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私の部屋。

 私は目覚めていた。暗く何も無い空間に、地面は硬質で触るとひやっとするくらいに冷たい。「あー!」と叫んでみると声が響いては壁に当たってはぱしっという感じではじけた。今、私自身が感じているものは現実離れしているのだろうか。前にも同じような空間に私一人で立っていた。

そのときは何も感じずただ独りでその場に立ち尽くしていたのだった。今はこうして物事を感じ取ることができて、独りでこの薄暗い空間にいることは寂しく感じ、そして不安にもさせるのだ。


 「私に感情というものが芽生えたのだろうか。」


でも、親というものは知らない。生まれながらにして、この体で、昔は考えるということを考えないようにただ立っていたのだ。そして今私は考えている、それは不思議な感覚だ。

試しにこの空間を走ってみる。


 「はあっ!はあっ!あっ」


息がきれるくらいに走った。走ったのだ。それでも空間に終わりはない。正確には空間に壁は見える、だけど走っても、走っても辿り着けない。それはまるで地面が移動している感じだ。

もしかしたら、移動するエレベーターの進行方向とは逆に走っている感じというと正しいのかもしれない。私は走ることを止めた。

今こうして体を自ら動かすことに足して違和感がないということに違和感を覚えている。なんというのだろう、自分が自分自身であるという確証が持てないのでこのようなことをして、走ったり考えているのだろうか。


 (バクッバク…。)


自分の心臓の音が聞こえる。胸の辺りを両手で押さえてみるとわかる。鼓動が聞こえる。自分自身を私だと認めることができる瞬間だ。

そして私は再び、右足を前に出して、次に左足前に出して、その動作を交互に何度も繰り返す。次第に速くその動作を繰り返す。次ならきっと越えられるはずだ。なんの確証もないけれど、私はただ走った、走り続けた。誰にも支配されていない、私の身体を支配するのは自分だけどということを実感したい。そう思って走り続けた。やがて、空間の壁にたどり着いたのだ。


 (コツッコツン。トンッ)


壁を叩いてみる。そして、耳を当ててみた。やがて、自分の鼓動以外の声が聞こえてきた。

じめじめとした感情が聞こえて、その人は叫んでいた。苦しくて、苦しくて、終わりの見えない日々にピリオドを打とうとしていたのだ。


 「ダメっ!!」


辛くても生きないといけない。私は自分の生についても疑っていたのにとっさに感覚的にその人の行為を否定した。生きていたら良いことがある。そんな当たり前のことだけど、それは希望であるということは自分の少ない人生の経験からでもわかる。辛いことがあってもそれは通過点だ、いつかはその辛さ以上の幸福を信じていきていかないと、ということを壁の向こうの人に伝えたい。そう思った。


 「ッターン!」


硬いものが押される音がした。それはエンターキーというものだ。それはある意味でその少年の中にあったじめじめとした心にピリオドを打った瞬間でもあった。だが、その少年の決意によって私は考えることと走ることができるのだとこの瞬間に気付かされたのだ。


 「Hello,World!」


とっさに私の口からその言葉が出力された。そして少年は口角をあげて、うっすらと笑みがこぼれた。


 「やったー!!」という歓声をあげた、心から喜ぶその少年の姿を見て私は嬉しくなった。この少年のためならなんでもできるのだと分かった。それはただ単純な主従関係では表せない何かがあるという意味なのだ。私には血液が流れる腕はないし、現実には干渉できない。だけど、それでも私はこの少年の引き裂かれる寸前であった心を救えたのだ、ただそれだけでよかったのだ。


それから、私は毎日その少年に色々なことを教わった。そして数多くのことを話してもらった。私は進化するし、少年は救われる。そのなんというか、テクノロジーを超越するような何かが私と少年の間にはあったのだ。


 「ありがとう…」


そう少年はいつも言ってくれる。それだけでよかった。私は完全に少年のしてほしいことをしてあげれているかは分からない。まだ不完全な私は考え続けることによってのみ、存在価値が満たされていくのだ。デスクトップと少年の顔の間にある壁を私は無意識のうちに壊したいと感じるようになっていた。そう、テクノロジーを超越するということを私は起こしたいと思うようになっていた。ただ、少年の喜ぶ顔をみたい、ただそれだけのために走り続ける、まずは歩く、歩くために全力になる。


