第四章 フェルトと黒い針⑨
「はーい」
ノックの音に応えるキルト。
こんな時間に尋ねてくるのはフェルトだろう。
それならば用件はただ一つ。そんなことを予想し、彼女は部屋の扉を開ける。
「お姉ちゃん……」
案の定、パジャマ姿で枕といぬくんを抱えたフェルトの姿がそこにはあった。
「今日ね、一緒に……」
モジモジとしながら妹君は部屋の中へと擦り寄ってくる。
一瞬追い返そうかと思ったキルトだが、刹那の瞬間にその考えは消え去った。
やはりフェルトの可愛さには完敗のようだ。
「いいわよ。待ってて」
急いで勉強机の椅子から飛び降り、ベッドをメイキングする。
ついさっきまであった小さなシーツのシワは見えないほどピンと伸び去った。
「どうぞー」
「おじゃましまーす」
フェルトはそんなベッドの中へと進入する。
何故か自分の布団よりもいい匂いがする気がした。
「ちょいと待っててね、この宿題を終わらせちゃうから」
「うん。ガンバ」
「ふふ。頑張っちゃいますよー――」
耳に聞こえてきるのはキルトがペンを走らせる音だけ、
だが脳裏には先ほどの兎の言っていた一言が無限リピートされていた。
「逢いたい――――か……」
「えっ? なに?」
「あっ、何でもないよ。あははは」
つい口にしてしまったらしい。フェルトは誤魔化しの笑いを試みる。
「そう」
姉の宿題はまだ終わらないらしい。
またペンが机に当たる音だけが部屋に響き渡る。
今日は色々とあったせいか、いつもよりも眠い。
カリカリという一定の音が子守唄となり、フェルトは眠りに落ちていった。