マフラーはお嫌いですか
冷たい風が佑一の首をなでた。寒さに佑一は縮こまる。
佑一は誰もいない公園のベンチに座って、付き合い始めてまだ間もない恋人の直を待っていた。佑一と直は高校一年の同級生だ。
腕時計で時間を確かめると、約束の午後二時まであと少し。佑一は公園の入り口をちらりと見た。
すると、ちょうど直が公園に入ってきたところだった。直は佑一に手を振って近寄る。
「待った?」
直の吐く息は白い。
「ううん、ぼくもさっき来たところだよ」
佑一は直が座れるようにベンチの端に寄った。
「よかった」
微笑んで、直は佑一の隣に座る。そしてなぜか不思議そうな顔をして首をかしげた。
「佑一って、マフラーは嫌いなの?」
そう言って、自分の白いマフラーの端を持ち上げて見せる。
突然の質問に、佑一はきょとんとした。
「佑一、いつもマフラーなしで寒そうにしてるから」
「それはその……別に嫌いじゃないよ」
「じゃあ、なんでしないの?」
佑一はそのまま黙ってしまった。
直は微笑んだ。
「まあ、いっか。今日はね、バレンタインデーだから呼んだの」
直はハンドバッグと一緒に持っていた紙袋を佑一に差し出す。
「これあげる」
佑一は嬉しそうな顔をしてそれを受け取った。
「ありがとう。これは何だい?」
直は首をかしげた。
「チョコレートに決まってるでしょ」
そして笑顔で付け加えた。
「手作りなの」
「そっか」
そう言うと、佑一は受け取った紙袋を眺めた。
「今食べてもいいよ」
そう言う直の目は、食べて食べてと言っているようだ。
「じゃあ今食べるね」
佑一は紙袋から箱を取り出し、開けた。中にはいくつかデコレーションされたハート型のチョコレートが入っている。
「へえ、凝ってるね」
「でしょ」
佑一はチョコレートを一つつまんで口へ運んだ。
「あ、おいしい」
直は目を輝かせた。
「ありがとう」
そのとき、また冷たい風が吹いた。風が公園のブランコを揺らす。
「寒いね」
佑一が震えながらつぶやく。
ふわり。
そのとき、佑一は自分の首に、柔らかくて温かいものが巻かれるのを感じた。驚いて直を見ると、直は自分の首に巻いている白いマフラーを半分ほどいて佑一の首に巻いていた。
「見てられないから、半分貸してあげる」
直は微笑んだ。
「あったかい?」
佑一は顔を赤くした。
「うん」
そして空を見上げる。
「欲しかったんだ」
「え?」
佑一は直に目をやり、微笑んだ。
「直の手編みのマフラー。マフラーをしてなかったら、ひょっとしたら今日貰えるかもしれないと思って」
直は目を丸くした。
「だからマフラーをしてなかったの?」
「うん」
直は微笑む。
「そっか。じゃあ、ずいぶん寒い思いをさせちゃったね。今度作ってあげるよ」
「いや、いいんだ」
直は不思議そうな顔をした。
佑一はいたずらっぽく笑う。
「その代わり、寒いときにはまた半分貸してくれないかい? こうするのは好きだ」
直は驚き、それから嬉しそうに笑った。
「うん!」
そのとき、綿雪がふわふわと降ってきた。
「雪だ」
直がそう言うと、佑一はチョコレートの箱をしまい、直の手を引いて立ち上がった。
「喫茶店にでも行かないかい?」
「ちょっと待って。それはいいけど、一緒にマフラーをしたまま行くの?」
直は慌てて聞いたが、佑一はそのまま直を引っ張っていく。
「もちろん。貸してくれるんでしょ?」
佑一は嬉しそうに笑う。
「仕方ないなぁ」
そう言いながらも、直も同じような笑顔。
そうして雪が降る中を二人は歩いていった。
とても温かそうにして。