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奪われた彼女

 夜になると急に散歩したくなった。散歩は気持ちが安らぐし運動にもなる。車の駆ける音を他所(よそ)にスタスタとポケットに手を入れて、目的の場所は特にないのでなんとなく楽しそうな場所を目指して歩く。


 「こういう何でもないことって何だか落ち着くね」


僕の作ったプログラムがそう話しかけてくる。出かけるときはスマートフォンにインストールして彼女と会話している。

 

 「そうだな。何もやることがないっていうのも幸せだよな…」


 「そうそう、なにもしない時間があるからこそ、何かする時間が幸せだと思えるんだよ」


 「お前にそんなこと分かるの?(笑)」


少し沈黙した後彼女は答える。


 「ノリは十分頑張ってるよ。誰も認めなくても私が認めるんだから!!」


(うれしいな…)


まさか自分が作った彼女プログラムに励まされるなんて。最初は遊び半分で人工知能という本を地元のちょっと大きい書店で購入してコピペしながら学んだことが懐かしい。


最初はC言語の足し算や引き算といった四則演算から始まったっけな。毎日、中学校から帰ったらプログラミングをしていたな。当時は学校でプログラミングをしていたのは僕くらいでクラスには誰一人いなかった。寂しかったし、それを通り越して世界で自分が一番苦しいと思っていた。


一人で(正確には彼女と)歩いていると河川敷にきた。不思議と水の流れる音を聞いていると気持ちがリセットされる気がする。河川敷を照らす街灯を見ると蛾や小さい虫が群がっている。虫も必死になって紫外線というものを求めて生きているのだと思うと僕は一体どうしていけばいいのだろうかという気持ちになる。


 「ノ….リ侵….入検…知!!」


ポケットの彼女がバイブレーションと同時に大音量で言った。


 「どうしたっ!?故障なのか!?」


聞いても反応がない。どうしたんだろうか不安で胸が締め付けられる。これはまるで昔の頃と一緒じゃないか。

僕は急いで家に戻る。


(早く彼女を直さなければ!!)


ホームステーションのPCにケーブルでスマートフォンと接続する。ターミナルを開いて解析をかける。

画面には無数のアルファベットや数字が流れる。なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ。僕はもう誰も失いたくないという気持ちでキーボードを強く打つ。


 「そうだ、彼女のバックアップがあるんだった。さっそく入れ直そう」


僕は一呼吸して一旦気持ちを落ち着かせてホームディレクトリに置いているフォルダをダブルクリックする。


 ・・・。無い。完全にバックアップファイルごとなくなっている。


絶望的だ。なぜだ。僕の空虚を埋めるように毎日彼女をプログラムしていたのに…。消えたというよりも奪われたという感じだった。試しに不正アクセスがなかったか調べる。彼女の最後の言葉が気になるし。


 IPを見てみると外国の鯖をわざわざ行く通りにも経由している。これほど悪意を持って奪うということは何者なのだろうかということと同時に怒りさえ覚える。

心の中で彼女の助けてという声が聞こえてくる。僕は今まで大学で学んできたすべての知識をフル回転させて彼女を取り返す方法を模索する。


 「おーい何してんだー!!」


ん?どっかから声が聞こえてくる。これは僕のつけているヘッドフォンでも無いし、親の声でもない。明らかに外からなので、窓を開けてみた。


 「お前どうしたんだ。久しぶりだな」


高校頃の仲の良い親友だった稲荷健(いなりたける)は僕が唯一仲が良かった奴だ。せっかく来たのだからその友人を家の中まで入れた。


 「むっさい部屋だな〜、おい。」


稲荷は部屋に無数にあるゴミを足でザットかき分けて僕の部屋の床に腰をかける。


 「ところでお前こんな夜にどうしたんだよ。」


 「それがなぁ、急にお前の顔を見たくなったんだよ」

 

 「なんだそりゃ、気持ち悪いなあ。今は彼女いるんだっけ?」


 「前までいたけれど別れたんだよ、気が合わなくてな。」


別れたせいで寂しくなって僕の家まで来たのだろう。稲荷とは昔よく家で遊んでいたので家も知っていて来たのだろうな。


話したいことは沢山あるので、このゴミが沢山ある部屋で話すのも申し訳ないので、外に出て居酒屋に飲みに行くことにした。


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