短編3 殺し屋と朝飯
その日の目覚めは最高によかった。気分は最低だったけどな。なんといっても一発で目が覚めたからな。
「あー.今日もいい天気だなぁ。」
お天道様がまぶしいぜ。
「こんな天気の日は外なんか行かずに家でテレビゲームに限るね。」
「うわっ。もやしっ子ってやつね。」
「......。」
「...ごほっ、さぁて、朝ご飯でも食べるかぁ。」
「あっ、私は朝はみそ汁と白いごはんってきめてるから。」
「.....。」
「あー、今日もいい天気だなぁ。」
お天道様がまぶしいぜ。
「それさっきも言ったわよ。ばか?」
「......」
「あー、今日も...」
「ぶっこわれるのは勝手だけど朝ごはん作ってからにしなさい。私はお腹空いたわ。」
「...ってか帰れ〜!!なんで朝っぱらからお前が俺ん家にいるんじゃ〜!!」
あほ〜!まぬけ〜!
「....」
う○こ〜!ばか〜!
「....」
お前のかあちゃんでべそ〜!
「はぁ、はぁ」
「....満足した?」
「...うん。割と。」
「じゃあ、朝ごはんよろしく。タマゴは半熟で。」
そんな感じで今日も割と平和にスタートした。
気付かれている人がほとんどだろうけど、一応説明しておくと、俺が罵声を浴びせまくったやつはもちろん、自称殺し屋のナナである。人が寝ている間に鍵の掛かっているはずのドアから忍び込み、家主が起きるまで包丁を片手に仁王立ちするやつは宇宙中捜してもこいつくらいだ。さすがの俺もあれにはびびったね。しょんべんは漏れてないよな。
「...ほらよ。」
わざとらしく不機嫌に朝ごはんを渡したがナナは特に気にしてないようだ。
「うむ、ご苦労。」
.....。
無言で食器を取り上げた。
「あっ、冗談、冗談。どうもです。」
最近こいつのことで理解したことは食い物に関しては素直だということ。
おもしろいんでなんどか戻す振りをしていたらナナが手にしているものが割り箸から包丁に変わっていたんで慌てて素直にナナの前に置いた。
俺の席にも食器を置いて今日の朝食タイムがスタートだ。今日といったってこいつがこない限り朝ごはんなんて作らないけど。
メニューは白ごはん、みそ汁、半熟スクランブルエッグに中元の残りのハムだ。男の一人暮らしでこれだけしっかりした朝ごはん作ってんのもめずらしいだろうな。......今は一人じゃないか。
「おかわり。」
「はえーよ。朝飯でどんだけ食う気だお前は。」
「うっさい。お腹減ってんのよ私は。」
やれやれ。
俺は黙って近くにあらかじめ置いておいた炊飯器ジャーからごはんをついだ。
「ほらよ。」
「むっ。ありがとう。」
おっ、今度は素直だな。
「何?なんか用?」
いや、別に。いきなり訪ねてきたやつがなんか用?と聞くのも不自然だよな。
「変なやつね。あっ、そのハム食べないんなら私に頂戴。」
「ふざけんな。こりゃ最後のおかずにとってんだよ。だいたいお前の皿にまだ残ってるだろうが。」
「もぐっ。いいじゃない。はぐっ。けちね。」
こいつのケチの概念はどうなってんだ?
「もぐっ。おかわり。」
「またかよ。もちっとペース落とせ。喉につまらせるぞ。」
「もぐっ、私の喉をはくっ他のやつと一緒にしてもらったら...ぐっ!..」
すげー。いったそばからって言葉をリアルにいうことができるなんて。
「っっ゛〜!!」
あっ、本当に苦しそうだ。
「ほらっ茶。」
「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、あ〜死ぬかと思った。」
「自業自得だな。」
そういったら何故か睨まれた。 結局ナナがおかわりした回数は6膳、喉につまらせたのは3回だった。
食い意地がはりすぎだろうと僕は思いました、まる。
「あ〜、食った、食った。おいし...まぁまぁだったわね。もう入んない。お腹いっぱい。」
こいつ本当に女か?実は30過ぎたおっさんじゃないのか?
「じゃあ、デザートはいらねぇな。俺一人で食うか」
「何いってんのよ。食べるに決まってるでしょ。」
デザートと聞いて眼を輝かせるあたりをみると、やはり女の子らしい。
「はぁ?あんたほどじゃないわよ。」
ぐっ、人が気にしてることを。甘い物が大好きですけど、それが何か?
「冷蔵庫にプリンが入ってるからとってきてくれ。」
「え〜、私が?めんどくさい。」
「じゃあ、皿洗え。」
「えっと冷蔵庫ね。」
素直な奴。
「あったあった。2つでいいの?」
「いや、四つ。お前一個。俺三個。」
「....乙女。」
ぐはっ。その言葉は結構きく。
「仕方ない。二つずつにしよう。」
苦虫を噛み殺すおもいだ。
「それでも、二つは食うのね、あんた。」
ナナの呆れた姿というやつを俺は初めて見た。
デザートも食い終わり、一段落ついたので、俺は1番最初に尋ねるべきことを尋ねていなかったことに気付いた。どうせ答えは決まっているだろうけど。
「お前、結局、今日何しに俺ん家きたんだ?」
「ん〜?遊びー。」
「えっ......。」
「何よ?」
驚いた。まさかこいつの口からその言葉がでるとは。俺はてっきり、また殺しにきたーっていうと思ってたけど。
何故だか知らないが俺んとこに来てからこいつが、遊びとか、友達とか、そういった言葉をいうことは決してなかった。(その代わり死ね、だのばか、なんて言葉は連発してたけど)
「いや。別に。」
こいつも変わってきてるということか。それも多分、かなり良い方向に。
「なんか文句でもあるっていうの?」
いつかこいつが、殺し屋と名乗らない日が来るかもな。そしたら俺は...。
「ありまくりだろ」
一瞬ナナがえっとゆうふうな顔をする。
「遊びにくるんなら普通にこい。あんな風に毎回来られたら俺の心臓はいつか止まる。」
そしてまた一瞬だけえっとゆうふうな顔をした。
「ふん。普通にきたんじゃ面白くないでしょ。まったくわかってないわね。」
そのあと小さな声でこう続けた。
「まっ、でも、考えといてあげるわ。」
そしたら俺は...。
びンポーン
以前ナナにぶっこわされて完全には直らなかったインターホンが誰かきたこと知らせた。
「んっ?誰だ?」
ナナのほうを見たが、ナナにも誰も呼んだ覚えはないらしく、首をさぁ?といっかんじに傾げていた。
がちゃ。
「はーい。どちら様ですか?」
目の前にいたのは宅配業者っぽい制服を着たお兄さんだった。
「お届け物です。〇〇さんでよろしいですよね。」
めずらしいな、俺に届け物なんて。妹からかな。
「あっ、じゃあハンコ持ってきますね」
俺が取りにいこうとすると
「いえっ。結構ですよ。」
えっ?
ぷしゃ〜。
顔全体に水がかかったような感覚がし、俺は一瞬雨が降ったと思い、空を見上げた。相変わらずの晴れだ。
「あれっ?」不思議に思っていると突然視界がぐらりと揺れた。
「ですから、ハンコは結構ですよ。」
薄れゆく意識の中で俺はあることに気付く。
この人荷物持ってない。
「血印で構いません。ふふふ。あなたへのお届けものは[死]ですからね。」
また、ベタな言い方してんなー。
そうつっこもうと思ったが俺の意識はすでになくなっていた。