デモだよね?
合図もなく、三人はそれぞれの鳥に身を預けた。
空に出た瞬間、風の層が変わる。
羽ばたきの音が重なり、三つの影が川の上を滑った。
「じゃ、軽くいくよ!」
サイラの声が弾む。
そのまま先頭に出た。
イレナのウィスプホークは、無駄のない角度で追いすがる。
ラドゥは一拍遅れて、少し高い位置を取った。
三羽は、ほぼ横並びでボールゾーンに入った。
宙に浮かぶ球体は、一つではない。
高度も間隔もばらばらに、
十数個の球が空間を占拠している。
宙に浮かぶ球体が、ゆっくりと回転している。
静かなはずの空気が、そこだけ少し重い。
「じゃ、遊ぼうか」
サイラの声が弾んだ瞬間だった。
ドンッ。
ラドゥのグレイモウが翼を叩く。
一つの球を弾いた――
と思った次の瞬間、
その反動で別の球が動き出す。
連鎖的に、空間が歪んだ。
「いきなり全部動かす!?」
サイラは笑いながら、
バレストラの身体を深く傾ける。
球は回転を増し、
そのままサイラの進路へ。
「いきなりそれ!?」
サイラは笑いながらも、
バレストラの身体を深く傾けた。
鳥の身体が横倒しになり、
そのまま――くるりと反転。
別方向から飛んできた球を、
今度は蹴り返す。
球は弾かれ、
イレナの進路へと滑り込む。
「ちょっと、狙いすぎ」
そう言いながら、イレナは慌てない。
ウィスプホークの尾羽が絞られ、
一瞬、空中で止まったかのように見えた。
鳥の身体が“横”になる。
次の瞬間――
ありえない角度で、くるりと反転。
球の真横をすり抜けたかと思うと、
今度は逆側から蹴り返した。
「ほらっ」
球が弾かれ、今度はイレナの方へ。
「ちょっと、本気で当ててるじゃない」
そう言いながら、イレナは避けない。
ウィスプホークの尾羽が、
きゅっと絞られた。
次の瞬間、
鳥は球のすぐ脇で急停止する。
止まった――
そう見えたのは一瞬だけだった。
くるん、と。
鳥がその場で回転し、
翼の端で球を“撫でる”。
球は勢いを殺され、
ふわりと浮き直した。
「はい、返すわね」
今度は、三人の中央へ。
「それ、優しすぎない?」
サイラが言う。
「デモだから」
イレナは微笑んだ。
「当たると痛いでしょう?」
一つの球を撫でて勢いを殺し、
別の球の回転を利用して、
斜め上へ。
「はい、返すわ」
二つの球が、
同時に、異なる角度で放たれる。
「おいおい」
サイラが声を上げる。
「デモだよね?」
「ええ」
イレナは微笑んだ。
「だから、当たらないようにしてるの」
ラドゥが少し高度を下げる。
その瞬間、
グレイモウの周囲で三つの球が揺れた。
直接触れない。
風圧だけで、軌道を押し曲げる。
球は不規則に散り、
空間そのものが障害物になる。
「乱暴!」
サイラは叫びながら、
一つの球を踏み台にする。
ラドゥが、少しだけ高度を下げた。
「なら、これでどうだ」
グレイモウが前に出る。
真正面からではない。
風圧そのもので球を押し出した。
球は不規則に跳ね、
三方向へ散る。
「はっはははー!」
サイラが叫びながら、
その一つを加速に使う。
球の反動を蹴り、
一気に前へ。
イレナは、もう一つを“足場”にした。
一瞬触れ、
次の風へ乗り換える。
三羽は、
避けているようで、
遊んでいるようで、
しかし――
確実に、
球の海を制御していた。
ただ――
空の中で、笑いながら遊んでいた。
ピコと甲州は、
いつの間にか息をするのも忘れていた。
球は障害物じゃない。
敵ですらない。
「……あれ」
甲州が呟く。
「もう、鳥がどう動いてるか分かんねぇ」
ピコと甲州は、
どの球を見ればいいのか分からなくなっていた。
「……無理だろ、これ」
甲州が呟く。
ピコは、ただ空を見上げた。
球は障害物じゃない。
数が多いから難しいんじゃない。
全部が動いているから、難しい。
そして――
それを、
三人は笑いながらやってのけていた。




