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第三章 急進っ! ウサ耳会②

「というわけで第一回ウサ耳会、会議を始めまーすっ!」

放課後の一室で、フェルトは高らかに宣言する。

「ちょっと、狭い部屋なんですから、そんなに叫ばないで下さらないかしら?」

「えへへ……つい……」

フェルトは反省したようにその場へと座る。

確かに彼女が言うように部屋は狭い。

面積的には八畳ぐらいの部屋なのだが、部屋を埋め尽くす本棚や、

オカルトグッツ(コマチの私物らしい)に伸縮され、その面積は半分ぐらいになっている。

その部屋の中央には長机二つとパイプ椅子があり、そこにみんなが座っている形になっている。

「で、会長。会議ってなにをやるのかしら?」

レースからの当然の質問だ。

「そりゃあ、これからの調査方法を話し合うに決まってるでしょ!」

何を言ってるのと言わんばかりに、フェルトは叫ぶ。

当然ながら狭い部屋の中での彼女の甲高い声はうるさいぐらいに響く。

「じゃあ、どうやって犯人を捜すか、意見出してくださーい」

どうやら捜査方法までは考えが回らなかったらしい。

彼女は他のメンバーの頭脳に頼るために、そんなことを言う。

「捜査の基本はまず現場検証と事情聴取ですわ!」

まず始めに意見を出したのはフリル。

「おおっ。刑事ドラマみたい」


「フリル。昨日、熱心にウィークリーサスペンス見てたものね。

〝コイツが犯人ですわ〟とか言って、見事に推理を外していたけど」


「ちょ、ちょっと、グリズ。お黙りなさい。私も推理を外すことぐらいありますわ!」

グリズを喰わんばかりの目で睨むフリルだ。

グリズはそんな目も気にせず、ファンデーションのケースの鏡で前髪の様子を確認している。

「まあ、テレビの影響はともかく、いい方法だとは思うよ」

「でしょ? スティングは話が通じて助かりますわ」

褒められたことで頬を染めるフリル。

「残りの二人……誰?」

コマチは被害者の残りの人を知りたがっているようであった。

「確かに、他の被害者って誰なんだろうね? お姉ちゃんの話だと下級生って聞いたけど」

「そうなると一、二年生の誰かになるね」

「うん。とりあえず、それが誰かは、私が聞き出しとくよ」

「フェルト、貴方で大丈夫なのですの?」

「ふふふ。私の〝じょーほーもー〟を舐めないでよね」

自信たっぷりに答えるフェルト。その場に居たみんなが不安の色を隠せない。

「ならば、先に現場検証」

コマチは自分の鞄を持つと立ち上がる。

「コマチ、アンタ、今から行くわけ?」

「犯人の痕跡……早いほうが残っている」

「そっか。じゃあ〝膳は急げ〟だ――みんな、はやく、はやくっ!」

フェルトは立ち上がり、一目散に教室を出る。

やれやれといった様子で他のメンバーも彼女の後を追うのであった。


レースに案内されて五人とそのパートナー(ペンギルは怪我のために欠席)は、

事件のあった路地まで来ていた。

通りから数本入っただけなのに、その裏路地には通りのような人通りも、活気も無い。

事件を起こすにはうってつけの場所であった。

「ねえ、本当にここなの?」

「ええ、そうよ」

フェルトはつまんなそうな顔で路地を眺めている。

「血痕とか、人型の白線とか、A、Bとか描いてあるやつとか、あると思ったのに……」

「血痕って……殺人事件じゃないのよ」

レースはため息だ。スティングは冷静に

「まああの日から二日だからね。現場検証はとっくに終わっているだろうしね」

と考察を述べる。

「でも、警察が来たんじゃ、手がかりなんて残ってないのでは?」

「んー、フリルの言うとおりかもね。私も警察に場所とか説明したし」

話をしている間にもコマチは路地にしゃがみ込んで、アスファルト上を細かく確認している。

亀の百太郎も気難しそうな顔で地面を睨むのだ。

「フェルト……いぬくんを……」

「ぼ、ボク?」

急な指名でボケ顔をしていた、いぬくんは、大層驚いたようだ。

「ほら、いぬくん。指名だよ。コマチちゃんにこき使われてきな」

