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気がつくと、ボクは薄暗い工場のようなところに鎖で縛られていた。意識が覚醒してすぐだからだろう、頭がズキンとした。動けるかどうか体をよじらせてみる。が、鎖がますます食い込んできて痛いだけだった。
「目が覚めたか」
「ひっ」
男の声を聞いて、生理的にビクリと震えた。その声はボクの目と口を塞いできた奴の声だったから。ひょろりと痩せて背が高いスーツを着た男だった。
「ボ、ボクを一体どうする気……なの?」
「はっ、どうするかだと? 決まってる、お前はこれから売り物になるんだよ」
「売り……物!?」
男の冷酷な言葉を聞いてボクは一瞬、耳を疑った。売り物にする、それは言葉そのままの意味なんだろうか。人身売買、言葉だけなら聞いたことがあるし、意味も分かる。けれど、それが自分の身に降りかかるなんて、想像もつかないし現実感が湧かなかった。
「お前みたいな小柄な奴はお偉いさん方ん中では、比較的需要があるんだ。きっと、高く買ってくれるだろうぜ、それにだ。悪いようにはされねぇさ。お前が従順でさえいればな」
そういうと、男はクククと息が詰まったかのような笑い方をした。聞いていて吐き気がするような笑い声だった。