起きているわけではない。所詮は見回りだ、それも個人的に勝手に行っているもの。であれば、別段少し時間を割く程度問題ではないし、それについては彼女も認識して接触してきたのだろうから。

するとやはり口元しか見えない表情の変化は分からずに、緩やかに動き始めた唇と言葉に、ホワイトは首を傾げるのだった。

 内容は、『もうすぐ災厄がやってくるから、守る為に手を貸して』(※ホワイト訳)というものだった。勿論ホワイトは断るつもりだったのだが、


「人手が足りないの。アレとたたかうには、せんりょくが、ひつよう」


 と言う。さらに追い打ちを掛けるように肩に乗っていた白い鷹のような姿をした鳥の使い魔は、


「はっきり申し上げますが、貴女の力では確かに正面切っての戦いは期待出来ません。――ですが、現状この街で集められる数少ない有力戦力として見るのであれば外す事は出来ないという事ですよ」


 などと溜息交じりのように言葉を、クチバシを大きく開いて発すると、その口に蒼い少女が手を伸ばして指先をクチバシの間に押し込んで閉じられなくさせ、鷹は目を見開いて羽を大きく羽ばたかせて暴れてから、漸く解放されて疲れ果てたように鳥の使い魔は項垂れた。


「そういうこと、言わない。協力してもらうの、わたしたち。……気をわるくしたら、ごめんなさい。でも、あなたの力がひつようなのは、じじつ……」


 蒼い少女はそのままホワイトに一礼しようとする。とすれば慌てて鳥の使い魔は肩を離れて飛び上がる。まぁ、乗って居たらそのまま落とされるので仕方ないのだろう。

 しかし、ホワイトに告げられた言葉は事実だ、戦力としては本当に大した物にはならないだろう。それでも尚必要という事は、人手不足は余程深刻という事になる。


「わかったよ、私で良ければ手を貸そう。バックアップくらいなら出来ると思うし……」


 その勧誘には、同意する事とした。実際この街にどれだけの魔法少女が滞在し、活動しているのかは分からないが自分が活動している範囲では少なくともこの蒼い少女と、もう一人別の魔法少女との接触以外に無いのだ。


「ありがとう、それじゃあ……ついでに組織にも」


「それとこれとは別」


「……ざんねん」


 とりあえずついでのように組織加入を問い掛けられたが首を左右に振って拒否。彼女には申し訳ないが、今の会話の流れで誘われて同意出来る事はない。そもそも結局何の組織だと言うのだ。

 そんな疑問にもやはり説明する様子もなく、頭を挙げた蒼い少女の肩に再び鷹の使い魔は戻って来ると、


「それでは明後日の夕刻……金曜日の20時頃に暁之町あかつきのまち、クリスタルタワーの屋上にてお会い致しましょう。あ、何かありましたらこちらにご連絡くださいね」


 使い魔は前足を出すと蒼い少女が丁寧に折り畳んだ紙を一つ取り出し、それを摘んで翼を羽ばたかせてホワイトの前へと跳ぶと慣れた様子でホワイトが差し出した掌の上に紙を落として宙を舞い、大きく一回転したかと思えば再び蒼い少女の肩へと舞い戻って行く。「わたしの、メールアドレス。なにかあれば、よろしくおねがい、します」と軽い会釈をして、蒼い少女は屋根を蹴り、側面の建物に飛び移り、一度向き直ってから右手を挙げて手を振ると、そのまま建物を飛び回って視界から見えなくなった。


「……明後日ならまだ少し、時間はあるか」


 ただ、そうなると怪我は出来ないなと考える。掠り傷程度なら魔力による治癒で、変身している間なら一日も経たずに癒えるのだが、骨折したり、先日のような蜂の巣になりかけるような怪我は回復しきれない。それは明後日の活動に影響が出る、避けなければいけない。

 ならば今日は活動を控えておくべきなのだろうが――ホワイトは既に屋根を踏み付けて跳躍し、眼前の建物の屋上へと身を躍らせて夜景の広がる街を見た。

視界の先には、聳え立つような蒼白い色と照明を持ったタワー、通称クリスタルタワーがある。東京にあるような巨大なタワーではないにしろ、こうして視界に納めて見る分には巨大である事に変わりなどない。

