Chapter.1-Flashy vacation
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もしもの話だが、全世界の武器という武器全てが消滅するとしよう。
君はそれで、人類の争いが尽きると思うかい?
…私はそうは思わない。
武器を持たない生物同士がどう争っているかは、人間以外の自然界を見ても良く分かるだろう。
人間もまた然りだよ。
どれだけ抑制しようと、どれだけ撃滅しようと…争いの火種は尽きることはない。
例え一時の世界平和が訪れようとも、人類はまた同じ過ちを繰り返すだろう…いや、それは最早過ちではな い。
必然なのだ。
おっと、そう悲観することはない…逆を取ればそれは、尽きることのないビジネスなのだよ。
この世界は…いかに争いを食い物にするかで変わってくるぞ。
獲物を取れなくなれば死に行くだけだ…。
そう、私達は…戦争を糧にする…「狩猟犬」だ。
Hounds〜Gun Girl Project〜
Chapter.1-Flashy vacation
-某国 民兵キャンプより東に1200m地点-
「こちらフェリシア、配置についたよ」
広大な砂漠の一角、小高い岩の上に伏せる色黒の少女が無線機に向かってそう呟く。
彼女の手には、およそ淑女の手には不相応な物々しいライフルが握られていた。
「おい姉貴、あんまデケー声出すなよな…」
その隣で、タバコを咥えながらフィールドスコープを覗く隻眼の少女が、ため息混じりに吐き出した。
その腰には、不自然なほど巨大な銀色のリボルバーが提げられている。
「大丈夫だよミーガン、目標までは1200mもあるよ。聞かれるはずもない」
自らの構えるライフルのスコープを覗きながらそう言った。
それとほぼ同時に、無線機から『プツッ、プツッ、プツッ』と短い連続音が鳴る。
「向こうも潜入出来たみたいだな」
「あとは彼女達が上手く目標を燻り出してくれるのを待つだけだね」
「そうポンポンと上手く行きゃあいいがな…」
両者共、スコープを覗く姿勢は一切変えずに口だけで会話をしている。
会話にこそあまり緊張感はないが、その場にはピリピリとした緊張感が張り詰めていた。
「どうしたの?珍しく弱気だね」
「嫌な予感がするんだよ。アタシの嫌な予感はよくーーーー始まったぞ!」
何か言いかけたミーガンであったが、その言葉は遥か前方のキャンプから聞こえてきた銃声に遮られた。
「奴ら、ハデにやれとは言ったが…いくら何でもハデにやるには早すぎやしねえか?」
「そう?大したキャンプでもないし、行けると踏んだんでしょ?」
「にしてもよ…ああクソ、何のためにサプレッサーを持ったと…」
「いいからほら、ちゃんと見ていてよ」
「クソ…オーケー、分かったよ姉貴」
そう言って、ミーガンは咥えていたタバコを後方に投げ捨てた。
『こちらトリシャ!交戦を開始!』
無線機から、トリシャと名乗った少女の怒声が銃声と共に聞こえた。
「確認してるよトリシャ、そのまま撃ち続けて」
『了解!引き続き交戦する!』
無線が切れた直後、キャンプの一角から爆炎が上がった。
遅れて爆音が鳴り響く。
「あのバカ共、ハデすぎだ!!」
「そう?私はこのくらいの方が好きだけれど」
「もし目標がアレに巻き込まれたら証拠が回収出来ねーんだぞ!」
「その心配はないよ、ほら…」
『こちらトリシャ!目標逃走!装甲車!』
言われてハッとしたミーガンがフィールドスコープを覗き直す。
すると、交戦中のトリシャ達の反対方向に走り去って行く装甲車の姿が見えた。
「クソッタレ、BTRだ!今地下から出てきやがったか!?奴らどっからあんなもんを…」
「大丈夫、たかがBTRだよ…半レールライフルである私の敵じゃない」
甲高い機械音と共に、フェリシアの持つライフルに装着された赤いコードが鈍く光る。
「そういやそうだったな…そんじゃま、一丁頼むぜ姉貴」
『こちらトリシャ、狙撃頼む!』
「了解、物陰に隠れていて」
言い終わると、ふうっ、と一つ息を吐く。
目標の乗る装甲車は、左側面をフェリシアに向けて逃走を続けていた。
