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第三章 急進っ! ウサ耳会③

「おっはよーっ!」

フェルトは元気に挨拶をして教室へと顔を出す。その笑顔は太陽のように眩しい。

クラスメイトも彼女に釣られ、明るく挨拶を返してくる。

「あら、フェルト。今日も元気ね」

「うん。だってこんなに天気がいいんだもん」

外からは春先の陽光がここぞとばかりに差し込んでくる。

この暑さが続くのならば梅雨を通り越して、夏が飛んできそうだ。

だが、そんな日差しを浴びると、どうしても眠気が……

案の定、フェルトとフリルは授業中、ウトウトとするのであった。

そんな彼女たちが急に覚醒する時間がある。

「待っていなさい! どらごんぱんっ!」

フリルはいつも通り食堂へとダッシュを仕掛ける。

「いつもご苦労なことね」

「あっ、委員長。一緒にご飯食べよっ」

「あらっ、珍しいわね。フェルトから誘ってくるなんて」

フェルトは笑いながら、机を椅子を持ってくる。

「だって、ウサ耳会のメンバー、委員長しか居ないんだもん。

コマチちゃんもスティングくんもどこか行っちゃうんだもん」

レースが見渡すと、確かに彼らの席は空白だ。

お昼休みに入った瞬間に教室を出て行ってしまったのだろう。

「私ね。お弁当食べたら下級生に事件のこと聞いてくるよ」

「ん? 後輩に友達でも居るの?」

「うん。まあね」

確かにフェルトはクラスや学年を飛び越えて友達が多い。

それは彼女の社交性と持ち前の明るさが関係しているのだろう。

レースも何度も彼女が後輩と話しているところを見かける。

大体の場合はフェルトが年下に見えるのだが(背の大きさでの判断で)……

フェルトは会話をしながら器用に早弁をする。

身体が小さい割りにそのスピードは計り知れないものがある。


「ぷはぁ、ごちっそさん。じゃあ、いぬくん行くよ!」

フェルトは椅子を吹き飛ばす勢いで立ち上がり、そのまま教室を出て行った。

今の彼女を例えるなら〝鉄砲玉″だろうか、一度放たれたら、帰ってこないので。

廊下を走り、二年教室郡に突入するフェルト。

走っている間にも後輩が次々と会釈をしてくる。

その一人一人に挨拶をしながらも、彼女はターゲットを探しまわる。

疾風怒濤の勢いで情報を探し回るフェルトの勢いに押されながらも、

後輩たちは次々と事件に関することを話してくれた。そしてついに本人を探し出したのである。


「委員長、ターゲット補足だよっ!」

「せ、先輩、痛いです……それに手を……」

フェルトが連れてきたのは見た感じ気の弱そうな男子生徒であった。

背丈はフェルトより少し大きいぐらいで、まだ可愛らしい面影が残っている。

フェルトに手を握られているのを何とかしようとする仕草もまた愛らしい。


「フェルト。そろそろ手を放してあげれば?」

「あっ、ごめんね」

フェルトが手を離すと彼はモジモジしながらその手を自分の背中の後ろに締まった。


「じゃあ、ここに座って。あと、このメガネっ子は委員長のレースちゃん。

気軽に委員長って呼んでいいよ」


「別に彼の委員長な訳じゃ無いんだけど……まあいいわ」

後輩の彼はオドオドしながらも椅子へと座る。


「じゃあ、事件のことを聞かせてね。あっ、この時ってカツ丼とか出した方がいいんだっけ?」

「それは取り調べのイメージでしょ? 彼、悪いことしていないんだから」

「それもそうだね――はい、私に全部知っていることを話してね。大丈夫、恐くないよー」


どうしてもその口調は刑事モノだ。どうやらフェルトのドラマイメージは崩せないらしい。

レースは注意するのも諦め、彼から話を聞きだすことに専念する。


「あれは三日前のことでした。雨だったのでボクはまっすぐ家に帰ろうと思いました。

ルチ――パートナーも、もちろん一緒です。

ボクはルチを抱えながら傘を差し、路地を歩いていたんです」


「ふむふむ」

フェルトはいぬくんにメモ帳に何かを書き込ませている。

それが後で正確に読めることを願おう。


「で、暗がりに何かあると思い、ふと足を止めました。

最初は捨てられた猫でもいるかと……けれどそこにいたのは、大量のぬいぐるみたちでした」


「それで? 大丈夫だったの?」


「はい……ボクは恐くなってその場からすぐに走って逃げました。

そうすると、いきなり後ろから何かに身体を掴まれたんです……多分、ぬいぐるみです……」


「で、で? 大丈夫? 怪我とか? ルチは?」

いつの間にやら話に夢中になっていたフェルトが彼に大接近し、その先の話を催促する。


「僕は驚いて大声を出すと、そのぬいぐるみたちはどこかに逃げていってしまいました。

幸い僕は転んで足を擦りむいただけで済みました……けれど、ルチは……」


「ルチは――?」

彼は口を紡ぐ。なんというか何かを言い出そうとして、それを言うか迷っているようだ。

「ねえ? ルチは!」

