私たちでなくても...
水底静室には、いつもより少しだけ水音が多かった。
シュルヴァン=リゼルは、床に映る水面を眺めながら、
ゆったりと指先を組んでいる。
やがて、高弟の三人が呼ばれて入ってきた。
サイラ=ヴェルン。
ラドゥ=シェイル。
イレナ=ルドゥス。
誰も緊張はしていない。
ただ、この人に呼ばれる時は、だいたい楽ではないと知っているだけだ。
「ふふ……来てくれてありがとう」
声は柔らかく、機嫌も良さそう。
「今日はね」
シュルヴァンはにこにこしたまま続ける。
「ちょっとお願いがあるの」
イレナが一歩前に出る。
「内容を、伺っても?」
「ええ、もちろん」
間を置かずに言う。
「人間の子が二人いるでしょう?
あの子達、スパイラルコーストに出すことにしたの」
サイラが即座に反応する。
「……それで?」
「その前に...あなた達に少し、面倒を見てほしいの」
シュルヴァンは首をかしげた。
一瞬、静かになる。
ラドゥが淡々と確認する。
「指導、ですか。初心者中の初心者ですよね?」
「ええ」
シュルヴァンは軽く頷く。
「ただし――」
そこで、少しだけ声を落とした。
「優しくはしなくていいわ」
サイラが思わず吹き出しそうになる。
「……それ、
“相当やらせる”って意味ですよね」
「ふふ、察しがいいわね」
イレナが慎重に言葉を選ぶ。
「私たちでなくても……
基礎指導なら他にも――」
「いるわね」
シュルヴァンはあっさり認める。
「わたしは...あなた達の為にもなると思ってるわ?」
サイラが腕を組む。
「……追い込んでも?」
「ええ」
即答。
イレナが小さく笑う。
「つまり……
かなり疲れる役目ですね」
シュルヴァンは、満足そうに頷いた。
「ええ。とっても」
一拍。
「でも大丈夫」
「あなた達、そういうの慣れてるでしょう?」
サイラが天井を見上げる。
「断ってもいいわよ?」
シュルヴァンは首を振る。
「その代わり――」
にこっと笑う。
「私が直接やるだけ」
三人は、同時に沈黙した。
イレナが、静かに頷く。
「……シュルヴァン様にこれ以上動いて頂く訳にはいきません。お引き受けします」
ラドゥも同意する。
サイラは肩をすくめた。
シュルヴァンは、心底嬉しそうに手を叩いた。
「助かるわ!じゃあお願いね。
倒れない程度に、ちゃんと追い込んであげて」
その言い方が、あまりに軽くて、
サイラは思わず苦笑した。
「……分かってますよ。シュルヴァン様が無意味なことをさせたことはありません。」
イレナが、ほんの少しだけ笑った。
シュルヴァンは、満足そうに目を細める。
「ふふ」
「話が早くて助かるわ」
そして、にこっと。
「じゃあ任せるわね。あなた達がやるなら、安心だもの」
サイラが答える
「……はい。責任もって。」
水底静室に、
楽しげな水音が、静かに広がった。