人差し指が、徐々に引き金を沈み込ませてゆく。
「派手に行くよ」
そうボソッと呟いた直後、撃鉄が落ちた。
-民兵キャンプのはずれ-
「いやあ、大分ハデにやったなあ…」
「そう?いつも通りでしょ」
目標の乗った装甲車を狙撃し、文字通り「吹っ飛ばした」フェリシア達は目標の確認のために装甲車付近へ降りて来ていた。
「おーい!フェリ姉さん!」
声に気付いて目をやると、プリンのような頭の色をした勝気そうな少女がこちらへ駆けてきていた。
「トリシャ…お疲れ様。今回もいい仕事だったね」
「へへ…このくらい簡単だよ」
フェリシアが頭を撫でると、目を細めて心地よさそうに微笑む。
「はー、よく言うぜまったくよ…」
「なーに?なんか文句あんの?」
「いーやなんにも?それより他の連中はどうしたんだ?」
肩をすくめながら問い掛けるミーガン。
このトリシャの他にも、あと2人潜入メンバーがいたはずであった。
「あー、ポーラとトラウドルなら…ほら、あそこ」
トリシャが指差す先には、何やら走り回る2人の姿があった。
よく見ると、犬のようなものも一緒に走り回っている。
「なんだありゃ、犬か?」
「そ、奴らの番犬だったみたいだけど…あの様子じゃ役には立ってなかったみたい」
「いいな…犬…私も触りたい」
それまでボーッとしていたフェリシアが、目をキラキラと輝かせて2人のいる方向を凝視していた。
「あーダメだダメだ、ホラ、確認済ませてとっとと帰るぞ…ここはまだ敵さんの喉元だ」
「犬…」
「いいから!」
少し呆れたように言い放つ。
腰のポーチからタブレットを取り出し、横転して炎上を始めた装甲車のハッチを開いた。
「えーと…お、いたいた…ちっと損傷はキツイが…OK、本人だ…よし、本部にデータを送信したぞ」
「オーケーだね、じゃあ…犬を回収して帰ろうか」
「いやだから犬はいいって…ほら、車も来たぞ」
見ると、遠くに黒い車両の姿が確認出来た。
彼女達の部隊の人員輸送車である。
「ほらフェリ姉、2人も呼んで帰るよ」
「でも犬……ん?」
「あ?どうした?」
「2人の様子がおかしい」
先程まで犬と戯れていたポーラとトラウドルが、2人背中合わせで周囲を警戒するような姿勢を取っていた。
ここからでは詳しい様子は分からない。
「こちらミーガン、おいポーラ、なんかあったのか?」
『こちらポーラ!…分からないけど、何かが動いてる音がするの!』
「ああ?なんだってそう抽象的な…」
「総員、伏せて!!」
唐突に、フェリシアが叫んだ。
反射的に全員が伏せる。
直後、キャンプを囲むようにそびえていた崖の上に、3つの大きな影が横並びに現れた。
フェリシアはすぐさま、スコープで影を視察する。
「なんだありゃ…?」
「HAC…人型装甲車両だよ。前に資料で見たことがある。しかもアレは…敵の隊章だね」
「HAC!?そいつはヤベェ、早くズラかろう!」
「………」
フェリシアは後方をちらりと見たが、脱出用の車両が到着するにはまだ少しかかる。
「こちらフェリシア。…HACが出現した。急いで」
『えっはっHAC!?りょ…了解です!もうちょっと頑張ってね!』
無線越しでも分かるほど、ドライバーであるラーヘルは焦っていた。
それもそのはずである。
HAC…人型装甲車両と言うのは、最近になって数社の大手メーカーが共同開発した最新鋭の大型兵器である。
車両と言うのは名ばかりで、その実二足歩行型の高速戦車のようなもの。
機種にもよるが6〜8mほどの全高になる。
人員1名での操縦が可能で、重機関銃や各種ミサイル等の重兵装運用をしつつ、移動時の最高速度は200km/hほどというちょっとしたロボットアニメのような代物だ。
それが、今…3台。
フェリシア達は、一気に窮地に陥ったのである。
「マズい…流石にHAC3台を同時に相手取るのは私でも厳しいよ」
「クソッタレ!やっぱり嫌な予感が的中しやがった!!なんであんな超高級品をこんなしみったれ民兵共が…!」
「考えてる暇はないでしょ!みんな逃げるよ!」
「待って…まだ動いたら駄目」
焦るトリシャの肩を掴み、なだめる。
3台のうち、1台がキャンプに降りてきた。
