閑話3人組
見張り台に夜風が流れ込む。
月は薄く雲に隠れ、森は深い呼吸をしているようだった。
フィオレンが柵にもたれ、わざとらしく空を見上げて嘆いた。
「なあ……なんで俺ら“留守番三銃士”なんだろ。行きたかったなー」
ミュレルが笑いながら肘でつつく。
「いやいや、フィオレンが戦地なんか行ったら五分で隊長に耳引っ張られて戻されてくるだろ」
「おい!偏見だろそれ!」
リアンは弓を抱えたまま、ほぼ瞬きもせずに一言。
「……否定できない」
「なんでお前まで!?」
フィオレンがジタバタするが、悪気ゼロの顔なので迫力がない。
ミュレルは肩を揺らして笑い、軽く手を叩いた。
「まあまあ。俺たちには“見張り特典”ってのがあるじゃん。暇つぶしっていう名の」
「暇つぶしって……どうせまた変なの持ってきたんだろ」
リアンの眉が、わずかに“気になる”形に動いた。
フィオレンの目がキラッと光る。
「なあなあ!ヴァロの新商品、精霊ドロップ買った!?知ってる!?人間って面白いこと考えるよなー。」
ミュレルが腹を抱える。
「お前ほんと好きだな。子供かよ。」
「うるせぇ!花の精霊味はマジで神!
でも“死の精霊味”と“腐敗の精霊味”は……罪。あれは罪」
リアンがぼそり。
「……まずい。あれ、まずい。二度と食べない」
「お前も食べたの!?お前が言うと説得力ヤバい!」
ミュレルは懐から箱を出す。
「実は、一箱持ってるんだけどな」
「マジで!?ひとつ!!」
「……やらん」
リアンの目だけが“欲しい”と訴えている。
ミュレルが笑いながら、今度は小さな銀球を取り出す。
「で、本題はこっち。補給物資で見つけた“やべえやつ”」
「じゃーん。“星囁き弾”!」
フィオレンは吸い寄せられたように前へ。
「うおお!名前からして絶対やべえやつじゃん!ロマン!めっちゃロマン!」
そこにリアンがガチトーン。
「……やめろ。それ信号弾。撃ったら死ぬ」
「遠くで撃てば見えないって!な?ミュレル?」
「まあ……森の奥ならワンチャン?」
「ノッたな!?ノッたなミュレル!!」
リアンがため息をつきつつ立ち上がる。
「……仕方ない。見張りの責任として様子を見る必要がある」
「それ絶対建前だろ!!」
フィオレンがツッコむが、リアンは無表情で顔をそらす。
三人はこそこそと見張り台を降り、倉庫へ向かう。
▪️⚫︎
途中、フィオレンが得意げにマントを広げた。
「ジャーン!見よ!我が“影紡ぎの外套”!」
ミュレルが呆れ顔で突っ込む。
「ガチすぎんだろ。輪郭消えてるじゃん…。」
リアンもぼそり。
「……遊びに全力で挑むの、お前だけ」
三人分の温度差が夜風に流れていく。
▪️⚫︎
倉庫にたどり着き
「ここら辺なんだよなー」
と言ったミュレルの足に、嫌な感触が走った。
ジャリッ。
リアンが即座に身を引く。
「……滑走砂。罠」
「え?ちょっ、おま――」
言い切る前に床が滑り台のようになり、三人は盛大に滑り出した。
「うわあああああああ!!」
「ちょ、まっ、止まんねぇぇ!!」
「……終わった」
ズザザザザザザ――!!
終点は、シーラの館の真正面。
扉が静かに、しかし決定的に開く。
怒りのオーラをまとったシーラと、
呆れ切ったヴァーナが姿を現す。
ヴァーナは僅かな沈黙のあと、淡々と。
「……シーラ様。もう…罠にかかりました」
シーラの眉が“風の刃”みたいに吊り上がる。
次の瞬間。
“風の鉄拳”が三人をまとめて叩き飛ばした。
「ぎゃあああああああ!!」
三人の絶叫が森に吸い込まれ、夜がまた静けさを取り戻した。




