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怪しげなネオンの光が路地裏を包み込んでいた。ついさっきまで閉じ込められていたのだ。今は人工的な明かりでも、あった方が人の存在を感じられて安心できた。ボクのことをさらった男はもう、戻ってきただろうか。いなくなったボクのことを探しているかもしれない。また捕まったら、どんな目に遭うかも判らない。あの場所には戻りたくないと感じていた。
ネオン街に着くまでにも、ボクは真白にこれからどこに行くのか、どうしてあんまり喋らないのかとか、何度も話しかけた。けれど、真白はただ「着いてきて」と無感情なトーンで言うだけだった。
「あ~ら、真白。お帰りなさぁ~い」
とある店の扉の前に立ち止まって、真白は最初に一回、次に3秒ほど間を開けて三回、また3秒開けて、最後に二回ノックした。すると、しばらくして野太く素っ頓狂な声が扉を開く音と共に響いた。
随分派手な化粧だ。ひょろひょろとしていて、背の高い金髪の女だった。
「あらあら、だいぶ小さなお客様ねぇ~。こんにちは、あたしがこの店のナンバー1を務めるゴルゴンゾーラよ~ん、ゴンちゃんって呼んでねぇ~ん」
ボクはその女の人がさっきの野太い声を出していたのだと分かって、かなりの衝撃を受けた。オカマって言えばいいのかな。よくよく見れば、顎の辺りにうっすらと髭が生えているのが見えた。どうやら、オカマバーといった様子のお店らしい。
「あ、ぅ、えっと……ゴン、さん……」
「ふぅ~ん、小さいけど顔の造りは悪くないんじゃなぁ~い。……ねぇ、貴方どう? あたしの店で働いてみない?」
ゴージャスな金髪を揺ら揺らさせながら、ヌッと顔を近づけるゴルゴンゾーラさん、もといゴンさんは唐突にそんなことを言ってきた。
「ねぇ、ゴン。中に入っても良いかしら」
「えぇ、もちろんオーケーよぉん、さぁさぁ、貴方も中にあがって~」
真白の無愛想な言葉を気にした様子もなく、ゴンさんはボクたちを店の中へと招き入れた。




