頼もしいんだか怖いんだか
ベラが淡々と作業を続けている横で、
ピコと甲州はようやく落ち着きを取り戻しはじめた。
ピコが周囲の森を見回し、唾を飲む。
「……この星、普通にヤベぇ生き物いるよな。
あの、地球じゃ絶対いない感じのやつ」
「危険生物は複数存在します」
ベラは淡々と言う。
「ただし“モンスター”という分類は不正確です。
この惑星固有の進化系統に属する肉食種です」
甲州が青ざめた。
「六本足の巨獣とかいないよな……?」
「分類上は大型肉食生物です」
「いるんかい……!」
ピコは苦笑しつつ、もう一つの疑問に触れた。
「でさ……結局なんで俺ら墜落したんだ?
星間船って、そんな簡単に落ちるもんじゃなかったろ」
ベラの手がわずかに止まる。
数秒の沈黙のあと、機械的だが低い声で語った。
「原因は“ブラックホール近傍の重力異常”です。
星間航行中、
“イベントホライズンの外側に発生した異常質量の急増”が観測されました」
甲州が瞬きを繰り返す。
「異常……質量?」
ベラは続けた。
「本来、ブラックホールの重力波は一定周期で変動します。
しかし墜落前、周期が突然乱れ、
“存在しないはずの質量影”――
重力源だけが一瞬空間に出現しました」
ピコが喉を鳴らす。
「……重力源が……出現……?
それ、自然現象で起きるのか?」
三人の間に重い沈黙が落ちた。
ピコは、ゆっくり息を吐きながら甲州の肩を叩いた。
「……分かった。
とにかく、サガを迎えに行こう」
甲州も無言でうなずく。
「友好的なら良し。
もし危険な状況なら――奪還だ」
ベラが静かに向き直る。
「あなた方が動けるようになった今、
サガ様を追うのが最適解です。
案内ルートは既に確定済みです」
「よし、行こう」
ピコが荷物を背負い、甲州が続く。
ベラが最後に付け加えた。
「……心配は不要です。
あなた方の生存率を最大化するため、
私は決して離れません。必ず護ります」
甲州が複雑な笑みを浮かべる。
「……頼もしいんだか怖いんだか……」
ピコは肩を回しながら呟いた。
「よし……行くぞ。
サガのところへ」
三人はユグラドシルの根元を離れ、
朝の光とミストラの輝きの中、森の奥へと歩いていった。
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地球の現代人は基本 2つのチップを体内に埋め込まれている
① スマートチップ
・視界に情報を重ねて表示するインターフェース(スマホの進化版)
・通信・決済・ゲーム・健康管理など"超スマホ"
・ここでは 言語学習補助・解析 が特に重要(異世界の言語習得を後押し)
② HECチップ(Hormone Emotion Control)
・感情の振れ幅を人工的に抑え、犯罪や暴走を減らすための社会インフラ。強制的に埋め込まれている。




