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男に捕らわれてから数日が経った。今頃、家族はボクのことを心配してくれているだろうか、もし心配してくれているとしたら嬉しい。けれど、そんな風に心配させてしまう自分が嫌だった。何でこんなことになってしまったんだろう。誰も話し相手になってくれないことが心細かった。ボクは不安だったせいか、唯一話せる男に話しかけた。あんまりにも話しかけるものだから、うんざりしたようで、途中から猿轡を噛まされることになった。
受け渡すまでの間に、餓死とかで死なれたら困るからだろう。食事の時は外してもらえたけど……。
「お前の買い手が、もう少しで見つかりそうだぜ」
しばらく留守にしていた男は戻ると、引きつったような声で笑いながら言った。
「予定通りに行けば、俺はお前を売って大金を稼げるんだ。オークションってやつだ。お前の価値を認めてくれる奴が一番高い金を出してくれる。お前はいらない人間じゃないと認められるってわけだ。俺には金が入るし、お前は存在を認められる。どうよ、ギブアンドテイクだろ?」
言いかえそうとしたが、何も言えなかった。猿轡をしていたという理由もある。けれど、自分の存在を認めてくれる、そんな響きに惹かれていることに気付いたのだ。
男はまた笑うと、ボクに巻かれた鎖を多少緩めた。傷がつかないように少しでも高く売るためだろう。涙ぐましい努力だった。そうしてから、男はまたどこかに出かけていった。
ボクはまた一人になった。緩んだ鎖のお陰で多少身動きは取れるようになったけど、抜け出せそうなほどの隙間はなかった。がんじがらめよりはましだったけど、抜け出せそうで抜け出せないのは蛇の生殺しみたいだった。
「ねぇ。貴方は逃げ出したい?」
諦めの意思が浮かんだ時、どこからともなく声が聞こえた。ボクでも、ボクをさらった男でもない第三者の声。もしかしたら、助かるかも知れない。思い切り声をあげた。
「んぐぐぐむむむぐぅぅぅ~~~~!」
……そうだ、猿轡のせいで喋れなかったんだ。うっかりとはいえ、恥ずかしい。一人でうろたえている内に、声の主は目の前に現れてくれた。綺麗……。素直にそう思った。そこにいたのは白い少女だった。
肌が色白なだけじゃない。髪の毛やフリルのついた服、胸元の銀のブローチ以外は白だった。
彼女はボクの猿轡を手際良く、外してくれた。
一歩歩くごとにスカートがふわりと広がるように揺れる。まるで、天使が羽を広げたかのようだった。
「もしかして貴方は天使なの?」
「てん……し?」
訊ねたのは自分なのに、何故か聞き返されてしまった。
「あ、いや、えっと……君は……?」
「私……? 私は真白」
少女は感情の篭らない声で、ただボソリと呟いた。
「来て、貴方を匿ってあげる」
ボクは何も分からないまま、真白と名乗る少女についていくことにした。




