1-06 その元彼、甘やかし上手につき注意!
すごく今更だけど、大家さんの自己紹介タイムが始まった。
「えっと……詩乃ちゃんの元彼の、大谷 尚哉です」
「オーヤ?」
白玉が、なんでオーヤじゃないのか? って顔してこっち見てる。
「名字がオオタニです。……オーヤで良いですよ」
「なるほど、オーヤは偽りの名……。オータニ。それがお前の真名か。覚えておこう」
意味深に言ってるしフェンリルの台詞だと思うと格好良い気がするけど、隠していたわけじゃない。
私がずっと大家さん呼びしていたのと、白玉に名乗り損ねただけとも言う。
「マナ……と言うか、大家は役職と言うか……」
「なるほど、元彼な。やはりお前たちは番だったのか」
「いや結婚してないよ! お付き合いしてたんだよ! 過去形だよ!」
「何故別れたんだ? シノ、オーヤに嫌な目にあわされたのか?」
「違うよ。大家さんは良い人だって言ったじゃないの」
「じゃあ何故別れたんだ? やっぱりこの男は信用ならないんじゃないのか?」
「なんでそっちに持っていこうとするかな?」
単純に白玉が大家さんを信用出来てないからなんだろうけど、このまま素直に真実を言わないと会話がループしそう。
でも本当に、言うのは恥ずかしい……。
「言えないのか?」
別れたのは私の都合なので、大家さんも下手に何か言うことが出来ないからか、さっきからずっと苦笑いしかしてない。
私も覚悟を決めるために、プルプル震えるしかない。
「あっ……」
「あ?」
「甘やかしすぎだからですーー!!」
私の台詞が予想外だったんだろう。白玉がキョトンとしている。
「あま、やかし……?」
「そう、甘やかし」
「甘や菓子……それは旨いのか?」
「食べられないからね。甘やかすってことだよ。お腹空いてるんだね」
と言うか、大家さんとの関係について問い詰められたものだから、その間ずっとお米とげてないんだけど!
このままこの話追求するなら、カレーお預けするぞー! なんて言えない。
私も夕飯に同伴したいから。
それと、甘やかされるのがいやと言いつつも、身体はもうカレーの口になっているのである!
なので今日は、今日だけは! 甘やかされる!
異世界から帰ってきたばっかりだし、今日だけは都合がいい女に、私はなる!
明日はちゃんと自分のペースで自分の面倒をみるぞ!
「僕は甘やかしてるつもりはないんですけど……」
「それは余ったカレーをおすそ分けしようと思った人間の言うセリフではないかな……」
天然は自分のことを天然と言わないように、甘やかし系男子もまた自分が甘やかしている自覚がない。
ところでなんか後ろでシャコシャコ音が聞こえるような気がするけど、気のせいかな。
「良いじゃないか、甘やかされて。番の特権だろう」
「良くない……」
「何故だ?」
「大家さんとずっと一緒にいると、堕落しちゃう!」
甘やかされるって言うか、尽くしてくれるから、甘えちゃうとダメ人間なっちゃう!!
「堕落だと……? 恐ろしい……。オーヤ、お前は悪魔なのか……」
「この世界に悪魔はいないですよ」
白玉がブルブル震えてる。
違う大家さん、たぶん白玉の言う悪魔はそう言う話じゃない。
いや、もしかして白玉と大家さん話通じてる可能性ある??
「まあそんなわけで、自立出来ないと困るから大家さんと別れたの」
「詩乃ちゃんは仕事で帰りが遅いから、少しくらいは頼っても良いと思うんですけどね……」
「オカンかなってレベル以上に尽くしてくれるから、逆に頼りにくくてね……」
「僕、実質無職のようなものですし暇なので……」
「そんなこと言って、大家以外にも不動産業やってるって知ってるからね!!」
大家さんはすずらん荘以外にも土地を持っているのである。
のほほーんとしてるから分かりにくいけど、金持ち性格よしイケメンなどなどと、スパダリ要素持ちなんだよね、大家さん。
私は手をパン! と叩いて話を終わらせようとした。
「さあ、この話はおしまい! ご飯炊かないと! カレーが食べられないからね!」
「そうだ! メシ! 腹減った!!」
「あ、お米とぎましたよ」
「えっ!? いつの間に!?」
振り返ると大家さんが炊飯器のスイッチを押しているところだった。
「二人とも僕の世話になりたくないってところも、似てますね」
白玉は大家さん家にお世話になりたくないって言っていたし、私は甘やかされたくないので……まあ似てると言えば似てる。
苦笑する大家さんに反論出来ないところが悲しい……。
大家さんが私の元彼だと知ったからか、白玉は大人しくご飯が炊けるのを待ってくれた。
その間、大家さんは冷蔵庫からレタスやプチトマトを取り出し始めた。
サラダ作るのかな?
それなら私は一度家に帰って部屋の様子を見に行こうかな、と思っていたら、大家さんはさらに冷蔵庫から卵を出してゆで卵を作り始めた。
「……いや待って!? カレーあるのに、なんでゆで卵作ってるの? トッピング?」
「え? サラダを作るんですよ」
「レタスとプチトマトだけでもじゅうぶんだよ。私たちのために、そこまで手が込んだもの作らなくて良いのに」
「卵ゆでてドレッシングをかけるだけなので、たいしたことじゃないですよ。それに食べますよね?」
「ぐ……いただきます……。ありがとうございます……」
「どういたしまして」
にっこり笑顔がまぶしい尽くし系男子め……!
「手伝うよ?」
「あとはゆで卵の殻をむいて、ドレッシングで和えるだけですから」
「じゃあ殻むき手伝うね?」
「はい」
「絶対だよ? 絶対やるからね!?」
「え? はい」
強い眼差しを向けてもにこにこ微笑む大家さんは、邪神以上に強敵すぎる。
放っておいて部屋に戻ると他にも色々作られてしまいそうなので、私も白玉をもふもふ撫でながらご飯が炊けるのを待つことにした。
そう、これは休んでいるわけではない。
大家さんが働き過ぎないか、監視しているのである!
けっして、食いしん坊の主従コンビが大家さんのご飯を待っているシチュエーションではない!!
「シノ。お前の言いたいことは分かっているぞ」
「なにが?」
白玉がめっちゃキリリと真顔で大家さんを睨みつけてるけど、どうしたんだろう?
私、白玉を撫でてるだけだけど?
「あの男が怪しい行動を見せたとき、俺をけしかけようと言うんだろう」
「違う違う! やめてやめて! そんなことしないで!!」
このフェンリル、怖いこと言ってるんだけど!
ちょっとは警戒心薄れたかと思ったんだけど、白玉はまだ大家さんを警戒しているのか。
さすがに危害を加えようとしてると分かったら、このままにはしておけない。
どうしよう。どう説得したら……。
フェンリルに通じる説得、そ、そうだ……!
「お、大家さんは私の番なんだから、傷付けちゃダメ!!」