「う、うん――ご指名ありがとうございます。当クラブ、ナンバー.4。いぬくんです」

「冗談はいらない」

「うわあああん。フェルトーっ。この人冗談通じないよぉ!」

「ほらほら、いぬくん、泣かないの。コマチちゃんはツッコミ慣れしてないだけだから」

「う、うん……」

「私……ボケもツッコミも……結構、できてる……と思ってる」

真顔でそんなことを言うコマチ。

「ちょっと、スティング。これってボケ?」

「さ、さあ、僕には分からないな……」

レースとスティングは顔を見合わせてヒソヒソとそんな会話を交わした。

「それで、コマチちゃん。いぬくんで何をするの?」

「犬……嗅覚が良い。亀、トカゲ、さすがに無理」

「ルーシーはカメレオンなんだけどなぁ……」

スティングの補足は聞こえてるのやら。彼女は路地を指差す。

「え、えっと……」

いぬくんは理解できていないのかオロオロとその場で目を左右に動かす。

「つまり、犯人の匂いが残っているかもしれないから、嗅げってこと」

レースはまるでフェルトに教えるかのように、そのパートナーのいぬくんに丁寧に教える。

「ああ、そういうことかー!」

フェルトも分かっていなかったらしい。

「でも、無理だよ。いぬくん、鼻が良くないもん」

「は?」

コマチは間抜けな、そんな声を出す。

「いぬくんね。鼻炎持ちなんだよ。家ではいつも鼻水ダラダラだよ」

そう補足説明を入れている間にもいぬくんの鼻からは鼻水が垂れてきた。

「チッ……役立たず――」

「ひぃぃぃ!」

コマチのガン飛ばしで、いぬくんは萎縮してフェルトの足元にしがみ付く。

だが、困った。これで手がかり模索は振り出しである。

「おーっ、ほっほっ! ついに私の出番ですわ」

「わっ、フリル居たんだ」

「失礼ですわね。先程から居ましたわ!」

存在感がなかったフリルが急浮上してくる。そして彼女は指を出し、

「さぁグリズ。匂いを辿りなさい!」

と、パートナーへと指示を出す。

しかし肝心の彼女は化粧直しに夢中でその場から動こうとしない。

「ちょっと、グリズ。見せ場ですわよ」


「ヤダ。なんで私が地面に這いつくばって会ったこともないヤツの匂いを嗅がなくちゃいけないの?

まあ、一度会ってても、イケメンじゃなきゃ、絶対嫌だけどね」


「グリズ。そう言わずに。さあっ!」

「ヤダ」

グリズは気分屋だ。フリルが言って動かないなら、誰が説得しても無理だろう。

「でも、事件の当日が雨だったし、匂いなんて残らないんじゃないかな?」

「確かにね……というか、スティング。そういうことは最初にいいなさいよ」

「ご、ごめんね。なんか話題を切るのは悪いと思って……」

「はぁ……」

言い争うグリズとフリル。泣くいぬくんをなだめるフェルト。

一人イライラとするコマチ。

会として記念すべき一日目の行動は悲惨な状態で幕を閉じるのであった。


「今日のフェルトちゃん日記」

いぬくんが寝ているベッドの隣で寝っころがりながら、彼女は日記を書く。

別にそう宣言しなくてもいいのだが、それが彼女の習慣のようになっているのだ。


「今日はみんなと現場検証をしました。

ウサ耳会、初めての活動ということなので気合を入れまくりました――

けれども、何も手掛かりが掴めませんでした……

というか……みんなバラバラ、私の熱意が伝わってないのかなぁ……

でも、諦めないよ。絶対に犯人を見つけ出して、改心させるんだからっ!

とにかく会長の私が頑張らないといけないの。

頑張れフェルト、ファイトだフェルト! 日記終わりっ」


フェルトは日記を閉じるとスタンドを消した。

それでも部屋の中は完全には暗くならない。

彼女は恐がりなので部屋の電気を消さないのだ。

豆電球のオレンジの明かりだけが部屋の中をほのかに照らし出す。

フェルトは布団をかけると、いぬくんを抱きしめる。

少し加減を間違えたのか彼は「ウッ」と、うめき声を上げる。

だがその声は寝言のようだ。その寝息を子守唄にフェルトは眠りにつく。

明日も天気であると信じて――


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