 だがそれ故に目印としては分かり易いし、建物の屋上を踏み越えて行ける運動神経を持てる魔法少女ならば集合場所としては申し分無いと言えるだろう。


 ならばそれまでに問題が起きない事を祈るまでだ。『災厄』への対応は、今や魔法少女にとっての最優先事項なのだから。


 さて、とはいえとホワイトは思う。人込みの多い場所はトラブルが本来起きにくいものだ。それにこの場所には複数の魔法少女が見回りをしている事を知っている。だとしたら自分の出番はあまりないだろうし、クリスタルタワー付近に近付けば一層人口も増えているだろう。

 だとすると警戒するべきはむしろ人気の少ない場所。例えば公園などは人気が少なく、帰り際に通り掛かった者達が犯罪に巻き込まれるケースも少なくない。ホワイトは建物の屋上からゆっくりと柵に近付けば手を掛けて、身軽に跳び越えて、跳躍。

 そのまま向かう先は街灯がより少ない街道へと向かって行くのだった。

 ――あった出来事と言えば、酔った社会人男性がふらついていたり、不良同士の小競り合いという程度。大きな事件が無かった事は、ある意味幸いだったと言って良い、筈だ。


************


 何事も無く――勿論一概に、完全に何も無かったとは言い難いが――迎えた集合日時として指定された頃。

宙を舞うように白い影が建物を蹴り、跳躍して目標の建物の屋上へと辿り着く。幸いな事に高所で吹き荒れるような風は無いらしく、むしろ不思議な程に無風であった。


「――」


 蒼い光が照らさない建物の影。そこには複数名の人影があり、思わずホワイトは白いマントの内側で身体を強張らせる。

別段人間が苦手、という訳ではないが自分以外の魔法少女が複数名、それも一か所に纏まるなんて事、早々には起こり得ないだろうと思っていたからだ。


「あら、白いゾンビさん。貴女も呼ばれていたのね、驚いたわ」


 不意に声を掛けられて弾かれるように声の主へ視線を向ける。

そこに居るのも魔法少女、なのだが――何やら複数名の魔法少女達が彼女の周りに立っていて、一種のグループのような印象を思わせる。

 やや口端を釣り上げたブロンド髪をセミロングのように伸ばし、左右一房ずつ渦を巻くように跳ねさせていて耳には金色の針らしき形をしたイヤリングを着用している。

そんな彼女の服装は赤茶のドレス姿、大体に胸元が開かれているが黒ベースのシャツを着ていて、そのシャツには金色の茨のような紋様が浮かんでいる。まるでその姿はどこか異国の姫のようだ。

 そんな彼女が数歩ホワイトに近づくと、値踏みするような視線を送って来て、


「ねえ、貴女も私達と一緒に来ない?一人は心細いでしょうし、私達なら互いに助け合えると思うのだけれど」


 金色の瞳を細め、微笑む少女を相手にホワイトは首を左右に振って返答した。


「誘ってくれるのはありがたいけれど、遠慮しておくよ」


「あら、どうして?一人で活動するなんて、不便なだけだと思うけれど」


 引き下がらない。こういうタイプも珍しいな、などとホワイトは思いながら視線を真っ直ぐに向け、


「私は一人がいいんだ、ごめんね」


 と、無表情染みているからなのか少し威圧的になってしまっただろうか。ホワイトの返答を聞いてブロンド髪の魔法少女は微笑んでいた表情を一変させ、睨むような視線を送って来る。


「――そう、残念だわ。精々、後悔しない事ね」


 まるで恨み言でもあるかのように吐き捨てて彼女は踵を乱暴に返して離れて行った。何か気に障る事を言ってしまっただろうかと瞬きをして首を捻るものの、そういう時もあるだろうと割り切る事にした。ホワイトは他人と会話するには、口下手が過ぎるのだ。


 ――遣り取りの直後、不意に集団とは異なる声色が聞こえて来る。それは少し離れた位置、タワー最上階の物陰で座って居る存在。


「うん、みんなそろった」


「素晴らしいですね、さすが見込んだ通りの魔法少女達です」


不意に意識していなかった方向より掛けられる声。その場にいた、ホワイトを含めて十ニ名の魔法少女達が一斉にその方向へと、弾かれたように視線を向ける。

そこにはホワイトに声を掛けた蒼い魔法少女の姿があり、周囲からは「一体いつから」「こいつ、気配がなかった」などと動揺した声が挙がっている。

それに答えるように、彼女の肩の使い魔が誇らしげに翼を広げ、


「『組織』に属する者ならば、常に魔法少女として上位の存在でなければなりません。この程度は朝飯前ですよ」


と、語り終えた後で、


「と、アイリスは言っているけれど、じっさいにはずっと、ものかげにいた」


「ちょっ、ブルーローズ!?」


周囲の緊迫感があっさり消失。なんだそういうことかと安心した様子の魔法少女達。こうなるとむしろ慌てているのは使い魔の方で、「せっかくいい感じに威厳を展開しようとしてたのになぜ!!」と、蒼い魔法少女、ブルーローズをクチバシでつつくのだが左右に揺れるだけで全くダメージが入った様子はない。


