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大切な存在へ

 友達とか、友人とかそういうのってなんなのだろう。僕は友達がいない。友人もいない。親友もいない。言葉が特別な関係のようなものを表現していて、みんな病的に人を信用している。僕は代用品でしかないのだ。

 

高校の時にも友人がいた。もしかしたら親友という言葉が似合っているのかもしれない。高校に入学して、なかなか話仕掛けることもできずにいた僕に親友のその身長の高い奴が話しかけてくれた。僕はそれからずっとそいつが好きだった。


 「宮、一緒に見ようぜ。」


そう僕に話しかけてくれた。授業中ではあったけれど、そいつがSDカードに焼いてくれた映画を一緒に携帯ゲーム機で見た。鼓動が早くなっていき、気付かれていないかヒヤヒヤして内容が入ってこなかった。

その映画は僕にとってお気に入りの映画の一つになった。


サッカー部に入っているそいつは一見とても充実しているように見えた。でも、どこか暗い面みたいなところが僕には見えた。部活のメンバーと仲良くないわけではなさそうだったけど、完全に心を許していなさそうな、どこか遠いいところを眺めていた気がする。


 「宮、これから帰ろうぜ!どうせ部活もやっていないんだし暇だろ?」


なぜわかる。僕はその通りだった。高校時代は趣味もなく、何もしないでずっと空ばかりを眺めていた。


 「え、いいけど。でも家。。。。反対なんだよ、」


最後まで言いかける前に、僕は一緒に帰れるという滅多にないチャンスを無駄にはしたくなかった。

その時期は確か真冬だった。歩けば雪が靴の中に入ってくる。冷たいけど、大好きなそいつと一緒にどこか遠くまで行ける気がした。

中学からずっと好きになる人は男の人でこれといってタイプみたいなものはない。だけど、どこかに闇を抱えていそうな人が好きだった。多分、僕もそうだから。


雪道を歩いていると、僕は信号が青になる前に早く歩き出しそうになった。するとそいつは僕の腕をぎゅっとつかんだ。


 「まだ、赤。」


そう言って車に轢かれそうになるところを助けてくれた。


 「ありがとう。」


本当はこういうのドキドキするな。とかふざけたことを言った方が、同性としての友人ならいいのかもしれないけれど、そういうことを言いたくなかった。


なんでもないことをそいつの家に着くまでして、デパートに寄って食事をとって帰った。突然の誘いで嬉しかった。サッカー部は冬だとあまりないからだとその当時は思っていた。


今、数年間経って思い返すと、もしかしたらサッカー部を辞めたいと思っていたのかもしれない。その当時はたまにサボっていたことは知っていた。だから、学校で仲が良い僕を誘って気晴らしをしたかったのだと思う。


その後はもう思い出したくないけど、告白もできずに今は会っていない。ある日、とても衝撃的なことを言われたことがあった。


 「お前には会いたくなかった。」


今でもこの意味は分からないままだ。もう忘れようと思っても気になってしまう。人工知能の彼女を作っていても思い出してしまう。


僕はその言葉のせいで高校三年生の時の記憶がほとんどない。そいつに対して、それから顔を合わせることができず、不意に突然涙が流れるようになってしまった。鬱のようになってしまい、それから統合失調症も再発した。

受験はそのためできるような状況ではなかった。何度も死のうとして処方薬を飲んだけど、起きると病院だったりして死ぬこともできなかった。


僕はもうダメなんだと思った。というよりは周りが僕はもう再起できないと思っていたのではないかと思う。誰にも期待されない。それこそが本当に辛かった。


 「どんなAIを作っても僕は空っぽなんだ。」


エーデルの反応はない。プログラムのマイクはしっかりと動作しているはず。

こういう時にAIのエーデルぐらいは慰めて欲しいなと思った。


(ビィー!ビィー!)


