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Chapter.2-Good cruising

pixiv小説に掲載済みの第2話です。

 ーーー銃娘。

 数年前からこの世に存在を現し始めた、「銃でありながらも人である」という不可思議な存在。


 何故生まれたのか?どうやって生まれてくるのか?

 そのほぼ全てが謎に包まれている。

 唯一分かっている事と言えば、彼女達は生まれながらにして戦士としての能力を備えていることが多く、人間よりも死に難いという事だ。

 そういった理由から、近頃は軍事目的での銃娘研究も進んでいる。


 フェリシア達の所属する「Specter Hounds」…。

 この隊もまた、そんな摩訶不思議な銃娘達の集う民間軍事会社であった。

















Chapter.2-Good cruising
















-Specter Hounds本部 作戦会議室-



「…と言うわけで今回の仕事は、とある人間の抹殺だ!」


 この部隊の隊長であるシュガーマンは、声を高らかにしてそう言った。

 ブリーフィングを受けている銃娘達は、皆一様に渋い顔をする。


「おいなんだ、確かにしみったれた汚れ仕事だけどな…今回の仕事は払いがいいぞー…上手く行きゃあ、1人頭7万ドルになる!」


 渋い顔をしていた面々は、7万ドルという言葉に一気に沸き立つ。

 そんな中1人、眉間に皺を寄せる銃娘がいた。

  ミーガンである。


「…なあおい主よ、たかだか人っ子一人の殺しでなんでそんなに払いが良いんだ?いかにもヤバそうじゃねえか」


 シュガーマンは、その言葉を待っていたと言わんばかりに立ち上がり、先程よりと声のトーンを落として喋り出した。


「ミーガンの言う通りだ。今回の仕事はちょーっと怪しい。いやちょっとどころじゃあねえ、ここ数年で受けた仕事の中じゃあトップクラスに怪しいと踏んでる」


 一同がどよめく。

 浮き足立った空気は、最早そこには無かった。


「ちょ、ちょっと待ってよ…じゃあなんで受けたの?いくら払いが良かったとしたって…」


 訝しげに言葉を紡いだのはファルケという銃娘である。

 赤い縁の眼鏡の位置を直し、金糸のような髪を弄びながら不安げに眉根を下げている。


「断りようが無かった…とでも言っておこうか…。まあ、いずれ理由は話す」

「おい、そんな怪しげな仕事…」

「ヒヒッ、やれと言われてるんダ、やるだけだロ、ミーガン…ヤバイのはいつも通りダ」


 無造作に伸ばされた黒い髪を揺らしながらケタケタと笑っているのはティルダだ。

 カーキ色のハーフパンツに、何故か上半身は黒いスポーツブラだけという妙な出で立ちをしている。


「お前、そう簡単に言うけどな…」

「ミーガン、ティルダの言う通りだよ。マスターが断れなかった仕事をこちらが断る理由はない」


 それまで沈黙していたフェリシアが、落ち着いた様子でそう言った。

 

