2-04 絶対に会社に行きたい社畜 VS 絶対に会社に行かせたくないニート(※ニートじゃない)
めちゃくちゃソワソワして落ち着かない私ではありますが、私はしぶしぶと席に着きました。
なお手伝う間もなく、昼食は出来上がっていたのです。
ほんと私、何もしてないな……。
「お昼ごはんは鮭の西京焼きです」
自動と言う名の大家さん配膳によって手際よく目の前に置かれた鮭の西京焼きの香りが食欲を誘うけど、同時に役立たずの悲しみも誘うのでした。ほろり……。
「酒の最強焼き? 食べると酒に強くなるのか?」
白玉がスンスン匂いを嗅いでる。
「お酒じゃなくて、鮭って言うお魚のお料理ですね」
「向こうの世界で言うとサーモンだよ。こっちでもサーモンだけどね」
あんまりサーモンサーモン言ってると、舌噛んでサモンって言いそうになるのでやめておこう。
向こうの世界から愉快なものが召喚されてしまいそうなのでね。
「サーモンなら食ったことがあるぞ! だが、この匂いは初めてだ」
鮭の西京焼きのほかには、白いご飯に大根のお味噌汁と、厚揚げ焼きと、煮しめがある。
ザ・和食メニューなのは、もしかして異世界から帰ってきた私のために、このチョイスにしてくれたのかな。
それにしても大家さん、どんだけ作ったんだ……。
でも完食するんだろうな……主に食べ盛りの小学生男子みたいな食欲の持ち主である白玉が。
そう考えると、やっぱり手伝わないと……。
でも仕事にいけないといけないし……。
普段なら白玉に色々説明してあげるところだけど、焦りもあって心の余裕がない。
じーっと目の前の美味しそうなご飯を眺めていると、大家さんが心配そうに私を見ていた。
「詩乃ちゃん? 食欲ないですか?」
「ううん、食欲あるよ。美味しそうだね、頂きます!」
まずはお味噌汁をひとくち。お出汁が効いたお味噌汁は、身体があったまる。
「美味しい……」
なんとなく、硬くなっていた心もほぐれていくような気がする。
ところで、さっきから大家さんがニコニコ笑顔で私を見守っているので、むずむずして仕方がない。
「……大家さん。あんまり見られていると緊張するんだけども」
「あっ。すみません……。詩乃ちゃんが美味しそうに食べてくれるので、嬉しいなと思っていたら、つい……」
「あ、ありがとう……美味しいよ」
本当に幸せを噛みしめるように言うので、なんだか私まで恥ずかしくなってしまう。
いたたまれなくなって静かに食事をしていると、白玉が美味いうまいと言いながら爆速でおかわりをしていく。
「サイキョー焼きとやら、魚の臭みが少なく甘辛な風味で美味いな! おかわりはあるか?」
「お口に合ってよかったです。前に作って冷凍した分しかないので、おかわりはまた今度ですね」
「よろしく頼む! それと、このゴロゴロ野菜の穴が開いたやつとかイモは歯ごたえがあるな。こっちも味が染みていて美味いぞ!」
「煮しめですね。穴が開いてるのは蓮根と言います」
私が黙っているものだから、大家さんが白玉専属説明係になってしまっている。
良く考えてみると、大家さんちの冷蔵庫って、どんだけ容量あるんだろう。異空間かな? それとも空間魔法の使い手かな?
「これは昨晩仕込みをして……」
「……え? ちょっとちょっと! いつの間に仕込みなんてしてたの!?」
もしかして私と白玉が大騒ぎした後!?
「詩乃ちゃんが上に荷物取りに戻っていたときですよ」
「あのとき作っていたのはこれだったのか」
「いつの間に……」
それじゃあ気付かないのも仕方ないけど、何も出来ない自分が余計に虚しくなっていく。
せめて仕事くらいは頑張らないと……。
決心を深めながらも、ずずず……とお味噌汁をすすっていると、またもや正面から視線を感じる。
今度の大家さんは笑顔じゃなくて、真顔だった。
本気で私を休ませたいらしい。
「…………」
「…………」
そろそろお昼ごはんを食べ終わるところなんだけど、終わりに近づくにつれて大家さんが私をめちゃくちゃ警戒してるのが分かる……。
そして私は仕事に行きたい。
絶対に会社に行きたい社畜と、絶対に会社に行かせたくないニート(のんびりしてるからニートに見えるだけで、ちゃんと収入はある)の戦いの火ぶたが、再び切られた!
ファイッ! カーン! (脳内再生環境音)
「私、これを食べ終わったら会社に行くん……」
「だめです。休みましょう」
「ひん!」
フラグを立てきる前に速攻で叩き折られた。
社畜撃沈である。
ちゃぶ台に突っ伏していると、白玉がふわふわ尻尾でもさもさと慰めてくれた。
ぐすん。でも諦めない!




