1-10 マスターキーで開錠! 密室もふもふ事件
召喚直前まではバッグを持ってたはずで、気付いたときにはすでに手ぶらだった。
貴重品が入ってたから困るんだけど、謎の次元の狭間とかに紛れて消えちゃったりとかすると、どうしようもないかな。
もしかしたら転移がうまく行かずに私も消滅した可能性があるかもしれないと思うと、怖すぎる……。
さて。さすがに私の家と大家さんの家は繋がっていないので、家に帰るには一度外に出る必要がある。
誰かに聖女コスプレが見つかると恥ずかしいなと思っていたところ、大家さんが何も言わずに上着を貸してくれた。
帰ってきたのは夕方だけど、外はもうとっぷり日が暮れている。
よくよく考えてみたら暗いので、誰かに衣装を見られるってことはそうそうないだろうけど……。
「相変わらずの気遣い上手め!」
「? 何か言いましたか?」
「なんでもないよ。独り言だからね」
と言うわけで、私の住んでいる部屋の玄関に大家さんと一緒に向かい、鍵を開けてもらう。
帰ってきて早々に大家さんと出会えて、本当に運が良かった。
名目上はペット禁止なので、白玉は大家さん家でお留守番です。
「開きましたよ。どうぞ」
「ありがとう!」
マスターキーで密室を開けてもらうシチュエーションって、なんだか何かが起きそうでドキドキする。
「……鍵開けて死体あったらどうしよう?」
「入居者は詩乃ちゃんだけなのに、事故物件にされてしまうと余計に住んでくれるひとが来なくなっちゃいます……」
「……たしかに」
自分で言い出しといてなんだけど、ちょっとだけ不安になってしまってそろりとドアを開けた。
暗いので照明をつけると、室内の様子は私が最後に家を出発した日の朝のままのように見える。
「良かった。何も変わっ……」
変わってない。と言おうと思った瞬間、室内にガタンッと言う音が響いた。
「ひぎゃああああっ!?」
「詩乃ちゃん!? 大丈夫ですか!?」
不審な物音に飛び上がって、思わず変な声を出して大家さんにしがみついてしまった。
「だだだだだいじょうぶだけど、な、なんかいる!?」
「あっ、詩乃ちゃん……あそこ……」
あそこ!? あそこが何!? 何があるの!?
その瞬間、何かに明かりを遮られたように、部屋が暗くなった。
「ひぇっ!?」
「あっ……」
大家さんが更に何かを見つけたのか、「あっ」って言ってるけど……「あっ」ってなに!?
おそるおそる振って大家さんが指した場所を見ると、さっきまで何もなかった場所に……。
「シノ、どうした!? 敵か!?」
薄暗闇の中、もっふりとした巨大な銀の塊が、室内に収まり切らずにみちみちにはまっている……!?
「にぎゃああああ!!!」
「し、詩乃ちゃん、あれは白玉ですよ」
「びびびびびっくりしたー!」
「呼ばれたから来たのに、なんで叫ぶんだ!?」
「呼んでないし、結局呼んだら来るんかい!」
さっきは呼んだら来い! って言ってたのに。
しかも私の悲鳴で危機を察知したからか、元の巨大サイズに戻っているし。
心配してくれるのはありがたいけど、びっくりした!
「で、何があったんだ?」
「えっと……白玉の下に、何か落ちてるみたいなんですよ」
そっか、最初に私が叫んだ理由は、白いおばけが出たからじゃなかったんだ。
その前に変な物音がしたんだっけ。
で、白玉がその何かを踏んでいると……?
「そういえば妙な魔力を感じるな」
「毛玉がもふもふすぎて、床が見えないよ」
白玉をタシタシと手のひらで押すと、白玉が「むう……」と唸る。
白玉がしぶしぶと「もふん!」と音を立てて小さくなると、部屋が一気に明るくなった。
どうやら巨大化した白玉が照明も塞いで、部屋を暗くしていたみたい。
怪奇現象かと思ったよ……。
「シノが叫んだのは、これが原因か?」
さっきまで暗闇を招いた獣が、下敷きにしていた物体を前足でタシタシ叩いている。
それは、異世界に行ったときに消えたバッグだった。
「私のバッグ!」
「突然現れましたよね。詩乃ちゃんが異世界から帰ってきたように、バッグも家に戻ってきたんでしょうか」
「魔力を帯びているな。何者かがここに転送したのだろう」
「うちはリスポーンポイントじゃないんだから、急に転送しないで……。心臓止まるかと思った……」
「びっくりはしましたけど、無事に見つかって良かったですね。中身は大丈夫ですか?」
「あ、そうだ」
大家さんに促されて、バッグの中をチェックする。
スマホとお財布に交通系ICカード、あと家の鍵も無事に入っていたので、ほっとした。
あんまり見たくない社員証も入ってるよ。これでいつでも会社に行けるね! ……行きたくないなあ。
「うん、全部入ってるはず! 貴重品一式なかったら今頃大変なことになっていた……」
「良かったですね。では僕たちは下で待ってますね」
「うん、ありがとう。ほら白玉も、大家さんと一緒におうちにお帰り」
「アパート部分はペット禁止ですからね」
「くぅーん」
「そんな悲しそうな声を出しても、犬のフリをするならなおさらダメだよ?」
「ぐぬぬ……。仕方ない、オーヤの家で待ってるからな!」
「はいはい」
騒動が無事に落ち着いたので、大家さんが白玉をだっこして下の階に戻って行った。
白玉はちょっと嫌そうだったけど、大家さんはもふもふを堪能できるからか嬉しそうだった。