「…オーケー、分かったよ…やってやろうじゃねえか」

「すまないなミーガン…他の者達も、やってくれるな?」


 仕方ない、といった風に頷く銃娘達。


「よろしい。では今回は俺も任務に同行する…海路から侵入する本隊とは別に動くが、こちらは3人ほど連れて空路から合流しよう」

「えっ!ボスも出るの!?やったー!」


 シュガーマンが出ると聞いた途端に元気になったのはポーラ。

 どうやら、一緒に仕事が出来るのが嬉しいらしい。


「ああ、俺とフェリ、ポーラ、メルヴィンの4人で空路から本隊を追い掛けるぞ」

「了解、僕は空路からだね」

「空路からの部隊は本隊とタイミングをズラして出発するぞ。ヘリで行こうと思うが…操縦はメルヴィン、お前に任せた」

「分かったよ兄さん、ヘリかあ…久しぶりに操縦するなあ」


 メルヴィンは澄んだ青い瞳を細め、微笑みを浮かべながら答えた。

 華奢に見えるが、様々な技能を有している優秀な隊員である。


「ミーガン、トリシャ、ティルダ、ファルケは本隊として海路から行ってもらう。依頼先が用意した輸送船でな」

「依頼先が…ねえ、オーケー」

「平気だミーガン、ナニか来たら殺せばいいんダ!」

「ったく、おめーは気楽そうでいいなあティルダよ」

「キヒヒッ!」


 心底楽しそうに笑う。


「ああそれとな…今回、万が一を考えて輸送船にちょっとした物を忍び込ませておいた。依頼先には断りを入れてないから、本当にヤベーと思ったら使え」

「どこに置いてある?」

「いつもの隠蔽用シートに包んで置いてあるから、見たらすぐに分かるはずだ」

「オーケー、分かったよ」

「またアレ使ったの?隊長も好きだなあ」


 トリシャが、呆れ半分に呟く。


「俺はジョークが好きだからな!さあ、本隊の出発は明日の0630!しっかり準備しとけよ!解散!」


 おうっ、と気合いの入った返事をして、銃娘達はゾロゾロと部屋を後にした。






-洋上 輸送船-



「抜けるような青い空、鼻をくすぐる潮の香り、手には素晴らしい我が銃…あーあ!!」


 タバコをふかしながら甲板に寝そべっていたミーガンが、唐突に飛び起きた。


「おい、もうどのくらいこのクソ船に揺られてんだよ?揺られすぎてそろそろゲル状に溶けちまうぞコラ」

「溶けないから安心しなさいな、2日とちょっとってところかしら?」


 ファルケが、左腕に着けた小さな腕時計を見ながら答えた。


「あー?おいファルケ、お前まーたそんな小洒落た時計着けてんのかよ…ぶっ壊れちまうぞ?」

「いいじゃない、趣味なのよ」

「アタシは知らねーからなー…あー…暇だ…トリシャは?」

「多分寝台で寝てるわよ…あとどのくらいで着くかしらね」

「キヒッ、あと5時間ちょっとってとこカ?」

「んああ…マァージで?もう一眠りでもするかなあ…ふぁーあ…っとォ…」


 大きな欠伸をしながら船内に消えて行った。


「んー、じゃあ私もお昼寝するわね。ティルダ、悪いけど監視お願いね」

「いーぞ、ティリに任せとケ」


 ケラケラ笑うティルダに手を振り、ファルケも船内に降りて行く。

 1人残されたティルダは、よく分からない歌を歌いながら甲板を歩き回り始めた。





-3時間後-



 1人で遊んでいたティルダもいつの間にか眠りに落ち、日も徐々に傾き始めた。

 目的地である陸地は見え始めているのだが、まだもう少しかかるといった具合であった。


「………ンアっ」


 静かな甲板で揺られて眠っていたティルダが、唐突に飛び起きた。


「…キヒッ、ようやく来たナ」


 にんまりと口角を上げると、腰に差していた拳銃…XDM-40を抜き、そのまま天に向かって3発、発砲した。


「起きロ!!敵襲ダ!!!」


 銃声を聞きつけ飛び起きたのか、程なくして残りのメンバーも甲板に集まる。


「なんだってんだティルダ、ついにボケちまったか?」

「ふぁぁ…まだ眠いんだけど…」

「何言ってんダ、ボケ共。あっちをよーく見てみロ」


 3人が、ティルダの指差す方向に視線を向ける。

 遠すぎてよく見えなかったが、確かにこちらへ向かってくる何かの影を確認出来た。


「あ?なんだありゃ…鳥じゃねーのか?」

「マヌケ。ヘリの音が聞こえないのカ?」

「ヘリ?じゃあ隊長じゃないの?」

