1-03 神獣だわん
自分の意志でこっちの世界に来たように感じたから、自由に戻れそうだけど……。
「俺は戻らないぞ!!」
「なんでそこまで頑なに拒否するの?」
「シノのメシがない世界で、生きて行けるかーー!!」
どデカい犬が狭い室内で吠えてうるさいです。
「思った以上に餌付け効果がはんぱなかった……」
「俺の舌を肥やした責任を取れ! 責任を!」
「責任取れって言われても、うちには上げられないし、外に放置するわけにもいかないし、どこで暮らすつもりなの」
「ぐぬっ……。せっかく俺がついて来てやったと言うのに!」
「一緒に来て欲しいなんて、ぜんぜん言ってないけどね?」
あとあの、白玉さん? しっぽをぺちぺち八つ当たりで当てるのやめません? くすぐったいんだけど?
私と白玉がじゃれついている様子を眺めながら、大家さんが首を傾げた。
「白玉は随分と賢いですよね」
「俺はフェンリルだからな! その辺の犬と一緒にするな!」
「っていうか、喋る点についてのツッコミはないの?」
「え? そう言うものだと思いました。それにフェンリルはハイファンタジーものでは定番の幻獣ですから」
あ、異世界帰り設定は普通に受け入れたんだ。
会話に混じっていて凄いなとは思ったけど、大家さんの受け入れ態勢の高さよ……。
そういえば大家さんとは、小さい頃に夢の話で盛り上がったなあ。
将来魔王になるって言う男の子が出て来る夢なんだけど、大家さんも似たような夢を見てたのがきっかけで仲が良くなったんだっけ。
それがまさか、大人になっても幻想獣の話をすることになるなんて、誰が思っただろうか……。私にはその発想はなかった!
「幻獣じゃない! 神獣だぞ!」
「あのね、白玉。そもそもこっちの世界には、フェンリルは存在しなければ喋る犬も存在しないんだよ。ここにいるつもりなら、普通の犬のフリをしないと騒ぎになるし、珍しがられて捕獲されちゃうんじゃない?」
本気で抵抗した白玉を捕獲出来る気はしないけど、問題を起こすならこっちの世界にいさせる訳には行かないからね。
「……じゃあどうしろと言うんだ?」
「まず、魔法みたいに小さくなれないの? このくらいのサイズに……」
「出来るぞ!」
もふんっと言う音がしたかと思うと、白玉がワンサイズ以上ダウンした。犬なだけに、ごく一般的な普通の犬サイズになった。
ついでに、四畳半の半分近くを占領していた白玉が小さくなったことで、部屋がだいぶ広く見える。
「わんわん! どうだわん!」
「棒読みなりに頑張ってるところだけは評価できる。最後のどうだわん、は余計だけど」
ついでに白玉の威圧感も減ったせいか大家さんが触りたそうにしてるけど、白玉は嫌そうに威嚇してる。
「わあ、可愛いですね。このサイズなら騒がれずに済みそうです」
「うっかり人前で喋らなければね?」
「喋らないわん!」
「鳴き声はわんだけで結構だわーん!!」
「詩乃ちゃん。語尾移ってますよ」
美味しいご飯を前にしたらうっかり喋りそうなんだよね、白玉って。
「この大きさなら僕の家でなら預かれそうですけど、どうします?」
「え? 預かってもらえるの?」
「禁止してるのはアパートだけですから。うちなら良いですよ。ただし、ほかの入居者が入って来ても、内緒でお願いします」
ほいほい引き受けてるとペット預かり所になっちゃいますから、と大家さんが付け加えた。
ちなみに三部屋あるアパートには、私しか入居してない。ちーん。
「詩乃ちゃんだけ、特別です」
だから内緒ですよ、と甘く微笑む大家さんに、ドキッとする。
う……この人はすぐこうやって私を甘やかそうとするんだから。その笑顔も、反則!
「ぐっ……。大家さんってば、またそんなこと言って! でも白玉を預かってくれるって言うのはありがたいな」
ちょっぴり熱を帯びた気がする頬を両手でペシペシと叩いて気を取り直した。
「他に行く宛もないし、白玉も大家さんのところでお世話になるってことで、良いよね?」
「良い訳があるか! 断る!!」
「えええええーーーー!?!?」
せっかくまとまりかけてたのに、白玉がちゃぶ台返してきたー!?
小さくなったのは図体だけで、態度はでかいままだった!
大家さんのとこでお世話にならないなら、どこで暮らすつもりなの!?




