プロローグ
腕試し的な作品です。ライトな感覚で読めると思います。
面白いと思いましたら、是非感想をお願いします。
プロローグ
少女は道を通過する。そこはいつもの通学路――――
異なることがあるとすれば、いつもの時間から、二十分以上も時計の針が進んでおり、
彼女が全速力で走っているということだろう。
「もうっ! いぬくん! そろそろ起きてよぉ! 走りづらいよ!」
彼女は右脇に抱えた白と茶色のモコモコした物体に声を掛ける。
「むにゃ……もう少し……」
返事をするだけで、彼は起きる気配すら見せない。
完全に夢という甘い牢獄の中に囚われているらしい。
「ああっ! もうっ!」
少女はそんなぬいぐるみの頭を叩き、学校を目指し、全力で駆けていく。
髪を乱して走ること、約十分。
やっと校門が見えた。そして向こうから自分と同じように駆けて来る少女の姿も。
「ああっ! フェルトも遅刻だわ! グリズ、絶対私たちが先に教室に着くのですわ!」
「はい、はい」
少女の近くに居たクマのぬいぐるみは呆れたように返事をし、二足歩行ダッシュで校門を潜る。
「あっ! 負けないんだから!」
数秒ほど遅れ、イヌのぬいぐるみを抱えた少女も校門を抜ける。
廊下を駆け、教室までの熱いデッドヒート。
抜きつ、抜かれつの接戦が繰り広げられる。まるでF1レースの如く、
二人はインコースを譲らずに廊下という名のサーキットを走り抜ける。
まだ初春だというのに熱い――――ものすごく熱い。
「だぁぁぁぁ!」「おりゃああああ!」
二人は、ほぼ同時に教室へとたどり着いた。
「はぁはぁ…………フェルト。私のほうが速くてよ。ざまあみなさい」
「お、同じぐらいだもん!」
二人はそこでも睨み合い、火花を散らす。
「おーい。いいの? 席に着かないと二人とも遅刻だよ」
委員長の言葉で少女たちの抗争は一時中断席。
フェルトは席に着き、不機嫌そうに、抱えていた荷物を隣の空席に置く。
腕の中のぬいぐるみはまだ夢の中だ。
「いつまで寝てるの!」
脇を持ち、足から椅子の上にぬいぐるみを叩きつけるように座らせる。
「むぎゃ……」
そんな声を出し、彼は目を覚ました。
「あれぇ…………フェルト? なんでボク学校にいるの?」
「いつまでも寝ぼけてないのっ!」
先ほど発散できなかった怒りをイヌのぬいぐるみにぶつけ、少女は机に頬杖をついた。