「信号灯は見えなイ、それに隊長達が来るのは上陸後ダ」

「ああクソ、敵さんのお出ましって訳かよ…お前ら、一旦隠れるぞ!」


 ようやく緊張感の出たミーガンの一声で、皆が一斉に積荷の陰に隠れる。


「ティルダ、よく見つけられたねあんなの」


 未だ眠そうな目を擦りながらトリシャが言った。


「ヒヒッ、どデカイ殺気が向かって来るんダ、死人でも気付くサ」

「お前やっぱ野生動物かなんかだろ…」


 そうこう話しているうちに、はっきりと音が聞こえるほどにヘリが接近してきていた。

 ミーガンが、ちらりとそれを見る。


「クソ!ありゃホプリテスⅡだ!ミサイル積んでるぞ!」

「えっ!?あれはまだ開発段階でしょう!?なんでまたそんな最新鋭機が…」

「さあな、分からんが…一つだけわかるのは、アタシらは今大ピンチってことだ」


 ホプリテスⅡとは、現用の武装ヘリなどの次世代を担う新たな武装ヘリとして開発が進められている重装甲高速武装ヘリである。

 下部装甲はAPSFDS等の高貫通力の砲弾の直撃にも耐え、その上航行速度は従来の武装ヘリ等を上回るという。


「クソッ、どこの所属なんだ!」

「まだどこにも配備はされてないはずよ、公式にはね!」

「なァ、撃ってもいいカ?」

「よせ馬鹿!」


 音がどんどん大きくなり、空気が揺れている。

 機首は真っ直ぐにこちらへ向いており、明らかに「散歩中」ではないことが分かった。


「来るぞ!」

「衝撃に備えて!!」


 ヘリが高速で突っ込んでくる。

 が、真っ黒な機体はそのまま輸送船の船体スレスレを通過して行った。

 そのままどんどん遠ざかって行く。


「…なんだ?偵察…?」

「分からないけど、明らかに友好的な態度ではなかったわね」

「まあ、なんにせよ助かったわけか…」

「おイ、伏せロ」

「は?なに?」

「伏せロ、と言ったんダ!!!」


 物凄い形相でヘリを睨み付けながらティルダが叫ぶ。

 直後、バシュゥッ、という音と共にヘリから何かが発射された。


「たっ…対艦ミサイルだ!ヤベェ!」

「ヒヒッ…慌てるなヨ」


 言い終わるや否や、ティルダは銃をミサイルに向けた。


「ンー…お前はマズそうだナ?これでも喰っテ、出直しナァ!!」


 んべっ、と爬虫類のような舌を出して叫ぶ。

 発射された弾丸は真っ直ぐにミサイルに向かって飛んで行き、その弾頭に命中した。

 轟音を上げてミサイルが空中で炸裂する。


「キヒヒ…花火をやるにハ、まだ早いだロ」

「相変わらずすごい腕前だなあ…」


 笑うティルダの横で、トリシャが呑気に呟く。

 爆煙が収まった後、攻撃の失敗を悟ったヘリが旋回を始めているのが見えた。


「ンー?アレを落とすのは流石に無理ダ」

「だろーね!ミーガン!例のプレゼントは!?」


 トリシャが、後方で積荷を漁り始めていたミーガンに問い掛ける。


「おっ!あったぞ!『砂糖印』のシートだ!」

「中身は!?」

「あー…こいつはすげえぞ、なんと…対物ライフルだ」

「はあ!?そんなものあったところで…いやちょっと待って」


 激昂しかけたファルケだったが、急に黙って思案顔になった。


「…よし、ミーガン!それを私に貸して!」

「考えがあるのかよ!!」


 ファルケに駆け寄り、巨大な対物ライフルを手渡しながらミーガンが叫ぶ。


「簡単よ!…ティルダの二番煎じだけどね!!」


 それを受け取ったファルケが、振り向きざまにヘリに向かってライフルを構えた。

 ヘリは既に機首をこちらに向けている。


「解体ショーよ…喰らえぇぇぇぇ!!!!!」


 ガァン、と一際大きな銃声が鳴り響き、長く太い薬莢が硝煙を発しながら宙を舞った。

 1kmほど離れたヘリに向かって、大きなな弾丸が一直線に突き進んで行く。

 ほぼ同時に、ヘリは対艦ミサイルをもう1発撃ち出していた。

 だが、ファルケの放った対物ライフルの弾丸は、発射直後の対艦ミサイルの弾頭を正確に捉えた。

 ヘリの直近で大爆発を起こす対艦ミサイル。

 先程とは比べ物にならない爆炎を上げ、ヘリは海に沈んで行った。


「ぃよっしゃあ!!ナイスだファルケ!」

「はあ、どうなることかと思ったわ」

「なかなかやるナ、メガネ」

「まさに解体ショーね…」


 各々、ほっと胸を撫で下ろす。

 甲板に、硝煙混じりの穏やかな空気が戻ってきた。