相当な重量なのか、地響きがする。
ポーラとトラウドルは、今のところは死角に入っているようだ。
「………」
また後ろを振り返る。
車両の姿は見えなかった。
恐らく、HACの視界から逃れるために物陰を走行しているのだろう。
「ラーヘル、あとどれくらいで着くの?」
『2分ほどです!』
「そう、了解」
無線を切ると、フェリシアはライフルを構えた。
「おい姉貴、何してんだ?まさか…」
「降りてきた1台を足止めするよ。ポーラとトラウドルは、合図でこっちに走ってきて…何秒で来れる?」
『了解ー!10秒もあれば!』
「おい正気か姉貴!?例えあの1台を足止め出来たとしても、あと2台上にいるんだぞ!」
「大丈夫、私に考えがある」
フェリシアは時計を一瞥した。
ラーヘルが着くまでにはあと1分ほどの時間がある。
「本部、こちらフェリシア。HAC3台と遭遇。送った座標に、合図で砲撃よろしく」
『こちら本部、了解。砲撃班に連絡する』
「砲撃だあ?弾着までにやられんのがオチだ!」
「まあ、見てなよミーガン…トリシャも、逃げる準備をしておいてね」
「わ、分かってるよ」
「ああ、クソ…分かった、やってやるよ!」
『フェリシア、こちらラーヘル!エスケープまで30秒!』
「了解。…ポーラ!トラウドル!今だ!!」
言い終わると同時に、前方にいた2人がこちらへ向かって駆け出した。
キャンプに降りていたHACがそれに気付き、上半身をゆっくりと旋回させる。
「君の相手は私だよ」
激しい衝撃波と共に、フェリシアが銃を撃発した。
半レールガンの威力たるや凄まじく、HACの左前腕部を武装ごと吹き飛ばした。
よろめき、異変に気付いた残りの2台も降りてくる。
「うぐ…相変わらずすごい衝撃波…」
「耐えろプリン頭!アタシはいつも耐えてんだ!うははっ!!」
「誰がプリン頭だテメェ!!」
「2人とも、舌を噛むよ」
続けてもう1発。
着地間際のHACの右脚部を撃ち抜き、バランスを崩させその場に転倒させた。
そして、ポーラとトラウドルが合流する。
「おおっ!すげえ!」
「ちょっとっ、フェリシア!貴女っ、私達が前にいるのにっ、バカスカ撃たないで!すごい衝撃波がっ…はあ…来るのよ!」
「後ろから撃たれるよりマシだと思うよートラウドルー」
少し涙目になりながら憤る、トラウドルと呼ばれた小柄な少女は、片手にサプレッサー付きの小さなハンドガンを持っている。
その横には、髪をポニーテールにまとめた活発そうな少女が息一つ切らさずに伏せていた。
「なんだ、そんなもんまだ着けてたのか!少しは静かにやったのか!?」
「そういう命令だったでしょ!」
「確かにな!さあ、逃げるぞ!」
「ミーガン!ポーラ!BTRの発煙弾を撃って!」
「おっけー!!」
「あ?…ああ!そういうことか!」
ミーガンはすぐさま腰からリボルバー…M500を抜き、装甲車に備え付けられた発煙弾発射機のフタをこじ開け、中身を撃った。
ポーラも同様に、自らの持つハニーバジャーと呼ばれるライフルで撃つ。
しばらくして、辺り一面に白い煙幕が張り巡らされた。
それとほぼ同時に、黒い装甲バンが猛スピードでフェリシア達の近くへ突っ込んできた。
砂塵を巻き上げながらドリフトをし、停まる。
直後、後部ドアが勢いよく開いた。
「みんな、早く乗って!!」
「おらお前ら!脱出だ!」
全員が車に乗り込むと同時に、急速発進した。
「ら、ラーヘルお前…相変わらずスゲェ運転だなオイ!」
「そ、そう?ありがとうねミーガンちゃん」
「いや褒めてねーよ!」
キャンプから遠ざかる車両の中に、どっと笑いが起こる。
「さて…本部、こちらフェリシア。BBQの時間だよ」
『了解、見とけよお前ら』
「あ?この声…主か?」
「あっ!ねえねえ見てよみんな!爆撃機だよ!」
「は?爆撃機?」
ポーラの指差す方を皆が一斉に見る。
機種までは遠くて分からないが、確かに爆撃機のような影が上空に見えた。
「おい馬鹿野郎、奴ら爆撃機まで…!」
「ああ、私ここで死ぬのね…主ちゃんからのご寵愛を受けられないまま若くして破壊されるのね…」
「やめろトラウドル、縁起でもねえ!」
