1-12 元聖女(ツッコミ)不在! 大家と神獣の夜のひそひそ攻防戦?
※ほぼ台詞のみ。
これは、詩乃が家で支度している間の出来事。
台所でいそいそと明日の料理の下準備に取りかかる大家に、白玉が問いかけた。
「それで……。オーヤ、お前は何者だ?」
「えっと……。この世界で暮らす、普通の男の子です。詩乃ちゃんいわく、無害な優男です。……………………」
「自分で言っておいて、地味にへこむな! めんどくさいやつだな!」
「すみません。とにかく、普通の人間ですよ」
「そんな戯言、俺に通用するか。シノは気付いてないようだが、お前から妙な気配を感じるぞ。正体を明かせ」
「う、うーん……。そんな得体の知れない男が作った料理を、どうして食べたんですか?」
「メシに罪はない! それに、お前のメシはシノが作るのと同じ匂いがしたからな」
「……そうですか。そう言われると嬉しいですね」
「で、お前は何者なんだ? 普通の人間ではないだろう」
「……普通の女の子の詩乃ちゃんにとっての帰る場所になりたい、普通の男の子ですよ」
「なりたいのか? なれてるのか?」
「……なれてると良いんですけどね。ひとまずは、白玉がうちにいてくれるので、詩乃ちゃんもここに帰ってきてくれますから。少しずつ仲を進展させて行こうと思います」
「のんびりしていて良いのか? シノは向こうの世界でそれなりにモテていたみたいだぞ」
「えっ。……新しい恋人が……いるんですか?」
「いや。シノは『いまやることを大事にしたいから、恋愛している余裕なんかない』って言っていたな」
「……そうですか」
「……それはどう言う顔だ?」
「えっ? どんな顔してましたか?」
「笑ってるような悲しいような、よく分からんな」
「……僕もよく分かからないです。でも……」
「うん?」
「……もう一回、告白してみようと思います……!」
「そうか。頑張れ」
「応援ありがとうございます! フェンリルに応援してもらえるなんて、縁起が良いですね! 頑張ります!」
「ところで何を作っているんだ?」
「明日のおかずの仕込みですよ」
「楽しそうだな」
「そうですね。好きなひとのために作った料理を美味しいって言って食べてもらえるから、嬉しいですよ」
「当然、俺のぶんもあるんだろう?」
「ふふっ、もちろんです」
「そうか! 楽しみにしているぞ!」
ちゃっちゃっちゃっ、と嬉しそうなリズム音を立てて立ち去る白玉。
包丁で野菜をトン、と音を立てて切った大家が呟いた。
「……詩乃ちゃんがやっと帰ってこれたんだ。明日は、仕事に行くのを止めないと……」
振り向いた先には、五月四日に丸のついたカレンダーがあった。