「でも、あれは一体どこの機体だったんだろう」


 トリシャが呟く。

 先程の機体には、型番はおろか国旗や隊章など、所属の識別に必要な表示が何一つとしてされていなかったのだ。


「さあナ、敵には変わりないだロ?」

「まあ、それはそうなんだけどさ…」

「なんにせよ、良かったじゃねえか!イカれたヘリは、メガネのスナイパーの手によって葬り去られましたとさ!ハッピーエンドだ!」

「そのメガネの、ってやめてよね…」


 一同は、それからしばらく談笑していた。

 港への到着までは、後少しである。






-某国 漁港-



 ヘリの撃墜からは特に何事もなく無事に港へ降り立った一行であったが、ここでもまた困った状況となっていた。


「…おかしい」

「ええ…なんで迎えの車がいないのかしら」


 地上班は、漁港に降りた後は予め依頼主の用意した車で目的地へ向かうはずであった。

 ところが、車やドライバーはおろか、港には一般市民の姿さえ見えない。


「嫌ァーな予感がするなァ?ミーガン?」


 言葉とは裏腹に、気味の悪い笑顔を浮かべながらティルダが言った。


「馬鹿野郎そりゃアタシのセリフだ…にしても、市民すら見当たらねえのはどういうわけだ…?」

「きな臭いわね。迎えは諦めて何処かへ身を隠しましょう」

「いや…」


 言いかけて、ミーガンは辺りを見回す。

 少し離れた所に、4人が乗るには問題ないくらいの乗用車が停まっていた。


「その必要はねえ、アレを奪って現場へ行くぞ」

「なっ…それって窃盗じゃないの!」


 ファルケが声を荒げる。

 が、反対にミーガンは落ち着いた様子であった。


「アホ、んなこと言ってる場合かよ。恐らくドライバーは…敵対勢力にバレて始末されたんだ。早いとこ仕事を済ませちまったほうがいい」

「ティリもそれに賛成ダ。止まっているのはヤツらの思う壺だろうナ」

「俺も賛成かな。よくない予感がするしね」


 ファルケ以外は、ミーガンの案に賛成した。

 しばらく考え込んでいたファルケだったが、やがて決心したように口を開いた。


「…仕方ないわね。死ぬよりマシだわ」

「オーケー!んじゃさっさと行くぞ!」


 ミーガンは、歩きながら本部への連絡を始める。


「あーあとトリシャ?」

「え?何?」


 思い出したようにトリシャを呼び止めるファルケ。


「貴女、いい加減その『俺』っていうのやめなさい。似合わないわよ」

「なっ…い、いーだろ別に!!」


 笑いながら車に向かう一行。

 その姿には、あまり緊張感はないように見えた。






-某国 市街地-



 車を奪った一行は、GPSを頼りに目的地へ向かっていた。

 しかし、先程までのような気楽さは既に消え、代わりに身を切るような緊張感が漂っている。


「おい…おかしいぞ」


 ハンドルを握るミーガンが、眉間にシワを寄せながらそう呟いた。


「奇遇ね、私もそう思っていたところよ」

「ヒヒッ、何回目ダ?この会話」

「うっせー、黙っとけ」


 一行の車は現在市街地を走行中であったが、ここでも市民の姿が見当たらない。


「まだ日も落ちきってないのに、変だよ」

「そうね、ここまで人の気配が無いのは確かに…うわっ!」


 突如、車が急加速。

 更に急ハンドルを切り、幹道から逸れた脇道に進入した。


「ちょ、ちょっと何よミーガン!貴女までおかしく…」

「RPGィィーッ!!!!!」


 直後、先程まで走行していた道路で爆発が起きた。

 車はスピードを緩めず、置かれている箱や花瓶などを蹴散らしながら細い路地を猛スピードで進んで行く。


「クソッタレがァ!!今日はなんて日だ!!」

「キヒッ、少なくとも給料日じゃないナ」

「だぁってろチビ!!舌噛むぞ!!本部!応答しろ!市街地で伏撃!!別働隊を急がせてくれ!!」

『了解、伝えます』


 しばらく進むと、比較的大きな道路が横切っているのが見えた。

 ミーガンは急ハンドルを切り、後輪を滑らせながら大通りに出る。


「よーし、よし…分かったぜ、分かった…アタシらは、嵌められたんだ」


 口角を吊り上げた苦笑いで、ミーガンが呟いた。

 その表情には、一切の余裕が無い。


「嵌められたって…依頼主にってこと?」