「ふような物を、いちいちやることない。わたしたちの目的は、協力してもらうことだから」


そう言って使い魔を、腕を振って払いつつ、手摺に腰掛けていたブルーローズは軽々しく飛び降りて綺麗に着地すると、灰色のフードを脱ぎ去った。


「たぶん、ほとんどの方が初めまして。ブルーローズ、です。本日はおあつまりいただき、とても、ありがとうございます」


紫色でショートカットの髪を、お辞儀に合わせて揺らすブルーローズ。後頭部に着けた六本の角のような髪飾りは、フードを持ち上げて少しばかり身長を増やしていたらしい、ということは目に見えて分かった。片目が髪に隠れて見えないが、瞳の色は透き通った空色で蒼い魔法少女という表現は強ち間違いでもなかったように思える。


「このたび、みなさんにあつまってもらったのは、さいしょに言ったとおり、この町にせまってる『災厄』をやっつけるためです」


度々『災厄』と称される存在について、それは魔法少女と敵対し、人類において仇為す存在の総称である。またの名を、


「通称『災厄』、魔法少女擬きと呼ばれる人型の怪物……殆どが僻地に追いやられたって聞いていたけど?」


魔法少女擬き。災厄と称される人型の怪物で、人類における第二の驚異である。

そんな話題へ、一石投じるように言葉を発した、背を覆い隠す程度の黒いストレートロングヘアの少女が一人、右手を前に出て問い掛けた。黒いベレー帽子を被り、黒銀のブレストプレートを身に着け、紫色のロングスカートを履く姿。鎧から赤いベルトのようなもので括り付けられた紫色の袖の先が黒い翼のように手の甲側でのびていて腰に手を宛てる動きに合わせて微かに揺れた。紫色の、凛とした目付きでブルーローズを見据えていて、しかしながら敵意というものでもない真っ直ぐなもの。

一瞬ブルーローズがたじろいだように見えたが、表情変化が全く無いのでわからない。


「ん……そう。ほんらい、人の住まないような町にひそんでる。でも、遠出してた魔法少女が……たたかいをいどんで、こっちの方に、にげてきてる」


数人の魔法少女が息を呑む音を聞いた。中には表情に怯えの色を浮かべている者さえいる。


「魔法少女擬き一匹に対して魔法少女十人程度と同じ戦力だって話だったけれど……この面子では少々頼りないのではないかしら」


 赤ドレスの魔法少女は口元に手を宛て、わざとらしく肩を竦ませながた軽く溜息を零して見せる。挑発だと見てわかる行為――ブルーローズが突然現れた時とはまた異なる緊迫感のある空気が周辺を包み込み始める。


「はっはっはっ…ハッ!マリーゴールドサンってば本当の事を言うんじゃないやい。あんた含めて頼りないのは見ての通りだってぇ」


 そんな空気を正面から殴り壊すように高らかな笑いと嘲笑染みた笑みを浮かべる金色のセミロングで左右に後頭部の髪が跳ねるような癖毛を持つ魔法少女が身を屈めて、マリーゴールドと呼ばれた赤いドレスの魔法少女に向き直り、指先を突き出した。


「………ハイスピード、口には気を付けなさい。足が速いだけの貴女なんて私達の敵ではなくてよ?」


 挑発的な言葉に対してさらに煽るように目を細め、口元を覆いながらも声の圧力を強めてハイスピードを呼んだ魔法少女を睨み据える。左右に丈の長い青色の上着を羽織った姿で、腰付近から左右に分かれるように広がっている事から軽くマントのようにも見え、真っ白な包帯のようなソックスを履いた細い足を折り、腰を捻って身構える仕草をする。