右手に握りしめたスマホが振動した。エーデルではなさそうだ。

僕は誰かわからないけど着信だとわかったのでスマホのロックを解除して画面を書くにした。稲荷からだった。


 「どうしたの?」


 「おお!久しぶり。」


どこか稲荷はいつもより遠慮しがちな口調に聞こえる。何か話題をと考えた。だけどその必要はなかった。


 「あのさあ、言いたいことが会ってこれから会えないか?」


何か忘れていた約束でもあったかなとその時思った。有田さんの相談の続きだろうかとも思った。

 「実はだな、ノリのパソコンをハッキングしたのは俺なんだ。」


一瞬、戸惑った。ハッキングって何かあったかなと率直に思った。


 「いつ?」


いつ頃か聞き出さないといけないと思った。


 「ノリと再会した日だ…。」


 「そうだったんだな、知っていたよ。稲荷のプログラムっぽいって思ったよ。」


ネットに上がっていた僕のプログラムは稲荷の書くプログラムの感じがしていた。確信はないけどそうだろうなとは思っていた。


 「怒らないのか?」


今にも全てを打ち明けて謝罪をしたいと思っていることがわかった。


 「なあ、タケル。これから会えないか?まだ16時半だしさ」


ちょうど土曜日のこの時間だし全然会えるし話したいことが沢山あったからだ。

稲荷は行けると言って待ち合わせ場所で会う約束をして、すぐに来た。


 「本っ当にすまん!!始めはもう嘘を貫いてしまおうと思った…。だけど宮は大切な友人だし隠し事とかしたくないって思ったんだよ。」


 「友人か、稲荷のこと好きだったよ。」


突然の展開に理解できないような表情をしているのが分かった。でも僕は話すのを止めなかった。


 「ちょっと昔話を聞いてくれるかな。稲荷は中学の時からの友人だろ?」


僕は高校のサッカー部の好きだった同級生の話をした。自分が男を好きだという話は誰にもしたことがなかった。だけど、今話すべきだと僕はそのとき直感した。

稲荷はたまに相槌もして、真剣に話を聞いてくれた。


 「ありがとう、俺に話してくれて」


第一声は感謝の言葉だった。不思議なやつだ。稲荷は言葉を続けた。


 「俺も宮のこと好きだったよ。尊敬してるし、今でも。いろいろと危なっかしいところとかあるけど、前向きに歩き続けているところとか俺には真似できない。ノリの人工知能だってプログラムすごい綺麗だったし、技術的にすごいし。作るものに優しいぬくもりを感じるし。」


そういうふうなことを言ってベタ誉めしてくる人はほとんどいないし、照れ臭かった。でも、好きだったよっていうのはどういうことなんだろうな。


 「でも、どうしてハッキングしたって教えてくれたの?隠していたら分からなかったのに。」


稲荷は手をぎゅっと丸めて、気を引き締めるかのように次のように語った。

 

 「それは、ノリのことは本当に大切な存在と思っているからだよ。色々むしゃくしゃして優秀すぎるノリが人工知能を作っているって知ってそれを自分の研究の技術を使ってみたんだ…。」


 「それで、僕のエーデルはあんなに頭が良くなったのか。」


今までは人の脳のモデルを用いたニューラルネットワークという技術を用いていたのだが稲荷の技術はそれを大いに凌駕していた。


 「なあ、これ論文で発表しようよ。僕のプログラムもっと使っていいからさ」


僕は自分でも研究者の卵としての血が騒いでいるのが分かった。

稲荷の技術は間違い無く世界でも例のない画期的な学習モデルを用いている。


 「そうかな…。そんなにすごいのかな」


自信なさそうにまた、俯きに稲荷がなるが僕は手をとって「一緒にやろう!」とそう先走っていた。


 「ノリと一緒に研究か…。してみたかったなあ。ノリが許すなら俺からお願いしたい。一緒に学会で発表しよう!!」


僕と稲荷はもう完全に研究者の目をしていた。早速、僕が実装で稲荷が理論の部分をカバーして論文にまとめる作業に取り掛かった。


僕の家に稲荷をあげて、家に置いてあっただけでほとんど読んでいなかった情報系の学問の本屋数学の本を片っ端から開いて数式の定義などを調べていく。引用元もしっかりと忘れないために神経を研ぎ澄ました。