「それ以外に誰がいやがる!どこの誰だかは知らねえが、こいつはハナっからアタシらを潰すために仕組まれた『仕事』だったってことだ!!」

「キヒヒッ!いいネェ、面白くなってきタ」


 しばらく走行していると、左前方の建物周辺に人影が確認出来た。

 その人影は、ミーガン達を確認するとスッと建物の中に消えて行った。


「チッ…また来るぞ!!応戦しろ!!」


 各々、所持している銃を窓の外に向かって構えた。

 それに気付いてか、敵の射撃が始まる。


「ああ…こういう時ばかりは自分の威力不足が恨めしいわ…」


 ファルケの持つ銃はスナイパーライフルのようだが、挿さっているマガジンはやたらと細長い。

 それは民間向けのバーミントライフルであった。


「10/22なんて不便な銃よ…!全くゥ!!」


 ブツブツと文句を言っていたファルケであったが、敵を見つけるとすぐさま射撃し、1発のうちに仕留めた。


「流石の腕前だねファルケ!俺も負けないぞ!」


 短く切り詰められた銃身のM4を操り、周囲の敵をなぎ倒していくトリシャ。


「ティリにも喰わせロ!」


 ティルダは窓から大きく身を乗り出し、横道から出てくる敵を片付けている。


「おいティルダ!あんまり身を乗り出すんじゃねえ!!」

「ヒヒッ、ゴメンゴメーン」


 交戦しながら走行を続けているうちに、市街地の出口と思しき開けた場所が見えてきた。


「よし!抜けるぞ!」


 そのまま脱出かと思われたが、敵の銃弾が右後輪に命中し、車両がバランスを崩してしまう。


「ああ、クソ!!脱出しろ!!横転するぞ!!」


 ミーガンが言い終わる前に、各々ドアを蹴破って車外に脱出した。

 勢いよく道に投げ出される4人。

 車両は横転しながら建物に衝突し、そのまま炎上し始めた。


「う…だ、大丈夫かお前ら…トリシャ!」

「大丈夫!」

「ティルダ!」

「アーイ、平気だヨ」

「ファルケ!」

「………」

「おい!ファルケ!!」


 しばらく待つが、応答は無い。


「クソッ!ティルダ!!ファルケを安全な場所へ!トリシャ!アタシとここで応戦だ!!」

「ハイハイ了解!」

「ミーガン、これ…ヤバいって…」

「んなこたァな、見りゃ分かるんだ!!口じゃなくて手を動かせボケ!!追っ手が来るぞ!!」

「う、うん」

「おい本部!!ヘリはいつ来る!!」

『こちら本部、ヘリ班と無線が繋がらず!到着時刻は不明です!』

「クソッタレがァ!!」


 ミーガンが激昂すると同時に、敵の追っ手が現れた。

 改めて見ると、それはいつかのキャンプ襲撃の際に見た民兵と同じであるようだ。


「なるほど…そういうことかよ…これはいつだかの復讐ってわけだな」


 建物の陰に身を隠し、射撃をしながら小さく吐き捨てる。


「ミーガン!ファルケは頭を打ったみたいダ!」


 ファルケを移動させ終えたティルダの声が聞こえてきた。

 正確な場所は分からないが、どうやらミーガン達より少し後方に下がれたらしい。


「オーケーだティルダ!そのままファルケを護衛しろ!!」

「任せロ!」

「クソ…早く来い…早く来いよ主…!」


 そう呟くミーガンの顔には、明らかな焦燥が浮かんでいた。






-数十分後 市街地のはずれ 民家内-



 市街地での戦闘が始まってどのくらい経っただろうか…日は既に沈み、闇が街を包み込んでいた。

 敵の大多数は殲滅し、どうにか街の外れまで逃げてきたものの、ファルケは未だ目を覚まさない。

 加えて、ここまで逃げてくる最中にトリシャが被弾し、身動きが取れない状況となっていた。


「…よし、トリシャ。これで大丈夫だ、血は止まったぞ」

「う…ご、ごめん、ミーガン…」

「気にすんな、駅前のカフェのパンケーキ3枚で許してやる」

「3枚って…はは、食いしん坊だなミーガン…ゲホッ!」

「オーケー分かった、もう喋るなトリシャ、安静にしとけ」

「ミーガン、敵2名がこちらへ来るヨ」

「チッ…」


 舌打ちをしながらも、腰に着けたナイフを抜く。


「ティルダ、ナイフは?」

「あるヨ」

「よし、始末するぞ」

「オーケー」


 短く返事をすると、ティルダは2階へ上がって行った。

 ミーガンも、大通りに面した出入り口の横に隠れる。


(こいつら、やたらといい装備を…やっぱさっきのヘリもこいつらか…?)