『お前ら落ち着け、そりゃ友軍機だ…いいから見とけって』
「ちょっと待って友軍機って隊長さん…こっちまで爆撃しないでね?」
ラーヘルが不安げに呟く。
『落とす爆弾は1発だ、安心しろ』
「1発?1発ってまさか…」
爆撃機の影から、細長い物体が縦に落ちていくのが見えた。
「…もっ、MOABだ!あのバカ主!!」
「ねーMOABってなにミーガン!」
「うるせえバカチビ!ヤベェ爆弾だよ!」
「全員掴まって!衝撃波が来るよ!」
「岩場…岩場に…ああっ、岩場がないよう…!」
『はっはっは!Specter Houndsからのプレゼントだ!かましてやれ!!』
一瞬、辺りが眩く光った。
少し遅れて轟音が響き渡る。
後方を見ると、キャンプ上空に巨大な爆炎が渦巻いていた。
既に2kmほど離れていたフェリシア達の車両にも、衝撃波が伝わってくる。
かつてはHACのものだったであろう頭部ユニットが、車の近くに落ちてきた。
「く、クソが…!姉貴の射撃よりひでぇ…!全員無事か!?」
「大丈夫、みんな生きてるよ」
「ラーヘル!」
「ああぁー…車大丈夫かなあこれ…修理大変なのになあ…もう…」
「大丈夫そうだな…はあ、とりあえず一安心か…」
ミーガンはほっと胸を撫で下ろした。
『諸君、クソッタレHAC共の大爆発ショーはどうだったかな?』
「どうだったかじゃねーよタコ!!投下する前にひとこと言いやがれアホ主が!」
無線に向かって怒鳴り散らすが、無線の相手は笑いながら続ける。
『いやなに、この前の仕事でだいぶ金が入ったからな。この前手に入れたコイツを使うにゃいい機会だと思ったんだ』
「にしたってお前…たかだかHAC3台に…」
『贅沢な気分になれたろ?』
「…ッたく本当によ…頼むぜ…」
はあ、と大きくため息を吐くと、ポーチからタバコを取り出し火を付けた。
「あっ」
唐突に、フェリシアが声を上げる。
「どうした姉貴?」
「…犬…」
現場で動いていたメンツがハッとした顔になる。
「えっ?犬?なんのことフェリちゃん?」
1人、ラーヘルだけが状況を理解していない。
残りの5人は、少々気まずそうにお互いの顔を見合わせた。
-Specter Hounds本部-
某国での仕事から3日後。
フェリシア達は、海路を駆使して自隊の本部へと帰ってきていた。
「ーーー以上が、今回の任務の報告だよ」
「ん、ご苦労さんお前達。各人にこれから2日間の休暇をやろう!」
オーバーなアクションでそう言ったのは、フェリシア達の所属するPMCである「Specter Hounds」の隊長、シュガーマンだ。
ファーストネームは誰も知らない。
「うぇっ、あんだけヤベェ仕事でたった2日かよ!」
「なんだよ、ペイは弾んだろ?割増分のペイを返すんならもっと休暇をくれてやるぞ?ん?」
「わーかった、わかったよ…素直に2日間休ませて頂きますよ…」
「よろしい。他の者もそれでいいかな?」
任務に携わった者達が一様に頷く。
「よし。お前らが休んでる間の警備やらなんやらは残りのメンツがどうにかしてくれる…心置きなく休んでこい。フェリシアを残して解散!」
一行はうぇ〜い、と気の抜けた返事を返し、その場をゾロゾロと立ち去っていった。
「…で、だフェリシアよ」
「なんだいマスター」
「お前だけに限った話じゃあないが、あまり無茶をしすぎないように…お前ら銃娘だって、不死身って訳じゃないんだ」
「ん、分かったよ。ごめんねマスター」
「分かればいい。さあ、お前も存分に休暇を楽しんでこい」
「そうするよ。じゃあまた、マスター」
「ああ、また2日後に」
踵を返し、部屋を出ようとするフェリシアだったが、ドアノブに手をかけたところで振り返りこう言った。
「マスターも、過保護もほどほどにね。あんなもの使わなくてもどうにかなったでしょう」
それだけ言い残し、フェリシアは部屋を去った。
「…過保護、ねえ…言うようになったもんだ、あいつも」
そう呟いた男の背中は、何処か寂しげであった。
一部で話題となっている、銃娘達が主題の話となります。
オーナーさん方によって世界観というか銃娘観は異なると思いますので、あくまでも私の世界観として楽しんで頂ければ幸いです。