3日間、僕の家と稲荷の大学の研究室を行き来して寝る間も惜しんで論文を書き続けた。


 「「ふぁー!!できたぁ!」」


お互いの声が一致した。僕と稲荷は久しぶりにお互いの顔を見つめあい笑いあった。


 「やっと出来上がったな。」


達成感に溢れてグーで僕の右手と稲荷の左手を合わせた。


 「これ、誰かに見てもらったほうがいいよね、どこか記入が足りないとことか、説明が不十分なとこがないか査読してもらうために。」


 「そうだな。いきなり教授のとこに行くのは、緊張するから誰がいいだろう。」


僕らは共通の友人になった有田さんを思い出し、彼女の元へ出来上がった論文を見てもらうために向かった。


有田さんは僕と稲荷を見て最初、一体どうしたのと驚いた様子だった。

顔はくまで酷いし、髪もバッサボサだった。


 「いろいろ突っ込みたいことはあると思いますが、お願いします。」


僕は印刷した数百枚ほどの論文を有田さんに渡した。


 「すごい数があるわね。こんなの私には無理よ!?もっといい人がいるんじゃないかしら、それかインターネットで公開するのはどう?ユーザがいろいろ突っ込んでくれるしいいと思うわよ。」


そのあと頼んでも、絶対無理よというもんだから僕たちは仕方なく、査読がない論文を投稿するサイトに投稿した。


すぐにはコメントも来ないので、僕らは解散して次の日にサイトを見てみることにした。

ここまで、一気に論文を書ききったため、疲れが非常に溜まったので起きたのは次の日の午後17時くらいを過ぎていた。


メールボックスには数十件を超えるほどの論文に対しての質問が来ていた。かなりの反響のようだ。僕は急いでスマホで稲荷に電話した。


 「おい、タケル!!メールボックス見てみろよ」


タケルも今起きたようで眠たそうな声をしていた。


 「ちょっと待って、あれノートパソコンどこだ。痛っ」


稲荷はまだ寝ぼけているようでベッドからずり落ちたようだ。


 「おっとあったあった、今見てみるよ。おお!かなりきている。さらに英語ばっかりだ。」


 「これすごいよなあ。ページの閲覧数もサイトで3位まで来てるし。タケルやっぱすごいよ」


僕らはその後、サイトの質問に答えて、論文の実装したプログラム例などをGithubというプログラムのソースコードを共有するサイトに貼った。


 「README.mdを書きなおしといたぜ!」


 「ありがとう、相変わらずかなり伸びているね。Twitterでもたくさんツイートされているよ。」


そのような状況がそれから数ヶ月も続いた。大手の論文誌も取り上げたいと言われて特集の記事を書いたりなど研究発表としては大成功した。


友達っていう言葉は簡単な関係を表す言葉で今も嫌いだ。でも、タケルと一緒に論文を書いたことで、昔以上に関係が深くなった。ただの友達というのが相応わしくないだろう。どこかで僕たちはそういうなんでもないけど、大切な存在を求め続けていたのだと思う。

僕らはお互いが得意とすることをカバーし合うことによっていい研究ができた。それはこれからも変わらないことだと思う。

タケルは院に進学して研究者の道へ進む。僕も僕で学部のうちに国際学会とか様々な趣味とかもしていきたい。


 「乾杯!二人ともずいぶん出世したわね。」


その上段に、ハハと、笑いあった。

僕とタケルと有田さん生ビールとクーニャンと梅酒のグラスをで乾杯して、有田さんは祝ってくれた。有田さんも来週に学会で人間らしい介護ロボットの研究を発表するようだ。


 「今日は三人ではしご酒するわよ!!」


そんなキャラだったのかと思いながら僕とタケルは有田さんのはしご酒に朝まで付き合わされた。


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