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第四章 フェルトと黒い針②

「フェルト、何読んでいるの?」

「んー。人との上手な接し方」

レースの質問に本のタイトルらしきもので応えるフェルト。

だがその背表紙は少女漫画にしか見えない。


「学校に関係ないものを持ってこないでよね。校内で漫画、ゲームは――」

「これは必要なものなの。このぐらい許容してよぉ」

「私には必要なものには見えないけど……」


「まあいいわ」と呟き、彼女は自分の席へと戻っていく。


フェルトといえば漫画の内容を参考に後輩を

(漫画の中では先輩のイケメンな男の子が後輩のちょーかわいい女の子を)励ます方法を学ぶ。


(ほうほう……落ち込んでいるときには優しい言葉……)


キルトの部屋から無断借用してきた漫画にいつの間にか夢中なフェルトだ。


「――って、教室で何やってるのっ! そんな突然――ああ……」


中々描写が際どい――姉が貸してくれなかったわけだ……

当初の予定など忘れ、フェルトは漫画の内容にだけ夢中になっていた。


そんなこんなで結局、何の成果もあげることも無く放課後になる。

いつもならば一番で社会科研究室に飛び込むフェルトだが、

今日は先に行く場所がある。もちろん昨日のリベンジをするために一年教室へと向うのだ。


「こんにちはー。マリアちゃーんっ!」

いきなりの上級生の登場にクラスに残っていた生徒は固まる。

そして呼ばれた少女の方を見る。しかし、マリアは焦る様子も無く、

鞄に教科書を詰めている。フェルトは断りも無く教室へと入りマリアの顔を覗き込む。


「ごめんねー。昨日はいきなりで」

「……」

彼女は無表情のまま作業を続ける。

教科書の柄は自分が二年前に使っていたもので懐かしい――

だが、そんなことより今は彼女の気を引くのが先決だ。

フェルトは惜しみなしに最後の手段を使う。


「ほらぁ。私とお話しよう。今日はクッキーも持ってきたんだよ」

フェルトは鞄から駅前で買った少々お高いクッキーを取り出し、彼女の目の前に提示する。


「いらないです……」

「そ、そう――」

マリアは呆然とするフェルトの横を通り過ぎ教室を出て行く。

「ふぇ、フェルト、行っちゃうよ? 追わないの?」

「うう……追うけど……クッキー作戦でもダメなんて――」

「だからボクはチョコの方がいいって言ったんだよ」

「それはいぬくんが食べたいからでしょ――って、そんなこと言ってる場合じゃないよ!」


フェルトは急いで彼女の後を追う。だが……


「もうっ、見失っちゃったじゃない! いぬくんのせいだからねっ!」

すぐに姿を見失ってしまうフェルトだ。

彼女は見かけによらず、すばしっこいようだ。フェルトはキョロキョロしながら校内を歩く――


「あっ!」

何かを見つけた彼女は窓に張り付く。探している少女は外を歩いている。

帰宅するのだろう。フェルトは彼女の家を知る由もない。

ということはここで見失えば、今日はアウトなのである。


「いぬくん! 後をつけるよ」

「えっ? うわぁ!」

ぬいぐるみを抱えあげるとフェルトは玄関へと直行する。

上履きを脱ぎ捨て――いや、さすがに置いてはいけないので急いで自分の下駄箱へとしまう。

スニーカーを二秒で装備するとダッシュ――

彼女がどちらに行ったか知らないがとりあえずダッシュする。


しばらく通学路を走るが一向に彼女の姿は現れない。

だが、ここまで来たら意地でも彼女を探したいと願うのがフェルトだ。

あの角を曲がれば、彼女が見えてくる――そう思い何度も曲がり角を曲がる。


もう、見失った――諦めて角を曲がった瞬間だった。


「あっ!」

そこには小さい背丈の女の子の姿があり、すぐに次の角に姿を消してしまう。

だがその後ろ姿は確かにマリアのものであった。

フェルトは駆け足で彼女の消えた角に差し掛かる――


「うわっ! ゲフッ――!」

何かが飛んできて、フェルトの顔から火花が散る。

痛みと衝撃が表皮から脳まで一気に駆け上がった。そのままフェルトは尻餅をつく。


「あっ…………」

やった本人は鞄を構えながら、茫然とその場に立ち尽くしている。


「何をするんだよ!」


いぬくんは飛びかかる勢いで黙って立っている少女を睨んだ。


「あ、あなたが悪いんでしょ……急に追ってくるから……」


バツの悪い顔を見せ、マリアは黙り込んでしまう。

「それでもいきなり攻撃するなんて、キミはテロリストか!」

「いぬくん……大丈夫だから、もういいよ」

フェルトは顔を撫でながら立ち上がる。

「ごめんね。驚かせちゃったんだよね?」

鼻を赤くしながらも笑顔で言葉を紡ぐ。

「ふぇ、フェルト! 鼻血出てるよ!」

「えっ? 本当だ……あははは、どうしよう」


笑うたびに鼻からは血がポタポタと垂れてくる。どうやらなかなか深く切ったのだろう。

鞄のバックルというのは、思いのほか攻撃力に優れているらしい。


「わたしの家が近くにある――あります。手当をするので――」

「だって? どうするフェルト?」

「うーん……私に今、決定権はないみたい……」

上を向きながらフェルトは苦しそうにそう言った。


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