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論文の締め切りに焦りと悩む女子大学生。

 暑い、今は季節でいうとセミが泣きわめいている夏である。彼らは土の中で何年間も眠り、そして地上で約8日間だけ生きている。それはきっと素晴らしい8日間に違いない。自分が表舞台に出るまで土の中で準備に余念を残さず最大限にできることをして地上に出てくるに違いない。


「俺にもセミのように後悔しない人生をおくれるかな。」


稲荷は深いため息とともに、アブラゼミのミンミンと鳴いている音を聞きながらふとそんなことを思った。この超暑い中セミは頑張って自分の生涯を謳歌している、自分もそういう人生を送りたいものだと。


大学の周りには林がある、セミの抜け殻が植物の葉に沢山ついている。

稲荷はその抜け殻の一つを手に取り、まじまじと観察する。


「昔はこうやってセミの抜け殻をノリと集めたっけな。」


昔は俺よりもノリの方が勉強はできた。俺はノリに親友として負けたくないと思って努力してきた。当時はスポーツも勉強も少しやれば簡単にものにするノリに憧れていた。今でこそ、ノリは大学を一年俺よりも遅れて入っているが、その才能は今はプログラミングで発揮している。今はがむしゃらにノリのことを追いかけるということは止めた。


今は大学で研究していることが楽しいと思えている。研究室の先輩や同級生はみんなやる気があるし、先生も立派な人だ。ノリの作るAIは確かに凄い。でも俺だって自分の研究していることに誇りを持っているつもりだ。そうもいながらセミの抜け殻を地面にそっと葉っぱの上に戻し、林から抜ける方向へ歩いた。


 「あら、稲荷じゃないの?どうしたの、こんなうるさいセミしかいない林に来て」

 

俺に話しかけてきたのは同級生の有田琴美だ。女なのにプログラミングは凄腕だ。人体工学のゼミに所属している。


 稲荷はセミの抜け殻を触っているところを見られたんじゃないかと思い、少し顔を合わせないように目線を下の方にしながら照れながら挨拶する。


「おお、有田か。久しぶりだな、最近はどうだよ。」


「まあ、ぼちぼちといったところね。夏の全国大会の発表する論文のことで精一杯って感じね。」


 俺も出ようかと思いっている全国大会の論文か、どんなことをやるんだと思ってそらしていた目線を有田の顔へと戻す。


 「有田も出るんだな、俺も深層学習の成果とかで出そうと思っているよ。また、このあいだ話した介護のロボットの論文でいくのか?」


 「うん、まあそんなところね。介護のロボットもただ人を介護するだけじゃなくて、目に見えない優しさや思いやりっていうのをどうやってロボットで表現するかってことを考えてるの。なかなかうまくいかないけれどね。」


 そう言って有田は深いため息をつく。なんか良い突破口はないものかという感じの思い悩んだ様子にも見えた。

稲荷は何か励ますことを言おうと思い、さっきまでセミを捕まえていた右手を口のところに持っていき考える仕草をして、何かないかと考えてみた。そういえば、ノリが本当に人間らしいAIを作っていたからそれを搭載すればいいのではないかと考えついた。


だが、実際に有田はそれを見ていないし、信じてくれるだろうか。とりあえずそのことを話してみようと思った。


 「なあ、有田。考えたんだが、作りたい介護ロボットって思いやりとか、人間ぽい視点で介護をできればいいんだよな?まさに、そういうAIを作っている友人がいるんだが」


 天から光が差したようにこちらを見つめた、有田は姿勢を前のめりにして質問攻めにしてくる。


 「人間らしい?それって受け答えだけじゃなくて、いろんな人間の作業とかもすることができるのかしら。ええっとそうね、それができたら凄いわ」


 まあ、ノリが見せてくれていた段階では録音をお願いとかしたり、部屋の電気とかも消したりしていたから、きっとそれもできるだろうな。まあ、ノリに合わせたほうがいいだろう。


 「その友人っていうのは俺の親友だから、今度予定合わせて、よければ話せるようにするけど」

 

 一瞬で是非と答えた有田は、売れそうに腕を振りながらスキップして研究室棟の方へ向かっていた。


 久しぶりに有田のあんなテンションが高いところを見た。相当切羽詰まっていたのだろう。良き打開策のヒントになればいいのだが。


早速ノリに連絡してみようと思ってSiriにノリに電話といって電話をかける。

俺もなんだかんだ、生活の中にAIが浸透しているなと思った。


 ダイヤルが三回ほどなった後ノリは電話に出た。


 「ノリ、今大丈夫か?ノリの作っていることで相談があってさあ」


 「おう、大丈夫だよ。ちょうど講義が終わって休憩していたところ。」


 「そかそか、良かった。講義終わった後だと疲れていないか?」

  

ノリは高校のころ、授業をずっと受けているととても疲れてしまって、途中で精神が切れたように帰ることもしばしばあったので今でもそうならないか心配だった。だけどノリは電話口で笑ってその考えを否定してくれた。


 「アハハ、もう大丈夫だよ。稲荷は心配性だなあ。高校の時は空気とか不自由なところが嫌だったけれど、大学は割と授業中よっぽどのことをしない限りないも言われないし。ところで聞きたいことってどんなことなの?」


 そうだそうだ、有田のことよりもノリのことを心配してしまっていたと気づいて若干照れた稲荷は本題を切り出す。

 

 「えーっと、同級生の有田っていう女の子が、介護ロボットの研究をしているんだけど、どうしても如何にも機械っていうのが嫌らしくて、人間らしい思いやりとかを持っている介護ロボットを作りたいと言っていたんだ。ノリのAIとか本当に人間ぽいし、何かヒントになるかなと思ってさあ。」


 「介護ロボットかあ、もともとは会話とかできればいいと思って作り始めてものだから組み込みはどうかなあ。」


そうか、やっぱりそういう用途では無理かなと思っていた稲荷であったが、ノリは少し考えた様子で提案してくれた。

「実際、僕が作ったのは会話とか簡単な作業の自動化をするとことまでで、あとは勝手に外部サーバに公開されたのもあって、学習が見えないブラックボックスみたいになってたんだよ。だから僕もそこをどういう風になっているか実装したいと思っていたし、その有田さんっていう人と一緒に考えようよ。」


そういってノリは快く了承してくれた。

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