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焚き火はほとんど灰になり、

浮遊石の結界が淡く灯り、

それだけが世界の輪郭をつくっていた。


ピコも甲州も深い眠りに落ちている。

フィオレンたちも丸まって寝袋に包まれ、

森は虫さえ鳴かず、ひどく静かだった。


その中で、

動かずに立っている影が一つ。


ベラだ。


呼吸もしない。

身体の上下動すらない。

夜の風景に溶け込み、

“生き物ではない何か”として

ただそこに在るだけだった。


そんな静寂の奥で、

遠くの枝が一つだけ揺れた。


風の向きと逆。

葉が一枚落ち、

それが結界の縁に触れた瞬間、

ベラの瞳がわずかに光点を結んだ。


音もなく、

彼女の体内で“何かの処理”が走る。


次の瞬間。


黒い影が結界へ突っ込んできた。


四脚で駆ける魔獣。

月光を吸い込んだような毛並みと、

岩を砕く顎。

結界の外で唸り、

ひっかくように周囲を回る。


ピコは気づかない。

甲州も寝息を立てたまま。


ベラだけが動く。


——ただ、踏み出す。


その一歩の音は、

なぜか“森の音に吸われた”。


魔獣の爪が結界を叩いた瞬間、

ベラはもう獣の懐にいた。


跳んだわけでも走ったわけでもない。

ただ“そこに移動していた”。


彼女の腕がわずかに後ろへ振られ、

機械内部で関節のロックが切り替わる音がした。


そして、


パチン。


乾いた、小さな指鳴らしのような音が夜に弾ける。


魔獣の身体が“折れた”。


無理な方向へひしゃげた四肢。

衝撃で地面に叩きつけられ、

土が舞い、

倒れた獣の口から低い空気音だけが漏れる。


ベラは表情ひとつ変えない。


動かなくなった魔獣を一瞥し、

腕の関節を元の位置にカチリと戻す。


それだけで、

彼女にとって戦闘は終了だった。


結界の光がわずかに揺れ、

再び夜の静けさが戻ってくる。


ピコが寝ぼけて右手を動かす。


「……いま、なんか……」


甲州が布団を引き寄せながらうめく。


「……んぁー…うそん…ふひゅ〜…」


ベラはその声を背に、

また定位置へ立ち戻る。


呼吸も鼓動もなく。

ただ“守るための機械”として。


夜はふたたび、何事もなかったかのように沈黙した。

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