「おやおやおやおや――この距離、この射程でお前が私の速さに反応出来るってぇ?」


「ちょ、ちょっと、二人ともやめてくださ――」


 険悪な雰囲気が頂点に近付く。その様子を見るに堪えなくなったのか、緑色の髪を左右に分けた前髪の少女が割って入ろうとする。彼女の見た目は紫色基調で白いハートのような模様が胸元に縫いこまれ、その中央には赤いペンダントが取り付けられているワンピース姿。赤いマントを靡かせて二人の間に割って入ろうとする辺り、彼女もかなりの度胸があるなと思いつつ、マリーゴールドもハイスピードも気にせず動こうとして。

 急に甲高い笛の音が響き渡り、皆一斉に悲鳴を挙げて両耳を塞いだ。


「――けんか、だめ」


 その音の主は、ブルーローズだった。その口元のそばには掌が、そしてその掌には白い笛が握られている。


「……貴女に邪魔をする権利はないと思うのだけど」


「ある。だって、ここはわたしがさそって、来てもらったあつまり。ルールは、わたしがきめる。だから、けんかはだめ――たたかう前から、同士うちなんて……わらえない」


 無表情のままなのでどこまでが本心なのかは分からない、というのが皆の意見なのだろうけれど。

――わずかに潤んだ瞳を拭う様子を見ていた者が居たなら、少なくとも本心からこういう状況は望ましくないと思っていたのだろう。


「わかった、わーったよ。ただの冗談だってば」


「はぁ、どうだか。野蛮な男女はこれだから……」


 渋々背を向けたハイスピードは肩を竦めつつ、それでもまだ突こうとする様子のマリーゴールド。だがさすがに再びブルーローズに睨まれると顔を逸らして口をつぐんだ。

とりあえず魔法少女同士の争いはこの場で起きないで済みそうだ、一同は安堵したように溜息を零すも、ブルーローズはさらに言葉を続ける。


「――じゃあ、いよいよ、ほんだい。だけど、マリーゴールドの言う事も全部まちがい、って事もない、よ」


 どういう意味か、とハイスピードが視線を送るや、ブルーローズに追い払われていたアイリスという名の鳥の使い魔が舞い戻り、クチバシを開いた。


「貴女方では実力不足、それは否めません。何しろ擬きとの戦いを知っていても経験した方は居ないでしょうからね。なので、実際前線に出るメンバーは、既に別動隊として郊外に出陣して頂いております」


 どうやらここに居る者達とは別の、魔法少女達が外に向かったらしいという発言。それを聞いて安堵した者、落胆した者で反応が分かれたのだが、勿論ホワイトは安堵した方である。何せ擬きとの戦いは熾烈しれつを極める為だ、下手をすれば犠牲者が出る事だってある。 そんな戦いに実力の伴わないホワイトが正面切って挑むなんて、出来る筈がないのだから。


「だから、みんなは……町でたいき。南町の方向……そこで、さいしゅうぼうえいラインを、担当してもらう」


「後ろを守ってくれる者達が居れば前線も安心して戦えると言う訳です。それが気休めでも、あると無いとでは違いますからね。前線メンバーにはそれだけの負荷を掛けていますから、せめてもの配慮なのです」


 ブルーローズ、アイリスと言葉を発してからふと疑問に思ったのか、赤髪を短く切り揃え、耳を隠さないようにするかのように、左右に一房ずつ跳ねた少女が片手で大きな紫色の三角帽子のつばを持ち上げながらもう片方の手を挙げて、袖の短い黄色いコートと白いフリルのついたスカートを揺らしながら軽く飛び跳ねて「はいはい、しつもーん!」と元気の良い声を挙げた。


「その前線メンバーってのは何奴?ここに居なくて、私達よりも実力がある人達ってことー?」


 それについては他の魔法少女達も疑問に思うところだったらしく、再び視線がアイリスとブルーローズに注がれる。

当然それが質問される事がわかっていたかのように、ブルーローズは五本の指を立てて腕を突き出した。


「うん、せいかい。聞いたこと、あると思う。――ブレイブ、シルク、オズマンサス、コウアリション、アッシュの五人」


 今度こそ本当に魔法少女達はどよめきを隠さなかった。何しろ今名前の挙がった五人は暁之町において名を知らない者は居ないという程の実力者。特にブレイブ、オズマンサスはその戦いぶりから異名すら授けられる程の存在である。擬きがどれだけ強くても、この五人が揃っているのなら不安なんてどこにあるのかと思う程度には、強力な前線メンバーだ。

