サガ自室にて
押し込められた半隔離の部屋は、もう何日になるのか分からない。
静けさは深いはずなのに、耳鳴りのように“ミストラの流れ”が身体の奥で揺れていた。
サガは膝を組み、ゆっくり呼吸を落とす。
意識を向けると、胸の奥に“うっすらとした温度”がある。
それがミストラなのか、ただの自分の鼓動なのか、まだ判断はできない。
今日の訓練でレティアが軽く教えてくれた言葉が、頭にずっと残っていた。
「方向じゃなくて……“流路”。
ミストラは道を作れば勝手に流れるのよ。これは基礎。」
基礎なのか、これが……。
サガは目を閉じ、気配の流れる“道”を想像してみる。
すぐに上手くいくわけじゃない。
けれど、それと同時に高校時代の剣道部顧問の言葉が胸に響いた。
――松。力を入れるんじゃない。
“ゆるめた瞬間”に気は立つんだ。
それを思い出し、肩の力を抜いた瞬間だった。
天井の梁から、カサ……と小さな音。
目を開くと、透明な六角形の体躯を持つ“足長ダイヤ蜘蛛”が、細い糸を垂らして降りてくる。
体がダイヤのカットのように光を弾き、この世界固有の美しさに見惚れる。
(…変な虫だな。きれいキモい…)
ぼんやり眺めていたその瞬間、
蜘蛛が“ふっ”と糸を切って落下してきた。
「うわっ!」
反射的に、サガの意識が前へ押し出される。
同時に――
空間が、裂けた。
透明な糸が“スッ”と走り、蜘蛛を真っ二つに裂いた。
乾いた音が二つ、床に落ちる。
カラン、コト。
「……マジかよ」
サガはしばらく動けず、ただ糸の残滓が淡く消えていくのを見つめた。
指先がかすかに震えている。
次の日からサガは、部屋の隅でこっそりと“練習”を始めた。
数回だけだが確信できた。
この糸は――
粘る。硬化する。伸びる。しかも細いのに切れない。
制御はまだ下手だ。
外で出したら、間違いなく騒ぎになる。
サガは深呼吸をして、決めた。
(外では……絶対に出さない。今はまだ)
けれど胸の奥では、初めての“自分だけの力”が
静かに芽を伸ばすのを確かに感じていた。




