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第三章 急進っ! ウサ耳会④

ドタドタドタ――

昇降口で待つこと数十秒。激しく廊下を打つ足音が聞こえてきた。

「あっ、来た、来た!」

「フェルト! 何、一大事って! 大丈夫?」

息を切らせながら、その少女は姿を現した。

「誰……?」

コマチは首をかしげて、肩で息をしている女子生徒を見つめた。

「ああ、フェルトのお姉さまの、キルトお姉さまですわ」

「なるほど――似てる。ボン・キュッ・ボンのフェルト――」


ボソりとコマチは呟いた。だが、その表現は的を得ている。

フェルトとキルトを並べると顔つきが同じなのに背の差が十数センチあり、

ただ細い棒のようなフェルトに対してキルトはふくよかな膨らみが、

女性らしい美しい曲線を描いている。


そんなことを近くで呟かれているのを知らずにフェルトとキルトの会話は始まる。

「あー。お姉ちゃん、緊急事態なのね」

「急いでいるようには見えないけど――」

「これから、急ぐの。多分」

「そう……で、要件は?」


息を整えるキルトの顔には急がされるべき理由を探す、困惑した表情が浮かんでいる。


「ウルフィーの鼻を貸してください」

「俺の?」

いつの間にかキルトに合流したウルフィー。その顔にも困惑が浮かぶ。

「ああ、大丈夫だよ。鼻をもぎ取るわけではないからさぁ」

「……それは知っているが」

「うん。じゃあ、ついてきて。歩きながら、話すから」

フェルトを先頭にして一同は歩きだす。


キルトは歩きながら説明を受けるのだが、

フェルトの説明は分かりにくいのでその役はフリルのモノだ。

まあ大して分かりやすさが向上するわけではないが賢いキルトはすぐに理解を自分の物へとする。


「ごめんなさいね。お姉さま。こんなことにつき合わせてしまいまして」

「いいのよフリルちゃん。こうやってフェルトのお友達と触れ合う機会なんて滅多にないんだから。

今日はコマチちゃんって新しいコも一緒だし」

「ども……」

隣のコマチは軽く会釈する。


「フリルちゃんみたいなお嬢様的な子もいいけど、

やっぱりヤマトナデシコ美人のコマチちゃんも素敵だよねー。

お姉ちゃん抱きついたくなってきちゃうわ」


「あはははは……」

フリルはグリズを抱き上げ、さりげなく〝抱きつき魔〟の攻撃を防ぐ。

「ぎゅーっ!」

そして攻撃の矛先はコマチへ。彼女は黙って抱きつき攻撃に耐える。

「キルトさん……バスト……フカフカ」

「当ててんのよ。なんてね。うふふふふ」

この日一番の上機嫌のキルトさんであった。


で、やっと現場へとたどり着く。そこは郊外にも近い、路地。

確かに人通りが少ないのだが、ここ数分で何人もの人がこの前を通っている。

ここで白昼堂々ぬいぐるみたちが暴れていたということは信じられない。

「じゃあ、手分けして何かを探そう。お姉ちゃんはウルフィーに探知させてね」

「ええ。分かってるわ。ウルフィーお願いね」

「了解した」

ウルフィーはキルトの指示に従って、地面の匂いを嗅ぐ。

フェルト、フリル、コマチはそれぞれ、そこに何か痕跡が残っていないか調べる。


調べ始めて、数分。そんなに広い範囲ではないので、

最初のやる気はどこかへ飛んで行ってしまったようだ。

フェルトは地面に座り、事件を推理している素振りでの休憩。

フリルは堂々と携帯いじり、コマチは何か壁をじっと眺めている。

「お姉ちゃん。そっちの方調べたの?」

フェルトは〝お座り体制″で休憩しているウルフィーとキルト方向へと声を掛ける。

「ああ、そっちはウルフィーが行きたくないんだって」

「何で?」

「下水の匂いが上がってきているからな。鼻が使えなくなる」

「下水? ああ……」

見た先にはマンホールがある。あそこの下から匂いは来ているのだろう。

「マンホール……」

コマチは何かを閃いたように、マンホールの上に立つ。

「んー? コマチちゃん。何か気がついたの?」

「レースの現場……マンホールあった。ここも同じ」

「ん? そーなんだ……」


コマチは鞄から何か取り出した。それは透明色の細い糸――ピアノ線だろうか? 

