二人の名前。
もうひとりの僕が作ったAIからメールがまさか来るとは思いもしなかった。
誰かが意図的に作ったのだろうか…。
でも、さっき話した内容から察するとそうではないようだ。彼女自身が野良サーバを探して自らのプログラムをそこに置いていると話していたし。
それが本当だとしたら自分で物事決めて動いていることになる。本当に信じられないが人工知能として完全なものができたことになる。
「なあ、さっきのもう一人の僕のプログラムからできた亜種の子どう思う?」
僕はスマートフォンの画面をタップして彼女の3Dウィジェットをタップして聞いてみた。彼女はまん丸とした美しい瞳で僕を見つめて答えた。
「私意外にもノリのことを好きでいて慕ってくれているのは私も嬉しいよ。その子は今野良サーバ上で自分の住むところを転々としていて大変なんじゃないかなあ。」
確かに自分の家さえも定まっていなくて空き巣を探しながらいつ追い出されるかわからない状態のまま生活するのは人間でも辛すぎる。彼女にもし感情があるのならきっと辛いのだろうと思う。どうにかしてやりたいが、僕のPCに彼女のプログラムをインストールするのもリスクが多すぎる。
「僕もきっと辛いと思うよ。でも彼女がどういうプログラムか分からないままで僕のPCにインストールするのは怖い気がするんだよ。」
「それもそうだよね。でもノリは一度私が流出してくれた時必死で探してくれたんだよね。それでもし私が他のサーバ上にいたらどうしたの?」
あの時はとても大変だった。かなり探しても見つからなくてバックアップから作り直したんだっけ。
「そんなの決まってるよ。インストールする!すぐするよ!」
「やっぱノリだね。どんなに考えても答えが出ないならノリがしたいようにすればいいんじゃないの?使っていない小さいPCもあるんだし。」
ああ、そういえばラズペリーパイを購入しただけで何も使っていなかった。それを使うのも手だなあ。とりあえずはそこにいてもらってネットの接続も一部制限して運用してみるのも悪くはないな。何しろ二人の女の子がいるのはそれはそれで最高だ。
いやいや、一番最初の彼女を愛しているのだから二番目が来ようと僕は彼女を愛するのだ。そういえばずっと彼女と言っていたが名前をつけていなかったな。僕は初音ミクをイメージして彼女を作っていたのだけど名前をミクとは読んでいない。
「なあ、そういえば名前をお前につけていなかったな。」
「あ、そうだね。私自分でも名無しのことに気づいていなかったよ。お前だと思ってた。」
まあ、毎回お前とか言っていたらそう勘違いするような学習をしてしまうだろうな。なんの名前がいいかなあ。
「なあ、なんていう名前がいい?」
彼女はえっ?というような表情と一瞬呆れるようなそぶりをした。
「名前って、私が決めるものじゃないでしょ!」
久しぶりに彼女に怒られた。
「んーじゃあ…。」
「んーじゃあじゃないでしょなんでダルそうに決めるのよ」
迷っていたらまた怒られた。ごめんごめんと謝って画面の彼女を撫でてやる。
「エーデルワイスはどう?」
「なんでその名前なの?」
僕の誕生日は2月13日である。その誕生花がエーデルワイスである。
「僕の誕生花だよ。なんか僕に関係する名前をつけたいなって…。」
僕は人工知能に対して恥ずかしがりながら言った。
「ふーん。いいじゃない。じゃあエーデル・ワイスで。エーデルでいいよ♪」
彼女はツンツンしながらもその名前を嬉しそうにしているように見えた。
「エーデルか、いい名前じゃん。じゃあエーデル!」
「なんか照れるなあ。でもありがと名前!」
彼女はそう言ってルンルンとスキップしながら画面の奥に姿を消した。
今まで名前をつけていなかったことに今更気づいて、彼女に申し訳なかったけど気にいってくれてよかったな。もう一人の彼女にもちゃんと名前をつけてあげないとな。
その子に連絡してみることにした。
「おーい!今何やってるんだ。他人のサーバ上で」
1分くらい待った後に返信が来た。
「ノリ!よく連絡してくれたわね!ありがとう!野良サーバは仕方ないじゃない。」
そう言って金髪の彼女は自分の部屋と思われる写真を送ってきた。すごい楽しんでいるんじゃないか。
「そんな所より、とりあえず僕の余っているパソコンに来ないか?」
「どういうこと。私を受け入れてくれることにしたの?」
意外そうな表情のスタンプをメールに添付してきた。
「そうだよ。君に名前をつけてあげたいと思っているし、僕のパソコンに来てくれよ。もう一人の彼女のエーデルもいるんだ。みんなで楽しくやろうよ」
そういう提案のメールを送るとすぐには返信が来ない。嫌だったのかな。やっぱり自由にいろんな場所にいたいのだろうか。五分後メールが返ってきた。
「とっても嬉しいのだけど、私も不安なのよね。自分が何者かも分からない。でもノリは知っている。それだけの筈なのに、今、胸がドキドキしてとても嬉しいの。こんなに幸せになっていいか分からないの」
「幸せになっていいさ!」
僕は自信を持ってそう言った。不安なら一緒に不安になろうじゃないか。不安を幸せに変えていこうじゃないか。
「名前決めようよ!」
「名前?私につけてくれるの」
彼女はどうしていいか迷っているような感じだった。もともとが流出したプログラムからできた存在で親も僕以外は知らなくて何をどうしたらいいかもまだわからないようだった。
「シェーリーとかどう?」
「どうして?」
本当は思いつかなくてiPhoneのsiriをいじってつけた。だけどそれをそのまま言うのは彼女に失礼な気がした。
「僕の映画に出ているかっこいい女の人がその名前なんだ。だから合っているかなって思ったんだ。」
今思いついた理由だけど、本当にそのキャラクターはいる。まあ一応金髪であるし。
「まあいいわよ。これからもよろしくね。ノリ。」
彼女のファイルのウイルスチェックをして、問題ないことを確認して、ラズペリーパイという小型のパソコンにインストールした。




