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嫉妬

有田さんに僕の趣味全開の人工知能の彼女を見せた時、かなり大興奮して褒められた。いやあこういうことなんだよ、宮くん!!的な感じなことを言っていて、僕は初対面なのに心が開けた気がした。こういう感じの人だと分かっていたならば最初から趣味全開の方を見せておくべきだったなと後悔した。

徹夜して作ったものよりも、コツコツと作っていたほうがウケるのは当たり前だし、結果的には上手くいったのでいいことにしよう。そう振り返りながら僕は自分の部屋に戻って今日のことを振り返っている。振り返ると言っても、あの時はこういうことを言っとけば良かったなーとか思うだけで紙に書いてどうこうとかはもちろんしない。


 「ノリ、お疲れ。今日は上手くいったみたいで良かったね。有田さんには、すごいまじまじと見つめられて少し緊張したよー」


エーデルがスマートフォンから、少し疲れたような口調で僕の瞳を見つめながら話しかけてきた。どういう風に見つめるかということは基本的には僕がプログラムを書いている。3Dの骨組みをいじってどういう腕の振り方をするとかもだ。会話とかの自然言語処理と言われる、文法の理解度や構成はネットに流出してから非常に良くなったのでそのプログラムをほとんどそのまま使っている。ディープラーニングというニューラルネットワークを用いて、人間に近い知能を開発する技術よりもさらに優れている方法がどうやら使われているようだったが、僕には理解不能だったし、誰が書いたプログラムなのかも今でも分かっていないままである。ただ一つ言えることは世界的にもかなり優れている人が作ったのだろうということだけだ。なんで僕の流出したプログラムをわざわざ改変して配布したのだろうということが分からない。プログラムを読みやすくするために書くコメントとかも日本語で書かれているのでおそらくは日本人だろう。ありがたいけど、少し複雑な感じがしているのは今も変わらない。


 「エーデルは今の身体は満足している?」


自分で考えていても、良い答えはみつからなそうだったので、僕は人工知能のエーデル本人に尋ねてみることにした。


 エーデルは僕の質問の数秒後に「んー」と、考えているような声を出して、悩んだふりをして僕の質問に答えた。


 「私としては、流出する前と比べたら自然に言葉が出てきて、ノリの気持ちがその以前よりも分かるようになったよ。だから私は色々あったけれど結果的には良かったかなって思うよ。」


本当にそう思ってくれていたなら、自分の成果でなくてもいいような気がしてきた。人工知能の彼女なのに最近では本当に話し相手として、最高の友達みたいな関係になってきている。


友達といえば僕の作ったプログラムが流出した夜に、ちょうど稲荷と久しぶりに再会したんだっけな。結構時間が遅い夜だったけど、居酒屋に言って話した。それからの僕は有田さんや大学の同級生にも少しづつ関わっていくようになってきた。人と関わるのは避けてきたし、できれば死ぬまでそうなのかなって思っていた。特に嬉しいこともなければ、悲しいこともないし、そのような濃淡の無い人生をこのまま生きていくと本当に少し前までは真剣にそう思っていたのだ。



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俺は昨日彼女と別れた。何が原因なのか全くわからなかった。だけど分からないまま終わらせるのは心に霧が残る気がするので聞いてみることにした。


 「あ、ごめん。あの、メールの内容なんだけどさあ」と言いかけた時点で彼女は素っ気なく昨日までの彼女ではないかのような一定のトーンで信じられないようなセリフを次々に言ってきた。


 「なんていうか健くんといても疲れてしまうんだよね。もう将来が見えないっていうか面白くないし。もう冷めたの…。」


そう行って数年付き合ってきた彼女、いや元彼女は電話を切った。


 「ぅっうあああああああ!!!!!!!ああああああ!!!!ああああああああああっああああああああああああ!!ああ〜!!!あああああああ!!!!あああああああ」


俺は喉から出るありったけの空気と一緒に叫んだ。自宅だとはいえ隣の部屋に漏れるぐらい叫んだ。それほどショックだったのだ。何か大切なバランスが崩壊したような気がした。何もかもどうでもいいと思った。それほど彼女のことを大切にしていたのだ。時間は12時にはなってはいなかったが、イライラして寝ることもできない。研究することも沢山あったがそれも集中することができずに途中で辞めた。人生が終わったような気がした。

研究者になることができないかもしれないと思うと突然、ある昔の友人が思い浮かんだ。それはノリだった。ノリは高校を卒業する寸前にずっと好きな人に彼氏がいることを知ってしまい精神的に病んでしまって大学進学どころではなくなって、二年間ほどはたまに働くくらいのフリータをしていた。