フェルトはそんな彼を気遣えず、尋問を続ける。

「ルチは――ボクが転んだときに押し潰しちゃいました……えぐぅ……ごめんね。ルチ……」


彼はパートナーを怪我させたことに責任を感じたのか、泣き出してしまった。

「え、えっと……ルチちゃん死んじゃったの?」

「いえ……怪我をしただけです……」


その言葉にレースはホッとする。

自分のぬいぐるみを事故とはいえ、

自分で殺してしまったならばこの子の一生のトラウマになりかねないのだから。

とはいっても強く体重をかけられたぐらいでぬいぐるみは死なない。

良くいぬくんを枕にしているフェルトが実証積みだ。


「大丈夫。ルチちゃんもあなたのことを恨んでなんかいないわ。

ルチちゃんを守ろうとしたんでしょ?」


「は……はい」

「うん。じゃあ、責任を感じることはないわよ。

あなたが居なかったら、ルチちゃんはもっと酷いことをされていたかも知れないんだからね。

今は自分を責めるより、ルチちゃんを大切に思う方が大事でしょ」


レースは男の子を自分の胸へと引き寄せる。


「(で、出た! 委員長必殺の〝きょぬー・慰め〟どんな子供も泣き止むという

……くそぉ、私にもあんな胸があれば……)」


「フェルトは今のフェルトが一番バランスいいよ……」


ヒソヒソといぬくんとフェルトは会話を交わす。

必殺技が聞いたのか下級生の男の子はすっかり泣き止んでいた。


それから男の子に事件のあった場所を教えてもらい、取り調べは終了になる。

「じゃあね」

レースはそう言いながら手を振る。

彼は頬を真っ赤に染めながら大きく手を振り自分の教室郡へと戻っていった。

おそらくレースのファンがまた一人、増えたのだろう――フェルトはそう思ったのだ。


「えーっと、昼休みの収穫を報告しまーす!」

ウサ耳会、第二回目の活動。


ちなみに副会長、書記は用事のため

(レースは学年の委員長会議、スティングは郵便局へ行く必要性があるらしい)欠席である。


せっかく報告をしたのにフリルは

不機嫌そのものの顔で机にあるクッキー(コマチの保存用)を食べている。


「こらぁ! フリル! 聞いてたのー!」

「聞いてましたわよ……ああ、なんでスティングは休みなのかしら――ブツブツ」

彼女の口からは文句ばかりが出る。その間、コマチは熱心に何か内職をしている。

「コーマーチちゃん! 何してるの?」

「マップ……事件の起こった場所と時刻、書いている」

そこには市内のマップがあり、彼女は×印と時刻をそこへ記す。

「えっと、あの被害にあった子と委員長の場所の距離って結構離れているんだね」

「うん。そう思う」

マップ上でもその距離ははっきりしている。大体一キロぐらいだろうか。

下級生君の襲われた時刻は大体四時半、委員長が五時、三十分で一キロならば移動範囲だろうが……

「この一キロをぬいぐるみたちは移動したんだー。まるで民族大移動だね」

「けど……理屈に合わない……目撃情報……0」

「じゃあ、一瞬で移動したとでも言うのですの? 馬鹿らしいですわ」

さっきまで突っ伏していたフリルが噛み付いてくる。

彼女はまだ〝血染め兎〟の説は信じていないらしい。

「分からない……けど、三十分あれば、方法あるかも」


「そうだよねぇ……あれだっ! みんな、ほふく前進して、

壁に耳を当て、カモフラージュした迷彩で見つからないように行ったとか? あとダンボール――」


「はい、はい。ゲーム脳は黙ってくださいまし」

「むーっ……」

半ば本気の意見を真っ二つに斬られ、フェルトは少し不満げな表情を見せる。

そんな二人を眺め、コマチはいきなり立ち上がる。

「どうしたの、コマチちゃん。トイレ?」

「……現場検証」

「おお、やる気だねぇ。フリル、私たちも行くよっ!」

「えーっ……」

フリルはやる気が皆無だ。

「成果を見せれば……スティングも〝うわぁ……フリルちゃん。

すごいね。ボク、感動しちゃったよ。これ、お礼ね。チュ――″みたいになる……かも」

「フェルト行きますわよっ!」

一瞬でフル充電完了する。

「よーしっ! フリルもやる気だしー。やっちゃうよ。れっつごー!」

「待つ」

「ゲフッ――」

フェルトは襟首を後ろから掴まれ、急停止。

「な、なに? コマチちゃん……」

「このまま行っても、メンバー不足……鼻が利くぬいぐるみ、必要」

「そっかぁ……じゃあ、奥の手を使うべき時が来ましたな!」

フェルトは胸元から携帯電話を取り出し、ボタンをプッシュする。

数秒の電子音の後に相手が電話を取る。

「もしもし――フェルト?」

「一大事! すぐ来て、絶対来て。走ってきて! 昇降口ね」

「ちょっと――フェ……」

通話を強制終了。

「じゃあ、昇降口に向いましょう」

二人は何も言えずにフェルトの後に従い、部屋を出た。



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