表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

ゴブリン族長グロムの狂喜と、三強者の戦いの影

ゴブリン族長グロムは、久方ぶりに腹の底まで食物が満ちていた。

肉の油が口の端を滴り落ち、腕についた血を舌で舐め取る。


(これだ……これだ! 俺たちが求めていたのは……この満たされる感覚だ!)


思考の端が痺れるほどの快楽。

満腹は暴力より甘く、死よりも強烈に“生”を叩き込んでくる。


「ギャ……ギャギャギャギャッ!!」


笑い声が夜空に突き刺さる。

死体をまたぎながら、周囲を見渡す。


仲間のゴブリンたちは、ある者は血まみれで寝転び、

ある者は拾った臓物をくちゃくちゃ噛み、

ある者は死体を枕にして爆睡している。


(同胞が死んだ? 構わねぇさ。むしろ口減らしだろうが。)

(種が残りゃいい。強い奴だけ残ればそれでいい。)


明日。

もっと北だ。

もっともっと満たされるものがあるはずだ。


グロムには直感で分かった。


(ああ……マナだ。強いマナが北に集まっていやがる……!)

(向かう方向が分かるだけで、笑いが止まんねぇ……!行けるとこまで行くしかねぇ!)


笑いながら、グロムは腹を叩いた。


「生きるってのは、こういうことだぁ!!ギャギャギャギャッ!!」



次の昼すぎ少し離れた前線。


日が差す中、倒れ伏すゴブリンの死体の山を踏み越えながら――

三つの影がゆっくりと戦場を戻っていた。


団長リュシアン。

エースのナリス。

そして警備班長ヴァーナ。


三人とも、まとっている空気が違う。

人間の世界であれば“圧倒的”と評される強者たちだが、

この世界ではまさに“異種の怪物”だ。


リュシアンは銀の刃を払った。

風が巻き上がり、血の飛沫だけが舞う。

彼の剣は、斬るより先に“風圧で内部を砕く”。


華麗。

無駄がない。

ひと振りで三体、息すらする暇なく崩れ落ちる。


ナリスは無表情のまま歩く。

足音がほとんどない。

気づけば敵の背後に立っており、

次の瞬間には首が地面を転がっている。


“斬った”のではなく“通り抜けた”。

それだけ。


ヴァーナは盾を構え、

笑顔で敵の群れに突っ込み、

豪快に吹き飛ばす。

しかし動きは獰猛な獣のようで、敵を捕らえると骨を捻り折るように処理した。


そして――

その三人の戦場の後方で。


サガは、息を切らしながら必死に走っていた。


糸を張り、足を絡め、

硬化させて刃にし、

それでも追いつかれ、

それでも切り抜け、

それでも転び、泥と血で顔を汚した。


ゴブリンの爪が頬をかすめれば、

死が指先ほどの距離にあった。


(こんなの……こんなの戦いじゃない……!)


レティアの風が横をかすめ、

五体のゴブリンがまるで捻じられた草のように吹き散った。


「サガ、こっち! 下がって!」


救われる。

何度も、何度も。


自分だけが“守られている”ことが痛いほど分かる。


エルフたちは華麗に。

吸血族は凶暴に。

自分は――必死に生き延びるだけ。


それでも、サガは糸を張り続けた。

手は震えても、心が折れそうでも。


(生きたい……)


その思いだけが、糸を引く力になった。


日が完全に落ちる頃、

サガは糸を張ったまま泥に倒れ込み――

ついに眠りへ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