1-02 アパートはペット禁止ですが、フェンリルはペットに含まれますか?
「私、高原 詩乃。こっちの世界では普通の女の子」
「ふつうの……?」
「女の、子か??」
これまでのあらましを大家さんに説明しようとすると、初手で大家さんとフェンリルの白玉が揃って首を傾げた。
「そこ? 最初にツッコむところ、そこなの? 二十五歳の社畜気味な会社員だけど、女の子ですよ! 失礼な!」
「うん。そこは同意です。詩乃ちゃんは大人になっても可愛い女の子です」
「あっ、うん? う、うん。ありがとう?」
人の良い笑顔で改まって言われると、恥ずかしい。
となると、白玉のこんにゃろうはともかく、大家さんは私が普通だってとこを疑問視したわけだね。
……逆になんで? 私、普通でしょ?
とにかく! と、私は説明を続けた。早口で!
私は何の特殊能力も持たない、普通の会社員だった。
まあ、小さい頃は未来の魔王の候補とかいう子と友だちになるって言う夢とかは見たけど……。それは寝てる最中に見た夢の中での話!
そういった厨二病じみた時期があったりもしたけど、ごくごく普通に過ごしていたのに、ある日突然何の予兆もなく、異世界に聖女として召喚された。
邪神を討伐するために編成された勇者パーティーに突如として放り込まれた私が最初にしたことは、ご飯革命!
私が召喚された世界の料理はそれはまあ「味が濃ければ正義」みたいなところがあって、当然日本現代が育んだ肥えた繊細な口の持ち主たる私とは相容れない食世界だった。
ただ味が濃いだけのご飯を食べてやる気が出るか!? と言うパワーワードの元、ガンガン勇者パーティーの食事事情を改善。
さらには通りすがりの村々の食生活も改善した結果、世界に蔓延る邪気が薄れて行った。
あれ? 聖女って癒しのパワーで浄化とかするんじゃなかったっけ? 餌付けしてどうすんの? ってくらい、向こうの時間軸で言うとまあ五年くらいの時を料理をしまくった結果、勇者パーティーは「飯ウマ聖女と珍獣パーティー」と呼ばれるに至り、気付けば邪神もご飯の力で浄化することが出来ましたとさ。
ちなみに、私の作る料理に浄化パワーがあったということは、餌付けしてしまった珍獣のうちの一人……じゃなくて一匹の神獣フェンリルこと白玉と契約してから知らされたことだった。
「と言うわけで、こっちに戻ってきたばっかりなの。でも向こうに行ってから全然時間が経ってないみたいで、びっくりしちゃった!」
こっちに送ってくれる魔法使いが神妙な顔をしてズルズルと日程を引き伸ばすので、やっと戻ってこれたと思ったけど、こんなことなら急がなくても大丈夫だったね。
一気に喋った私は、ちゃぶ台の上の湯飲み茶わんを手に取って口の中を潤す。
「あ~! 緑茶美味しい〜! 程良い苦みが疲れた身体に染みわたる……!」
私のそばにいるフェンリルの白玉が、スンスン床の匂いを嗅いで微妙な顔をしている。
神獣の図体は四畳半には狭いらしくて身を縮こませてるけど、無理して部屋に入らなくても良かったのでは?
いやでも外で待機して人に姿を見られると騒ぎになるか。
「なんだこの床は。草か? 変わった匂いがするぞ」
「畳の匂いね」
そうそう、和室の畳の匂いも最高!! ただいま、すずらん荘!
まあ、いまいるのはすずらん荘の私が借りてる部屋じゃなくて、その一階にある大家さん家の掘りごたつ付きの和室なんだけど。
「タタミ? とはなんだ」
「畳って言うのは……何で出来てるの、大家さん?」
目の前の大家さんに問いかけると、いつもはほんわかで緩い大家さんがこめかみを抑えてしまった。
「……詩乃ちゃん、話飛ばしましたね?」
「あまりにも無反応だったから、つい」
「情報が多すぎて……。……元の話題なんでしたっけ?」
帰って来れたことが嬉しくてテンションあがって話も弾んじゃっちゃったんだから、しょうがないよね。
「信じられないかもしれないけど、私ね、異世界に行っていたの」
大家さんにもう一度説明をすると、真顔で頷いた。
「通りで、異世界聖女風なコスプレをしていると思いました」
なんと! 異世界からこっちに戻ってきたら、向こうで最後に着ていた衣装のままでした。
「コスプレじゃないよ。正真正銘の聖女の衣装なんだから」
いやでも待って。異世界では職業制服でも、こっちに来るとコスプレ扱いになる?
大家さん以外に見られていたら、不審者扱いされていたかもしれない……。
「詩乃ちゃんにとても似合っていて可愛いですよ」
「んぐッ!? あ、ありがとう……」
思わずむせそうになった。大家さんはすぐに褒めるので、恥ずかしいしびっくりする。
それと、聖女服着てることを言われてから今更思い出したので、早急に着替えたい!
しかしそんな隙はないし、白いもふもふの塊が道を塞いでいるから動けない! 無理!
「えっと、つまり? 詩乃ちゃんは異世界に行って飯テロ革命を起こしたんですね?」
「起こしてないよ?」
「さっきの話を要約すると、そういう話だった気がするんですが……」
「あちらの世界の大多数の胃袋を掴んだんだ。間違ってないだろ」
「間違ってるよ!」
「それで、その超大型犬は、詩乃ちゃんの飯テロに負けてついて来たってことですか?」
「勝負してないよ!」
「それに俺は超大型犬じゃない! 神獣フェンリルだ!」
「名前は……白玉でしたっけ? 詩乃ちゃんが名前つけたんですか?」
はい、フェンリルの白玉の名前は私がつけました。
答える代わりに真顔で頷くと、白玉が微妙そうな顔をしてしまった。
「真っ白な毛玉を見てたらつい、お腹が空いて……」
「シラタマって食い物の名前なんだろう!? ほかに威厳のある名前があっただろう!?」
「そのときは思いつかなかったなあ……。でも白玉って食いしん坊だし、ぴったりだと思うよ」
しょぼくれている白玉に同情の眼差しを向ける大家さん。
「何にしても、うちのアパートはペット禁止ですよ? ……ええっと、神獣でもダメです」
「やっぱり、そうだよね……」
「なんだなんだ、それなら勇者やエルフは入居禁止か!?」
「白玉、例が具体的過ぎるんだけど……」
「え、ええ? まあ、僕たちと意思疎通が出来て良識のある人型なら問題ありませんけど……」
「神獣は動物枠なの?」
「住民にペット判定される要素があるなら、まぎれもなく動物枠です」
「猫耳ってどういう枠になるんだろう」
まあ、もしすずらん荘がペット可だったとしても、白玉の図体はでかすぎるので私の汚部屋に入る気がしない。
……あれ、白玉ってふつうの大型犬サイズに変化できなかったっけ?
そう思って白玉をじーっと見つめてみると、ふいっと視線を逸らされた。
「野宿はごりごりだからな!」
おかしいな? 野生のフェンリルって野宿で生活しているはずなのに、白玉が変なことを言う。
贅沢を知ってしまったフェンリルから、神聖さと野性味が消えていて、もやは白玉は飼い犬なのでは?
とにかく、私の意図は伝わってないけど、内飼いは禁止だし外飼いも嫌ということは、取れる手段はひとつだけ。
「白玉、元の世界に戻れないの?」




