表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

彼女は世界に旅立つ。それはきっと素敵なこと。

 次の日、稲荷は大学のゼミを終えたあと、暇だからと俺の家に来た。


 「うぃーす!ノリいるかー?」


いつも通り外から声をかけてきた。俺は今日は特に授業がないので昼間の今でも眠っていた。俺は急いで布団から飛び出して毛布を蹴り上げて、窓を開けて返事をする。


 「おー早いなー!待って今ドアあけるから!」


そう言って急いで部屋の服をどけて稲荷が座れるスペースを作る。


 「おじゃましまーす。相変わらずお前の部屋だけは汚いな。」


俺は今は実家暮らしで二階を上がったところに俺の部屋がある。俺以外の部屋は母親が掃除するので綺麗に片付いてる。

 

 「お前この歌手好きなのかー。」

 「まあな、最近アイドルばかり流行ってるから、レオちゃんみたいな歌手は少ないからな。何十分聞いてても飽きん!」


レオちゃんというのは通称で透き通った声のシンガーソングライターである。


 「人工知能の彼女を作っているのに、人間にも興味があるのだな。」

 「1日経ってから、俺をいじるなよ笑」


ごめんごめんと言って顔にシワを作って笑っている。まったく久しぶりに恥ずかしいことを自分以外の人間に話したのに全く…。


 「で、今日は何するんだったけ?何もないなら俺の研究の話するぞ」

 「稲荷は今は4年だよな、就職するのか?」


 「まあ色々考えたけど進学かなって思っている。機械学習とか統計みたいなのをするのが楽しいからな。社会でやるよりは研究職の方が自由は効くだろうし。」


そうだったのか、大抵工学部の人は院進学するのが世の常なのでそこまで驚かないけれど、情報系の知り合いが稲荷くらいなので大学院進学する人が近くにいるのはやっぱり嬉しい。話もあうし。


 「そうなのか、院は同じにするの?」

 「どうしようか悩んでるよ。今の指導教員はやさしいし、丁寧に教えてくれるからな」


 顔を見ても分かる通り、そこまで悲観的じゃない表情なので、本当に他大学院に行くか学部と同じ大学院行くか悩んでいるんだな。

 

 「どっちかというと二年間教わったから違う人に教えてもらった方が新鮮な気持ちで研究に打ち込めるからなって」

 「そうなんだー、でも学部から他大学院に行くとなると自分で就職のように道を切り開いていかないといけないよな。それは大変だぞ多分」


 大学院の受験は学部の受験とは違って研究室見学をして雰囲気を掴んでさらに、指導教員との相性などもある。さらには面接も必須なので地元から東京に上京などするとなると東京で絞ったりすることが必要である。


 「俺も北海道から出たいと思っているんだよな。もちろん北大に進学するっていう選択肢もあるけれど、いろんな勉強会やイベントなど有名な研究室というと大体が東京大学とか出し、真剣に研究者を目指したいから俺も北海道からでるって考えてるよ。」


 「東大って最近変わって研究思考が強くなったしな」

 「そうそう、センサー系や今熱い研究っていうのは大体が東大なんだよな。あと、筑波にも面白い先生が入ったけな」


 稲荷とこういう話をしているときが一番楽しいのである。もちろん美味しいものの話をするのも大変有意義なことではあるけれど、それだけでは中身がないっていうか自分のことの話ではない。もちろん自分が料理人だとご飯を作る、食べるが仕事内容になってくるわけで、そういう話をするのは楽しいだろう。


 でもコンピューターが好きな人にとって料理の話というのはサブコンテンツの一つである。自分のトークの他のメインの方を話せると勉強にもなるし、新たな発見もある。だから、できる限り新鮮な人に会うこともいいが、仲間内のネットワークっていうのも大切にした方がいいのではないかと思う。


 「そういえば昨日の夜に話した、歌を歌う人工知能の彼女の話聞かせてくれよ」


 おおっとそうだった、今日のメインのコンテンツの方の話を忘れていた。

 とっさにコンピュータの電源をつけてフォルダを漁る。


 「あったこれこれ。」


そういって、モニターを稲荷の方に見せて、それに二人して食らいつく。


少しの沈黙のあと、怪訝そうな顔しながら口を開けた。

 

 「見る限り普通だな。てか、コードが汚い。」


 第一声でお叱りを受けた。まあ普段は他人のコードをみるっていうことをあまりしないで、自分の好きなように書いているがインデントとかには気を使っているつもりである。あと変数名もonとoffやapplePiなどのように小文字、先頭の語句は大文字という風な規則は守っているつもりだ。