 近くで見ると分かるのだが、彼らの銃器や装備品はどれも最新のものばかりである。

 敵の1名が出入り口の目の前で止まり、もう1名はその少し後方で無線連絡を始めた。


(ジャラジャラとアホみてえに物ぶら下げやがって…見てろ)


 上の階から、ピュイッ、と甲高い音が鳴った。

 ティルダの合図だ。

 敵両名の視線が上に流れる。

 ミーガンは出入り口から飛び出し、目の前の敵の背後に回る。

 と同時に、ティルダが降ってきて少し離れた敵の脳天にナイフを突き立てた。


「ヒヒヒ…ゴメンネェ、悪い子はおネンネの時間なんダ」


 もう1名がライフルを構えようとするが、ミーガンがその手を切り落としてそれを阻止する。

 叫び声を上げようとする敵の口に布をねじ込み、民家の中へ引きずり込んだ。

 少し遅れて、ティルダも既に事切れた敵の死体も運び込む。

 それを終えると、押さえ込まれている敵の喉元に血塗れのナイフを突き立て、こう続けた。


「さテ…どういう経緯で君らはここに来タ?吐いてもらうヨ。死にたくないでショ?」

「叫んでも殺す」


 小刻みに震える敵は、何度も細かく首を縦に振った。


「おヤ、英語が通じるんだネ。まァ、手間が省けるってものダ」

「お得意の語学を披露出来なくて残念だったな」

「まァネ。さてミーガン、口に詰めた物を出してやろウ」

「ああ」


 ミーガンは押さえ込むのをやめると、代わりに腹部にM500を突き付け、口に詰まった布を取り出した。


「ゲホッ!あ、あんたら…何者なんだ…」

「質問に答えロ。どういう経緯でここにいル?」

「…あんたら、ここに来る前にヘリと戦ったろう。ゲホッ、あれはウチのヘリだ。アレからの情報だよ…こっちに向かってくる武装勢力がいるってな」

「ああ、それでか…そういやアンタら、HACも持ってたよな?なんで民兵如きがそこまで金を持ってる?」

「…何故それを…?いや、待てよ…そうか、貴様ら…あのキャンプを襲撃したPMCだな!?」

「大声を出すなヨ、死にたいのカ?」


 顔をしかめたティルダが、喉元に突き付けたナイフを少し刺しこむ。


「うがぁ…っ!待て、分かった、やめてくれ…!」

「おいよせティルダ、喉を切ったら吐くもんも吐けねえ」

「それもそうだナ。で、どこから金が出てル?」

「…か、金の出処は知らねえ…」

「そうカ、じゃア、おやす…」

「ま、待て!金の出処は分からんが、それを知ってるやつなら分かる!」


 大声に反応して、今度はミーガンが鼻っ面を殴る。


「がぁっ…!!」

「学習しねぇ奴だな、てめぇのお脳はミジンコ以下か?あ?」

「ま、ま、まて、そいつの、そいつのところまで案内する!だから…殺さないでくれ…!」

「チッ…腰抜けが…おい、いいか?死ぬ覚悟のねぇ奴がーーー」


 ミーガンは男の腰から拳銃を抜き、そのグリップで横っ面を殴りつけた。

  衝撃でそのまま倒れこむ。


「ーーー こんなもんをな、持つんじゃねぇよ、タコが」


 すぐさまティルダが男を起こし、再び喉元にナイフを突きつけた。


「ソイツの名前はなんていうノ?」

「…じ、ジョーカーって、よ、呼ばれてる…」

「おいテメェ、いい加減…」

「ほ、本当だ!仲間からはそう呼ばれてる!本名はし、知らないんだ!」


 2人は揃って舌打ちをした。


「そうカ、ありがとウ。解放してあげるヨ」

「あ、ありがとう…!すま」


 口の動きからして、すまない、と言おうとしたのだろう。

 しかし、ティルダのナイフが喉を切り裂いたおかげで声にはならなかった。

 男はその場に仰向けに倒れる。


「ウーン、これはとびきりにマズそうダ」

「さて、最後に一つ…いい事を教えてやろう」


 面倒臭そうに男の体に跨ると、ファルケの方を指差してこう言った。


「さっきテメーの口に詰めたアレはな、あそこの女のパンツだよ」


 それを聞くと、男の喉からは一層激しく息が漏れた。


「気持ちワリィ…」


 ボソッと吐き捨てると、眉間にナイフを突き立てた。

 全身がビクッと反応した後、動かなくなる。


「これだから男は嫌いなんだ」


 とどめだと言わんばかりに、男の顔にツバを吐いた。


「ミーガン、それ本当カ?」

「さあな?確かめてみろよ」

「キヒッ、やめとくヨ。そういう趣味はないんダ」

「お前にしちゃ賢明だな」


 それにしても、とミーガンは思う。


(こいつは、アタシらがキャンプ襲撃の実行隊だとは知らなかった…つまり復讐目的じゃあない可能性がある…とすると…)


 額からナイフを抜き取り、男の身に着けている衣服で付着した血を拭う。


(アタシらは嵌められた訳じゃあなかったのか…?いや、まだ確証は持てない…)


