偽り
彼女のデザインはどうしようかと悩んでいる。悩んでいる間は答えが出ないときもあるが、まあ悩むこと自体が好きな人もいるのでありだろう。
人間は悩みがなくなったら終わりだと思う。
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僕の中学校時代は悩みをどうやって無くそうかと思っていた。
だが悩みはいつまで経っても頭の中だけで無くそうと考えている内は本当の意味では無くなることはなかったのである。
中学校ではとても荒れているクラスの委員長をしていた。委員長は誰もやろうと思っている人がいなかったので、担任からお願いされた。
「範晃は誰からも嫌われたないし、うまくやれると思うんだよ。」
僕は実際にそう思っていた。だけれどそれは僕が意識的に積極的に人と関わることを避けていたからだ。別に人が嫌いだとかではなく、普通にクラスメイトとは話すし、話しかけることもあった。
だけど、深く人と関わることをするのはめんどくさいと思っていた。
そんな僕が委員長をすることは、人と関わることをしなくてはいけないし、衝突も起こるかもしれないという予兆はあったけれど一度はしてみたいということもあって受け入れたのだ。
それから僕は朝起きが苦手だったけれど、学内掲示物を僕のクラスが作ることになって自分の家で作って掲示することをした。テストまで何日という数字を毎日変えることをした。それはそれで大変だったけれどみんな見ているものを自分が作るということは責任感もあったし面白かった。
だが、そんなある日クラスでいじめを受けている女子生徒がいつもよりも荒れていた。僕は委員長だからそれを何とかしないといけないなと思った。だけど僕は結果的に何もできず、その女子生徒と普通に喋るとか、いじめを受けている女子生徒がキレて投げ飛ばした椅子を直すとかぐらいしか僕にはできなかった。
「なんか臭わない?」
授業が終わって休憩時間になった時、ふざけた笑みを浮かべた、クラスのイジメっ子である男子学生が言い出した。それに別のいじめっ子が同調にくわわる。僕は嫌な雰囲気だなと思ってその閉じられた監獄のようなクラスという箱から抜け出したかった。
僕が、みんながその光景に注目している中僕はそっと椅子から立ち上がって、教室を抜け出そうと試みた。そしたらいじめっ子が僕に問いかけた。
「委員長もなんか臭うよね?」
いじめっ子の代表格である。坊主頭の男が僕に言った。その瞬間いくつものクラスメイトが僕の方をグイっと凝視する。僕は息もできないくらいに一瞬にして額から汗が流れ出した。
「なあ委員長もこの女から悪臭が出ていると思わないか?ゴミくさいだろ?」
僕に更に言葉の圧力をかける。
「ちょっと、するかもしれないね。」
僕は全く匂いがしない教室から抜け出してそのまま図書館に次の授業が始まるまでいた。
時計の秒針を見つめ、止まってくれないかと心で祈り続けた。帰れるものなら帰りたい。
「サイテー。そんな人だとは思わなかった。」
仲良くしていた、クラスの女子が僕に言い放った。僕は無言で自分の椅子に着席した。
僕にできることは何もないのだとこのとき痛感した。いじめられている女子を救うこともできない。僕は今まで無言でいることでいじめを黙認していたのだ。自分はいじめをしないと思っていたし、いじめをしないことをポリシーとしていた。だけれどこの教室に黙っていることがいじめを当たり前のものだと受け入れていたのだ。僕は最低の人間だ。
クラスの女子からはずっと無視され続け、いつも話している男子生徒とだけ話し続けた。
そういう日々が続いたうちに僕は心の内を誰かに見せることをせずにそのまま誰も受験生がいない遠い高校に進学した。
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なにとなく思い出したことを後悔しているうちに外はシーンとした夜になっていた。この時期は涼しくて鈴虫の鳴き声や、バッタの鳴き声とで心が洗われる。
「あー。本当に俺のことを好きでいてくれる人がいればな…」
返してくれる言葉は何もなかった。