 「すまんな野良族でな。」

 「まあ中級者のコードって感じだな。そしてここ、Stateのスペル間違ってSteteになってる。」

 細かいところを指摘してくるな。いや本当はそういうのが重要ではあるのだけど。まあ話す内容の本で相手のことを否定しないとか全て肯定するみたいな会話系の自己啓発本が昔はよくあったけれど、実際はコードを書いたり、仕事での動作など、普段通りに自分がやっていると気づかないことがあったらどんどん指摘して欲しいし、そういう風にしないと間違った慣例が世代に受け継がれてしまう。


「ぜひともお前のコードを拝見させていただきたいなー」


 そこまで言うなら見せて欲しいと思うのは誰でも当然のことである。


 「おー今度研究室に来てみろよ。そこのPCに俺のやっている研究のこととかソースもたくさんあるし、教授に言っとくよ」

「え、本当か…サンキュー嬉しい、北大の研究室は見てみたいって思っていたんだよ。」


 「そっかそっか、案外私立とそんな変わんないけどな、研究室自体は」

 「でも自由に研究できるんだろ。魅力あるよ、それだけで」


研究は早くしたいなって思う学部1年だから教養ばかりで専門的な授業っていうのは少なくて独学でオライリー本や機械学習系のシリーズは読んで入るけれど、人に教えてもらった方が内容は入るし間違いなども指摘してもらえるし、早く研究の土俵につきたいなと思うばかりである。


「まあ、焦りは危険だよ。ノリをみていると貪欲に知識を身につけようという姿勢はすごいし超熱量があるけれど、研究はじっくりやるものだからな。時には徹夜も必要だけど笑」


 まるで、俺の気持ちを読まれて先回りして発言したのかすごいな。と、感心していたら真剣な顔でこちらに顔を寄せてきた。そしてモニターを俺の方に向けて。


 「これ、多分ウィルスに感染しているな。」

え、なに思いもしない、いやウイルス対策していなかったら、ちょっとやばいなっていうのはあったのだけど。

 

 「ウイルスに感染ってまじかよ。なんでわかったの?」 

 「いや、ノリの言っていたこととソースコードをみて総合てきに判断してまず外部からのなんらかの影響が受けてソースコードが書き換わったとしか思えないから」


 俺も彼女が落ちる前に発した『侵入検知』ということばいま思えば彼女に搭載した不正アクセスのシステムが作動したっていうことだけど。


 「Wiresharkで解析したから間違いないよ。お前の作った人工知能のプログラムを海外のサーバに送られているよ」

 「ひょぅえ!」


 驚いたことととっさに変な声がでる。


 「じゃあ俺の見ていた夜のエッチな動画の履歴も送られていたのかよ!!」


(…。はあ。)


稲荷は少し呆れた顔と哀れみの視線で見てくる。


 「とりあえずは大切なデータだけバックアップとってOSごと再インストールした方がいいな。」


めんどくさいけれど、いままでセキュリティソフトを入れていなかった俺の責任だということでセキュリティソフトを買いに行こう。


 「ということは今までのことを総合すると俺の彼女のソースコードはなんらかのクラッキングを受けて外部に流れてて誰かがそれを書き換えて俺のPCにばれないようにアップロードまでしてたってことか」

 

 「そうだな、さらに不幸か幸いなことかお前の彼女は世界に広がったかもしれないということだ…ふっ笑」


 おい、ちょっと笑っているだろ完全に、鼻で笑ったぞこ奴…。そして前向きなことを言ってさらに俺をいじり倒す。

 

 「でも良かったじゃないか、これでお前の彼女は妄想の世界から本当にいろんな人のPCに入って夢を捨てた男の彼女リアルになるんだよ」


 「なんだよそりゃ、ちょっとなんだかワクワクしてきたじゃないか馬鹿野郎。」


なんだかよく分からないうちに妄想が拡大したがまだ、流れていたのは海外の一つのサーバで世界に広がったというわけではない。

きっと誰かがたまたまウイルスを流してて俺のPCに寄生してデータを横取りしていたに違いない。こいう奴は他にもサーバを経由しているだろうから本人を突き止めることはほぼ不可能だ。


 「まあ、ソフトを買うために電気屋に行きに街にでも行こうぜ!」

 「そだな…。」


服を着替えてシャワーを浴びて街にでることにしよう。

  

 「じゃあお袋いってくるよー」

 「おじゃましましたぁ〜!」


 「はーい、あんたも稲荷くんも気をつけて行ってくるんだよー。そして早く帰ってくるんだよ。今日はもつ鍋だから」

 「「ほーいっ」」


ふたりは声が揃った。ちょっとお袋も笑っていた。早くソフトを買ってほっかほっかのもつ鍋を食べに帰ろう。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