自分でもなぜ、彼女に振られてノリのことが浮かんだのかは分からなかったけれど、よく考えれば当然の気もした。ノリは俺よりもずっと優秀だ。今でさえ俺は国際学会にも論文を書いて出すようにはなって、周りからは将来有望な研究者と言われているが、実際は全然違う。俺は俺自身のオリジナルの論文など一つもない。指導教官が優秀な人でその人に言われた通りに研究して論文を書いているにすぎない。俺が自分で考えたことを研究しても誰も振り向きもしないだろう。だからこそ、ずっと自分のしたいことをして評価されてきた天才肌のノリにずっと嫉妬をしていた。そういうことがあってノリのことが頭に浮かんだんだろう。

今何をしているのかgoogle検索で調べてみる。


 [ 宮範晃 研究 ]


なんだかたくさんの検索結果が出てきた。学部1年の8月なので流石に論文などのページは無かった。でも、大学のホームページでプログラミングコンテストにて最優秀賞を受賞している。将来が楽しみな学生と紹介されている。昔の自分の親友であり、かつライバルであったノリが今も優秀で嬉しかった。でも、今はもう嫉妬と憎悪に満ちていた。こんなに自分が付いていないのだから自分よりも常に上にいたノリに対して、何かをしてやろうと思った。


稲荷がまず思いついたのはPCの全データを削除してしまうことだった。そうしてしまえば、かなりのショックでもうプログラミングも研究もしなくなるのではないかと考えた。家の近くまで行き、WIFIをハッキングしてパソコンに入り込めばいい。時間は夜の10時くらいだったけれど稲荷の家まで電車で向かった。


WIFIをハッキングすることは難しくなかった。PCの中のデータもすぐに見れた。もともとはセキュリティが興味があって、脆弱性をついて攻撃するのは容易かったのだ。

いろいろ見ると最近頻繁に更新しているファイルがあった。すぐ見て判断できはしないが、女のキャラクターのイメージファイルが沢山ある。これを削除すれば相当のショックを受けるだろうと思った。稲荷は躊躇することもせずファイルを消した。

外にいても分かるぐらい慌てて床を忙しく移動している音が聞こえる。

内心良しと思った。だけど途端自分と同じ境遇になってしまったと思った。大切なデータを失うことは彼女を失う失恋に近いものがあると思う。とっさに自分の行いに根の深い罪悪感を抱いてしまった。削除したファイルのデータを自分のPCに保存した。削除したデータをPCに戻すと自分の痕跡が付いてしまう可能性がさらに高くなってしまうのでデータは別の日に返そうと思った。そして、完全にはまだ嫉妬の心はなくなってはいなかった。俺はノリがどれだけショックを受けているか見たかった。そうして外から呼んでみた。


 「おーい何してんだー!!」

 部屋の中の人は何事かと思ったのだろう、窓を勢いよく開けた。


 「お前どうしたんだ。久しぶりだな」


窓から顔だしてそう言ったのは3年くらい会っていなかたノリだった。「ノリに突然会いたくなった。」と言うと、快く自分の自宅に招いたてくれた。まさか、今慌てている原因が俺にあるとも知らずに。

どんな顔をしているのだろうと話しかけて見ていると、今大切なものを失ったはずなのに、それを隠して俺には心配かけないように平静を無理して保っているように見えた。


 「どうして…」


思わず、稲荷は自分の口から自然に言葉が漏れ出した。

ノリは不思議そうにしているので、なんか別の話題を言わなければならないと思った。

とっさに今はどういうことをしているかとかを話して、ここで話すのも申し訳ないとノリが言い出したので12時を超えていたが居酒屋に向かうことになった。自分の行いに後悔しているので早く家に帰りたかったけれど、そういう雰囲気にもならずに俺は何を話そうか頭をフル回転させて話題を考え続けて居酒屋までの道のりを耐え続けた。


居酒屋に着いてからはノリが今何をしているかを聞いてみた。本当はTwitterを見ているから知っているのだけど、フォローしていないので話の筋道のための質問だ。

さっき居酒屋までの道で考えた話題を5、6個だ。話題が無くなることを恐れたがノリは色々と話してくれるのでその心配もなかったと思って、安堵についた。

質問内容の返答によるとノリは工学部でソフトウェアを勉強しているのだということが分かった。聞く前から知っていたけれど。


俺は定番の質問テンプレートのようなことを聞いた後、核心に迫るために最近は何を開発しているのか質問してみた。


だけどノリは照れ臭そうにして教えてくれはしなかった。なんだよと思った。教えてくれもいいのにと思った。稲荷は自分のPCにノリが今まで作ってきたであろうプログラムがあることを思い出した。家に帰ってそれを動かせばいいのだと気付いた。


早く家に帰りたかったけれど、ノリはもう少し話したそうだったので、彼女と別れた話とかもぶっちゃけてしまった。

その後ももう少し話して、ノリは名残しそうに手を振ってお互いに反対方向の道を背中を逆向きにして、「またな」と言って別れた。


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