それをマンホールの穴に通す。

「コマチちゃん? 何やってるの?」

「開ける……」

コマチは皮グローブをし、その糸を思いっきり引っ張る。だが思い蓋は動かない。

「百太郎、手伝う」

頷きとともに百太郎はその糸を咥え一気に引く――

重い音をたてて、金属の蓋は横へとずれる。その下には下水へ通じる穴が開かれた。


「うわぁ……開けちゃった……怒られないかな?」

「ひどい匂いですわ……」


ムワッと上がる匂いにちびっこ二人はたじろぐ。

だがコマチはその穴の中を覗き、梯子へと足をかける。

「ちょっと。コマチちゃん。危ないわよ」

「大丈夫……すぐ戻る」

キルトの制止も聞かずにコマチと百太郎は暗い穴の中に消える。

「ウルフィー。心配だから見てきてくれる?」

「無理だ――勘弁してくれ」

さすがのウルフィーもここばかりはパス。

なので残ったメンバーにできることはコマチの無事を祈ることだけであった。

予想と反して、コマチはすぐに姿を現した。


「よかったぁ……コマチちゃんが姿を現わさなかったら、どうしようかと」

「で、何かあったのですの?」

コマチはその握った手を開く。そこにはキツネ色の獣毛が握られていた。

「下水トンネルにあった……ぬいぐるみここを通って活動している」

「お手柄だよ! コマチちゃん!」

捜査の一歩前進にフェルトは声をあげて喜ぶ。


「じゃあ、さっそく――えいっ!」

コマチの手ごと、フェルトは毛をウルフィーの鼻先へと持って行く。

「ぐぁぁぁぁっ! は、鼻がぁ……」

その瞬間にあのクールなウルフィーが、

もがくことなんの――フェルトは目を丸くしてそんな彼を見つめる。

「馬鹿っ。その毛に下水の匂いが残ってたんでしょ!」

「あっー! ごめんね。ウルフィー」

ハッとして謝るフェルト。もがき苦しむ、

ウルフィーはフェルトのことを口惜しそうな目で睨む。その瞳さえ涙ぐんでいて、可愛そうである。

「結局、匂いの追跡には頼れそうもありませんわね」

のたうちまわる名犬を前にフリルはそう漏らす。

「確かに……けど、一歩前進」

コマチは手ごたえを噛みしめ、その物証を大事に保管するのであった。


帰り道、四人は一緒の帰路へと着く、しかしその間――コマチとの距離は離れている。

「あはは。コマチちゃん。匂うよ。もう少し離れてねー」

「ちょ、ちょっと。フェルト。ダイレクトに言いすぎよ。ごめんね。コマチちゃん」

右手をグーにしてフェルトの頭を殴り、キルトはコマチへと謝る。

「いい。気にしてない……」

「でも、ウルフィーもいるから……もう少し……」

うまく逃げるのがキルトだ。

「分かった」

コマチはフリル側へと寄る。


「くっさぁ……あんた、汚物の匂いするわ? 何? ドリアン成分の香水でもつけてるの?」

グリズはフェルトよりもっとはっきりと物申す。

「グリズ。さすがに失礼ですわ」

「えっ?」

グリズを両手で抱えると、フリルはコマチへと彼女を押しつける。

「ぎゃああああああっ! ふ、フリルー! 何するの!」

「貴方はいつも、いつも生意気なんですわ! 少しは反省しなさい!」

コマチはグリズを受け取ると、その身体を抱きしめ、胸に押し付ける。

「ふがぁぁぁぁ……」

少し暴れた後、グリズは動かなくなった。そんな彼女を見て、

コマチも満足そうな笑みを浮かべるのであった。

「今度は……フェルトも、抱き締める」

「えっ――冗談だよねぇ……ぎゃあああああああ!」

その日コマチ、百太郎を含める二人と二匹はいつもより長めのお風呂となったとか。


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