プロローグ
大学三年頃に書いたお話だったと思います。本作に登場する「ゴンさん」と別製作の「権左衛門さん」とはなんの関係性もありません。
この世界において、自身の存在がエラーでないなんて誰が保障できるというんだろうか。
誰かに必要とされる人間になりたいと願ったところで、それは自分自身が誰かを必要としなければ生きていけないということ……。ボクには自信がなかった。
だから、目の前にいた少女に夢みたいな理想を抱いてしまったのかも知れない。
誰かを傷つけることも誰かに傷つけられることも無い至高の存在。
夜闇の下、月光を背にして目の前にいる少女は、あまりにも純粋無垢で穢れを知らないように見えた。質の良い絹糸を一本一本集めたようにストレートに伸びた髪、色白の肌、大きすぎず小さすぎもしない、西洋の骨董人形のような目、耳、鼻、口といったそれぞれのパーツ。ちょっと力をいれただけで折れてしまいそうな腕とその先に伸びる細く長い五指。きっと足も同じようだと思う。身に纏った服はゴシックロリータというのだろうか。そんなフリルに似た衣装の胸元には銀色のブローチが付いていた。そして、彼女の持つほとんどの部分がすぐ溶けてしまいそうに儚げな雪のような白だった。そう、彼女の色を一言で表すなら白だっただろう。
彼女から表情は読み取れない。隔絶ということではない。たとえ、身の回りでどんなことが起ころうとこの世界と自らはまったく関係の無いことと割り切っている、そんな無の表情だった。
少女の心は純粋な光なのか、それとも闇なのか。いや、そもそもそんな定義すら必要とはしないのか。
「……君は……?」
「私……? 私は―――」
形の良い口を動かして、彼女は感情の篭もらない声でそう名乗った。