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自分の中のマナ

一週間後。


ピコと甲州は、部屋の中央で坐禅を組んでいた。

背筋は伸びているが、力は入っていない。

呼吸だけが、ゆっくりと床に落ちていく。


二人の背後から、シュルヴァンがそっと手を当てている。


触れているだけ。

押しも、引きもない。


それなのに、

額から、背中から、脇腹から、

じっとりと汗が滲み出てくる。


空気が、わずかに揺らいだ。


二人の身体の輪郭に沿って、

薄い霧のようなものが立ち上っているようにも見える。

熱とも、蒸気とも違う。

内側から“動いた”名残だった。


「うふふ……」


シュルヴァンが、楽しそうに笑う。


「かなり澱は抜けてきましたね。

 このまま流し続けることができれば、

 溜まって腐ることはありません。

 ……死なずに済む、ということです」


ピコが、目を閉じたまま息を吐く。


「物騒ですね……」


「事実ですもの」


軽く言ってのけてから、

シュルヴァンは手を離した。


「大事なのはここからです。

 私が触れずとも、自分で“感じて”“動かせること。

 流れを、流れとして認識できるようになること」


二人の肩が、わずかに上下する。

呼吸が、前より深い。


「……で」


シュルヴァンは、唐突に言った。


「あなた達、スパイラルコーストの大会に出なさい」


ピコと甲州が、同時に目を開いた。


「……え?」


「大会?」


「ええ。そこで二十位以内に入りなさい。

 それができたら、旅に出ても構いません」


一瞬の沈黙。


甲州が、困ったように眉を寄せる。


「……師匠。

 二十位って……なんか、微妙じゃないですか?」


シュルヴァンは、きょとんとした顔で首を傾げた。


「あら?

 そんなことありませんよ」


指を折りながら、楽しそうに数える。


「第五位階の子が十人。

 第四位階は五十人。

 それだけで六十人です」


にこり。


「百位に入るだけでも、十分“すごい”の。

 二十位なんて、相当ですよ?」


ピコと甲州は、顔を見合わせた。


リザードマン領の象徴。

スパイラルコースト。


自然がつくる螺旋の風を読み、障害物をくぐり抜け

鳥と一体になってゴールを目指す競技。


人間領では、スカイバーレットと呼ばれるもの。


「大事なのはね」


シュルヴァンは、二人の前に回り込み、静かに続ける。


「マナの流れを整えること。

 それから、身体と鳥を“一つ”として扱うこと」


床に落ちた光が、彼女の足元で揺れた。


「鳥の能力を最大限に活かすには、

 支配してはいけない。

 委ねてもいけない。

 一体になるの」


少し、声が低くなる。


「プロになれば、血統のいい鳥と出会えるかどうかも重要になります。

 でも、今は違う」


ふっと、またあの可愛げのある笑み。


「まずは、マナを感じること。

 一体化すること。

 そうすれば――」


指先で、二人の胸のあたりを、軽く示す。


「自分の中のマナも、

 自然と分かるようになりますよ。

 ……うふふ」


霧が、ゆっくりと消えていく。


ピコは、まだ残る熱と違和感を抱えながら、

深く息を吸った。


甲州は、拳を握り、静かに吐く。


二十位以内。


簡単ではない。

だが――


不思議と、

「無理だ」とは思えなかった。

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