◆◆◆
「ゴン、調べてくれた?」
「えぇ、もちろんよ。アンタが今追ってるのは結構大きい組織みたいね。だからすぐに情報が見つかったわ。同じ系列の職業からはブラックリスト扱いを受けているみたい」
「そう……」
「でも、アンタの場合はやらないわけには行かないんだものね。そうも言ってられないか……」
右手の親指と人差し指で、顎の髭をジョリジョリと撫でてからゴンさんは腕組みをして、考え込む仕草をする。
「……」
大きな横長のソファに座らされてから、しばらく。真白とゴンはボクがいないかのように二人の会話を進めていた。そこにボクの入る余地はなく、何を話しているのかもよく分からなかった。ただなんとなく物騒な話をしている、ということだけは分かった。
「あの……」
おずおずと話しかけて、ようやく二人がボクをないがしろにしていたことに気付いて、声を掛けてきた。
「ごめんなさいね、うっかりしちゃってたわ。それで、貴方はこれからどうするの?」
「どうするって言っても……どうしたらいいのか……」
家に帰れば、きっと心配してくれている家族を安心させてあげることができるだろう。けれど、それだけでいいのか。こんな事件に関わってしまってボクは何も知らずにいることはできなかった。
「もし、貴方が協力してくれるのなら、スムーズにことは運ぶと思うわ」
真白は淡々とした口調で言う。
「えっと、ボクは……怖い、けれど、何も知らないでいるのは嫌です。だから……協力します」
具体的にどのように協力すれば良いのかは分からなかった。けれど、このままにしていたら自分と同じような被害に遭う人はいるだろう。それを何でもないことのように見過ごすことは今のボクには出来なかった。
真白がボクにさせようとしたことは潜入捜査だった。囮捜査と言っても良い。ゴンさんが売人の役を受け持ち、ボクを売り物として組織に近づき油断させる。そして、取り引きが始まったところで、真白が現れるという作戦だった。ボクは真白が囮の売り物になってもいいのではないか、とゴンさんに問い掛けた。すると、ゴンさんは、
「真白が縛られちゃってると意味が無いのよねぇ、これが」
何やら意味深な言葉を呟いた。しかも、縛る道具は鎖なのよ、と続ける。
ボクは捕まってる間、鎖に縛られていたので平気です、と答えた。そういえば、ボクをさらった男はどうなったんだろう。売り物がいなくなってしまって、平気だったのか。どうにかされていなければ、また再会する可能性もあるかもしれない。
そして、取り引きの日、当日となった。