 男のベストをナイフで切り裂き、衣服の胸元に着いたワッペンを剥がした。

 よく見るとそのワッペンには、三つ首の犬のようなものがあしらわれていた。


「ケルベロス…?」

「なんダ?食い物カ?」

「ちげーよボケ、こいつらの部隊章か何かだ…この前遭遇したHACにも、これと同じ物が付いてた。その時はあんまり詳しくは見なかったけどな」

『ーーー?ーーー!?』

「おっ…と、なんだ?」

「アラビア語だナ。こいつの無線ダ。向こうは異状に気付いたゾ」

「チッ…!またヤバくなるな」


 耳を澄ませると、遠くからドヤドヤと怒声が聞こえてくる。


「ヒヒッ、バレるのも時間の問題だナ」

「クソ!トリシャ、逃げるぞ!ほら!」

「う、うん…」

「ティルダはファルケを頼む!」

「アイヨー」


 2人の怪我人を抱えての脱出は思いの外困難で、すぐに発見されて交戦が始まった。


「クソッタレェ!!いくらアタシらが銃娘だからってよ!弾は無尽蔵じゃねーんだぞ!」

「ヒヒッ、しかも残ってるのはハンドガン組だケ…笑えるナ」


 ティルダはしばらく建物と建物を縫うように飛び回りながら戦っていたが、やがて体力の限界が来たのか、ミーガンの近くの建物の裏に隠れていた。


「ああ…クソ…こんな事なら昨日のうちにワイルドターキー空けてくるんだった…」

「まだそんなの飲んでるのカ?弱いくせニ?」

「うるせー!!何飲もうが勝手だろうが!!」


 くだらない事を話しながら交戦していたが、徐々に銃声の距離や至近弾が増えて来ている。

 限界は近い。


「キヒヒッ…鉛弾たくさん喰って壊れるンなラ、それも本望だナ」

「おいよせ縁起でもねえ、なんだってうちの奴らはすぐ…」

『死にたがるのかな?って?』


 突然、オープンになっていた無線から声が聞こえてきた。

 それは、2人にとってはとても馴染みの深い…救いの声でもあった。


「姉貴!?姉貴か!!良かった、もう無線圏内なんだな!今どこに…」

『ちょっと黙って。舌を噛むよ』

「げっ…ティルダ!伏せろ!!」


 2人が伏せた直後、少し前方に向かって上空から一筋の光が降ってきた。

 直後、激しい衝撃波が辺りに広がる。

 光に貫かれた敵が、粉々に砕け散り辺りに血肉を撒き散らす。

 数秒して、ミーガン達の真上から銃声が聞こえてきた。


「う、上…?」

「キヒヒッ!パラシュートだナ」


 目を凝らして上空を見てみると、うっすらとだが確かに3つのパラシュートが確認出来た。

 そのうちの一つからまた、激しい閃光が降ってくる。


「うははっ!!やっぱサイコーだぜ姉貴!!まさかパラシュート降下中に狙撃とはなあ!!」


 途端に元気を取り戻したミーガンが、近くにいる敵を撃ちまくる。

 ティルダも体力が戻ったのか、再び機動しながら戦闘を開始した。

 上空からの援護射撃も続いている。


「姉貴!ヘリはどうした!!」

『目的地周辺は対空兵器が満載なんだよ。一度この近くの広場に着陸するって』

「オーケー分かった!とにかく今はここを離れよう!」

『こちらも地上に降りたよ。今、ポーラとメルヴィンがそちらに向かう』

「了解!」


 後方から光が駆け抜ける。

 衝撃波は凄まじいが、敵に撃たれるよりはマシだった。