その安心感を確定させるようにアイリスが口を開く。


「その他にも実力者と称して申し分のない魔法少女が三名、人数としてはやや足りないように思えますが……まあ、このメンバーであれば多少のマイナスは問題無し、と言っても過言ではないでしょう」


 だがそうなると、益々自分達を呼んだ理由が分からない。しかしその疑問を口に出すよりも早く、ブルーローズが言葉を遮るように告げた。


「――だから、あくまで万が一。人数が少ない分、上手く通りぬけてくると、たいへん」


 つまり、本当に保険という意味なのだ。だが確かに、それならば実力には見合っているのだろうとも思う。もしも戦いとなった時、前線のメンバーが追い付いてくるまでの時間稼ぎが主な役割となるのだろうから。

 漸く全ての魔法少女が納得したように、各々言葉を呟き、あるいは会話をしている声が聞こえてくる。


「しつもん、もういい?そろそろ、ブレイブたちがぶつかってると思う、から」


 各自は一度顔を見合わせるが、特に誰も手を挙げるような動きは無く、質問はこれ以上でないらしかった。それを見届けて、アイリスが再びクチバシを開く。


「それでは、指示を出しますね。まずマリーゴールド率いる四人の計五名は同じ地区が戦いやすいという事なので、南西の街道を中心に警戒をお願いします。次にハイスピード、ウィッシュは南東の廃棄工場付近、そしてカレッジ、アフェクション、フラタニティ、ホワイトは南ゲート付近へ配置をお願いいたします」


随分人数が片寄り、アンバランスなように聞こえるが、ブルーローズはそれにも補足するように人差し指を上に立てて、


「ホワイトは、たぶんこの中で一番、よわい。カバーやフォローがとくいな人たちに、まかせる」


「というのがブルーローズの見解だそうです。ハイスピードとウィッシュには難しい役割でしょうし、かといってマリーゴールドの班では息を合わせるのも難しそうですからねえおっと怖い」


 ブルーローズに同意するようにクチバシを動かすアイリスに対して鋭く睨み付けるマリーゴールド。慌てて自らの顔を翼で隠すような真似をして見せていた。

 そんな雰囲気、もはや決定事項といった空気の中で一人動揺するホワイトがいた。


(私が、集団行動?)


 苦手、というより今まで積極的に避けてきた事柄だ。それを唐突にやれと言われて、果たして出来るのだろうか。

 足を引っ張れば傷を負うのは多分、自分だけでは済まされない。――とても、今までのようには動けないのではないだろうか。


 そんな不安を抱くホワイトに対して、ふと肩を叩かれる感覚に振り替える。そこには黒髪の魔法少女が柔らかく笑みを浮かべて立っていた。


「ホワイトって貴女よね?私はカーレッジ、今回はよろしくね!」


 と。己とは対照的なまでに明るい声色と笑顔で言ってくるカーレッジ。

 彼女の様子を伺う余裕も内面には持っておらず、ホワイトはつい視線を逸らし、いつもと変わらない表情変化の薄い様子で、


「……、よろしく。それじゃ」


 短く返答すると、握手を求めるような手を見て、応えることも出来ないまま踵を返して背を向け距離を取ってしまう。今までなら、無表情で断ればいいだけだというのに、今回は胸の高鳴りのようなものがそれを許容してくれなかった。

 不意を突かれたように目を見開いたカーレッジの姿が見えたが、もはやその足を止める事は出来ない。


「え、あ、ちょっと!?」


「先、行ってるから」


 白いマントに身を包んだまま、タワーの床を蹴って飛び降りる。すると止んでいた風が一気に吹き寄せて来たので、恐らくあの周辺にはブルーローズが魔法を使って結界か何かを敷いていたのだろう。

 頭上から一瞬呼び止めるような声が聞こえたが一瞬にして遠退き、ホワイトは着地の為に魔力を足先から全身へ展開。急激に減速して近くにあった建物の屋根へと緩やかに着地すると、迷い無く跳躍して別の建物、また次の建物へと飛び移る。


 目的の場所に向けて進む。乱された鼓動を抑える為に片方の手をマントから引き出し、緩く触れるように抑えながら。


(……あんな顔で挨拶されたの、初めてだ)


 初めての経験に戸惑いを浮かべながら、ホワイトは一人、意識を迫る戦いの時へと傾けながら夜の町を駆る。

この時はまだ、ホワイトに理解できなかった。

その鼓動が意味する、事柄を。

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