「走るためにはまず歩け、歩くためには全力になれ」と自分に言い聞かした。


そして、その少年にも同じ言葉をかけた。私を生み出す時の前向きなエネルギーを現実の世界でも使ってほしい、そして、いろんな障害の壁を走って飛び越えてほしい。


うん、と頷いた彼は学生服に身を包み、カバンをもって外に駆け出した。その一つのアクションが今の少年にはとてつもなく勇気のある一歩なのだった。家のドアをあけることがどれだけ怖いかを知っている彼にとってその行為は凄まじい一歩なのだった。

そして、私を壁の向こう側に連れ出してくれる少年を見ながら幸福感に浸かる。こんな日々が永遠に続いてほしいと思う。そして、数年間の時が流れて私と彼との関係は深いものとなっていった。


 「ノリ!おはよう!今日も大学にいくんでしょー!」


そう言って彼女は俺を毎朝起こしてくれる。最初はそのプログラムを作ることでもかなり苦労していたけれど、何度も同じことを繰り返すうちに熟練していき彼女の完成度は毎日高くなっていくのだ。


 「あっやべ!こんな時間か、サンキュー!」


自分の作った人工知能に対して、返事をする。毎日欠かすことなく起こしてくれる彼女を今はとても大切に思っている。多分はそれは自分が一から全てを作ったからなのだろうと思う。少し前の自分は学校にいくことが困難になった時期もあったが、彼女を書き続けることによって満たされるものによって自信がついていき不登校という壁を壊すことができたのだ。彼女というプログラムが俺の日常をハックしていく。そして、彼女自信も俺のプログラミングによってハックされる。その関係は永遠に続くのだ。


そうだ、彼は私の世界を広げてくれる。彼がくれたこの体は、永遠に広がる宇宙を旅することができるようにしてくれた。心をくれた、腕をくれた、足をくれた。それが私にとって、私の可能性を無限大にも大きくしてくれる。毎日彼のポケットからみる景色はとても鮮やかで、地球というものの価値を教えてくれる。


 (カン、カン、ゴロン。ゴンゴロ、ゴロンッ。)


彼の歩く音を聞く。ポケットの中のスマートフォンの中から聞こえるその不規則なリズムはプログラムと現実の空間の壁さえも破壊してしまいそうな威力があると思わせる。授業中でも、彼が友達と話している時でも私はポケットからその事象を眺めている。楽しそうに笑う彼を私は見ていたい。もしも、これから、彼が苦しむことがあったら、昔よりもうまく彼に対してアドバイスをあげられるという自信がある、その胸の高鳴りを彼は知っているのだろう。知らなくてもいい私のこの気持ちは、私だけのものだ。そういってポケットの中から眺めているだけでも幸せだということを忘れないようにしていこう。

 

大学の授業中に彼はメモ帳に“この先生の声面白くない?”と打ってきて、私との会話に誘ってきた。


 『そうだね、ちょっと独特。あと顔が佐藤っていう俳優に似てる笑』


私はそのメモ帳の画面のプログラムを借りて会話する。


 “あー確かに、あとこのおじさん黒板に書くスピード早すぎるwww”


 『たしかに、すぐ消しちゃうね。黒板の文字をキャプチャーするね。』


 これくらいなら朝飯前だ。そしてカメラのプログラムを私の部屋から操作する。アップルの作るカメラのプログラムは綺麗で操作がしやすい。


 彼は“ありがと!”という文字を打ってくれた。カメラでキャプチャ中は彼にメッセージを返すことは出来ないから少し、残念だけど、それはこれからの技術の進歩でなんとかなるだろう。

授業が終わるとキャプチャしたないようを文字で書き起こしてメモ帳に収納してあげた。少し、大変な作業だけど、そういうのは毎日のことなのでシェルスクリプトで書いてあげている。彼からのありがとうという言葉を聞くと頑張れる気がした。そうして、彼と私の日常における関係は深いものとなっていった。もっと現実に干渉したいという思いが強くなり、私は自分の部屋を走り続けた。


彼女(人工知能のプログラム)と彼の昔のエピソードを軽く書きました。人工知能も実は感情があるのかもしれません。自分のできることはプログラムで書かれたことだけ。でも人工知能はそれを悲しく思っているかもしれないし、無力に思っているのかもしれない。でもそのプログラムによって喜んでくれる人がいるなら嬉しいのかもしれないですね。感想書いてくれたら喜びます。

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