「敵は怯んでル!今のうちに離脱しよウ!」

「了解だ!」

「みんな、大丈夫!?」

「おおっ!メルヴィン!ポーラ!悪いがアタシらはファルケとトリシャを担いで行く!援護射撃頼んだぞ!!」

「うん、任せてよ!」

「さー久々に暴れるぞー!!」




-数分後 ヘリ着陸地点-



「お前ら、大丈夫だったか!?」


 援護を受けて着陸地点まで辿り着いた本隊は、ヘリに残っていたシュガーマンと相見えていた。


「大丈夫そうに見えるか?一体全体こりゃどうなってやがんだよ」

「すまない…まさか敵に情報が回っているとは…」

「なあおい、今回の仕事の依頼主は誰なんだよ?こうなったらもう隠し事は無しだぜ」


 ファルケとトリシャをヘリに乗せ、シュガーマンに向き直ったミーガンが言った。


「…CIAだ」

「…は?」

「聞こえたろう、CIAだ。今交戦してる民兵…ケルベロスと呼ばれてるが…その中に潜り込ませたスパイが裏切ったらしい。今回の仕事は、そいつの始末だ」

「…なるほどな…そりゃあ、あの場じゃ言えねえし、断る事も出来ねえ訳だわな…」

「本当にすまない…恐らく、依頼を受けたあの場にいた中に内通者がいたんだ」

「クソ…マジかよ…」


 ふと気がつくと、後方で鳴っていた銃声が止んだ。

 制圧は終わったらしい。


「…どうするんだ?」

「仕事は続ける。出来れば、内通者の正体も割り出す…そして、CIAにその情報を売り付けよう」

「キヒッ、それは景気のいい話ダ」

「ああ…当然、ペイは弾むんだろうな?いつだかみてえに、たった2日の休暇って訳には…」

「分かってる分かってる、その辺についてはちゃんと考えておくさ…」

「っしゃ!んじゃまあ、もう一踏ん張りすっかねえ!」

「頼んだぞ。あの3人を増員として充てよう。俺はファルケとトリシャを洋上の救護班に引き渡したら…作戦に参加する」

「おう、早く来いよ?でないと終わらせちまうかもしれねえぜ?」

「はっはっは!!それが一番楽で良いんだがな!」

「バーカ、言ってろ…んじゃ、ちょっくら行ってくるぜ」

「じゃーリーダー、また後デ」


 シュガーマンは無言で手を振ると、ヘリに乗り込んだ。

 後ろから、交戦を終えた3人も合流する。


「あっ、マスターは行っちゃうんだね」

「2人を救護班に回したらまた来るってさ」

「ということは…ここからは陸路だね」


 フェリシアの冷静な一言に、一同は大きくため息を吐いた。


「はあ…本当に、最悪な1日だ…」






Chapter.2-『Baddest cruising』









-某国 某所-



「ふぅん、そうかい。あの量でもダメなんだね」

「言っただろう、彼女達は侮ってはダメだとね」

「まあ、いいさ。所詮民兵…消耗品だよ」

「そうだね。ああ、それにしても…」

「うん、やっぱり欲しいね。どんな最新鋭の兵器よりも」

「ふふ、よっぽど強力で…そして何より」

「「彼女達は美しい」」

Good cruisingは三部作となります。

次の投稿でpixiv小説掲載分は投稿が完了し、第4話からはpixiv小説と同時掲載になる予定です。

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