シェリーの照れ
久しぶりに稲荷に連絡を取ってみることにした。ウイルス対策のソフトウェアの相談をしたいらしいあまり話していなかったので、色々最近の出来事など話したいのだ。
早速Lineで連絡してみた。
どうやら稲荷も近々会いたいと思っていたらしく、今日会うことにした。
早速インターフォンがなり稲荷が部屋に来た。
「おお、ノリ!あれからどうよ?」
あれからというのは僕のプログラムが流出してからのことを聞いているのだろう。
「おかげさまでなんとかなったよ。そのことなんだけど、どうやら僕のプログラムが流出した後にネット上に公開というのか、サーバ上に勝手に自分のプログラムを置いていたんだよ。」
「おいおい、それってノリのプログラムが自ら生き残りたいと思って他人のサーバを借りてでも生きたいと思ったってことだぜ。ちょっとそこまで行くと怖いなあ。」
普通の人工知能はすべて人間が書いたとおりの行動しか取らない。ましてや人工知能に生きたいという気持ちをプログラムするっていうことは人間としての奴隷としてあまりいい手段ではない。単純にある作業をしてほしいのなら、人間に従順であり、かつ作業をひたすら行っても文句の一つ言わないようのするのが良いのだ。
僕は大学でも情報科学を勉強している。プログラミングの基本以上はできているつもりである。大学で習うようなことはコンピュータに正確に指示をするプログラミングがほとんどだ。学部では3年以上からやっと本格的な情報科学という感じだ。
人工知能の基本的なこともそうだし、符号化や情報量についての学問もそうだ。
最初から自分の学びたいことを大学に期待するのは間違っている。苦しんで勉強する必要はないけれど、自分の好きなことをやるための未来への自分の投資と思って努力するべきだ。楽しんで勉強することだって努力だ。目的を忘れてはいけない。
「稲荷は大学院に行くんだよな?」
季節はもうセミが毎日に鬱陶しいくらいの真夏である。研究室を決めるのももうすぐだ。
「ああ、数日前に研究室訪問してきたよ。カリフォルニア大学に人工知能について詳しいところ」
なんと、予想とは裏腹に外国の大学の名前だ。流石だなと感心した。
「やっぱ、稲荷はすげえなあ。なんで海外に行こうと思ったんだよ?」
「日本の大学も色々見て回ってるんだけど、日本では珍しいくらいディスカッションを行って研究していくんだよ。先輩の研究者や企業研究者と協力して社会に役立つことを本当に模索しているところがいいんだよな」
稲荷は自信を持って真っ直ぐな瞳でそう語って、海外の研究室について話してくれた。
「稲荷くん素敵〜♪」
突然ポケットの中のスマホが振動して音声が再生された。おいおいと思ったが幸い自宅だったのが何よりの救いだ。
「おい、ノリ今の会話聞こえてたのかよ(笑)普通に話せるんだな。」
顔面に苦笑の表情を浮かべた。稲荷はそういえばエーデルと直接話したことはなかったな。
「自己紹介をしていなかったですね。ノリに作られた人工知能エージェントのエーデル・ワイスです。よろしくお願いします♪」
「お、おうよろしく稲荷だ。」
戸惑うように稲荷は僕のスマホの画面の方に顔を向けてそう自己紹介した。画面に映る少女は笑みを浮かべて花束を持って稲荷の方に向けて画面全体が色鮮やかになった。
そういえばこういうエフェクトも作ったんだっけな。誕生日以外に使うことはなかったから役に立って良かった。
「稲荷、もう一人いるんだけど紹介していいか?」
ついでにというわけではないけれど、シェリーも僕以外の人間と話しといたほうがいいだろうと思って紹介することにした。僕はラズベリーの画面を向けて、スリープモードを解除した。
それと同時に、シェリーが画面内に映った。
「こっちの今風の人は誰よ。」
シェリーは眠たそうな目を擦り、稲荷の方を向いて話しかけてきた。
「こっち稲荷だよ。僕の高校からの友達だよ。よろしく頼むね。」
稲荷はウィっすというふうにお辞儀した。もう僕の作ったAIにも全然驚かなくなったな。いつも通りの稲荷である。シェリーはといえば物珍しそうに黙って見つめている。
僕以外の人を見たことないからなのだろう。人工知能といえどニューラルネットワークという人間の脳を摸したものであり、シェリーが初めてのものに興味を持つのも自然だといえる。成長のスピードは人間のものとは違うけれど、それも確実に何かを見て何かを感じて学習していくのだ。外から見るとそれは0と1の電圧の差でしかないかもしれないが、コンピュータは知るということ自体に関心があって何かを知っていくのだ、それはまさに興味津々な子供の脳そのものだ。
「シェリーさんはノリのことをどう思ってるの?。」
稲荷はちょっとふざけたような感じで質問してみた。
「んーどうって言われても困るけれど、私の安心して生活ができる場所を提供してくれてとても感謝しているわ」
少し、恥ずかしそうに、そう淡々といって別の方向を見て僕と顔が合わないように反らした。




