第二章 血染め兎の伝説④
「お邪魔しましたー!」
「気をつけて帰ってね。私以外が事件に巻き込まれるなんて嫌だわ」
「はーい!」
四人は帰路へと着く。
スティング、フェルト、フリルは途中まで一緒の方向でコマチだけがその反対方向に家が位置している。
「どうしよ? コマチちゃんの家回って行こうか?」
「そうだね。一人で帰るなって先生も言ってたしね」
フェルトとスティングはそのような意見を出す。しかしコマチは
「いい。自分の身は自分で守れる」
そう言って足早にその場を離れてしまった。
「コマチちゃん、バイバイー!」
フェルトが挨拶をすると、彼女は少しだけ立ち止まり、振り向く。
そしてまた歩き出した。彼女式サヨナラなのだろう。
「じゃあ、僕たちも暗くなる前に行こうか」
「うん」「はい」
スティングを挟むようにフェルトとフリルは歩く。
「ちょっと、フリル! 狭いよ。これじゃあ、私、道路にはみ出しちゃうでしょ」
「あら? 狭いならばもっと痩せたらどうなのかしら?」
「じゃあ、しょうがないから、スティングくんに、くっついちゃお」
「それは卑怯ですわ!」
二人になった瞬間にスティングの取り合いが始まる。
毎度のことながらスティングは困り顔でその場を耐え凌ぐのであった。
そして別れの岐路までとやってくる。ここからは全員が違う方向なのである。
遠さからいうと、フリルが一番遠いと思われる。
「スティング……一人は心細いですわ……もしよろしければ一緒に――」
ここぞとばかりに色目を使うフリル。フェルトも負けてない。
「私も……怖くて家まで帰れないかも。ねえスティングくん、送って」
上目遣いで誘惑をするフェルト。
「うーん、困ったな」
まるで二匹のペットに餌をねだられた主人のようにスティングは困っていた。
いつもならばここで救世主(主にレース)が現れるのだが……
「あら、フェルト。今帰り?」
「お、お姉ちゃん!」
なんと救世主が現れた。キルトはウルフィーと路地をこちらに向って歩いてくる。
「キルトお姉さま。こんにちは」
「あら、フリルちゃんもスティング君も一緒だったんだ」
「あはは。どうも」
二人も顔見知りなので軽く会釈を交わす。
「お姉ちゃん、一人? 今日は一緒に帰れって言われたでしょうが」
「うん。さっき、友達を家まで送ったところだから。それにウルフィー居るし」
「そっかぁ。ウルフィーは頼りになるからね」
「そういうことだ」
ウルフィーは自慢げに鼻をフンと鳴らす。
「フリルちゃんたちも帰りだよね?」
「あ、はい。そうですわ。私はスティングに送ってもらうところですわ」
「あ、勝手に……」
スティングはボソッと呟く。
「そう。じゃあ気をつけてね。フェルト行くわよ」
「あっ、でも……」
「ん? フリルちゃんなら大丈夫でしょ? スティング君は男の子だし」
「そ、そうだけど……」
「じゃあね。二人とも、ほら、フェルトも挨拶」
「じゃあ……また……」
完全にキルトのペースに飲まれ、
フェルトは挨拶をしてみすみすライバルを送り出してしまった。
二人が完全に消えた後、フェルトの怒りは爆発した。
「ちょっと、お姉ちゃん! せっかくスティングくんと帰れるチャンスだったのに」
「あら、そうだったの? うふふ。ごめんね」
「ワザとやったでしょ?」
「どうかしらね?」
キルトは意地悪そうにペロッと舌を出す。
「もうっ、何であんなことを言ったのよ! プンスカプンスカ!」
「ごめんね。でも、私もフェルトと一緒に帰りたかったのよ。誰にも邪魔されずにね」
「……もう、そんなこと言われたら、何も言えなくなっちゃうよ」
「はい、諦めのついたところでさっさと帰りましょう!」
「はーい」
いつものように姉に完全にペースを乱されたフェルトはそのまま帰路へと着く。