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「完結済」婚約破棄された令嬢ですが、この国の大結界を張っていたのは私なので、隣国の魔導師団長にスカウトされました  作者: 夢見叶
第2部 ガルディア新生活と魔導師団編 第7章 ガルディア内部の問題

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第46話 真犯人は誰だ

「ここまでが、演習ログです」


 ノエルが魔術板に手をかざし、青い線を一面に呼び出した。


「ありがとうございます。じゃあ、王都計測器のノイズを重ねますね」


 私は水晶板に指を滑らせる。外部ノイズを示す赤い線が、青い線の上に重なっていった。


 山と谷。立ち上がりと減衰。魔力の流れを数字にしたもの。


 大結界の中枢で何年もログを眺め続けていると、そこが「人の筆跡」に見えてくる。


「……主任、ここ」


 ノエルが画面の一部を拡大した。私も、同じ場所で息を呑む。


「演習ログのこの山と、ノイズ側のこの山。頂点の潰れ方まで、まったく同じですね」


「削ってから乗せる、癖です」


「この前言ってたやつですね。瘴気を削り落としてから魔力の膜を貼るときに出る波形」


 アストリア式の大規模術式でよく見た癖。

 そして、山間部の訓練場での演習でも、一度だけ見つけた、あの濁り方。


 演習のときは、内部に協力者がいる前提の模擬襲撃。

 今回は、王都の外から送り込まれてきているノイズ。


 本来なら、繋がるはずのない二つの線が、ぴたりと重なっていた。


「偶然……ではありませんね」


「この一致率で偶然だったら、ぼく、魔導具班やめて詩人になります」


 ノエルの妙な例えに、思わず笑いそうになる。

 けれど、今は笑い流せない。


(ラヴェル子爵家。国境付近の倉庫と街道。演習の濁りと似た儀式魔法。お茶会で出た名前)


 頭の中で、ばらばらの情報が一箇所に集まっていく。


「ノエル。ラヴェル子爵家の所有倉庫の記録、出せますか」


「あります。えっと……王都西、第三防衛線近くの倉庫。ここ、数か月分の魔力消費ログが変です」


「変?」


「出入りは普通なのに、内部の魔力だけがじわじわ減ってる。結界補助陣か何かが、こっそり動いてますね」


 私は別の図面を呼び出した。

 王都を取り巻く小結界と、その一角に描かれた「ラヴェル倉庫」の印。


 そこから細い線を伸ばすと、街道と国境方面へと続く輸送路が浮かび上がる。


(ここで情報を集めて、細い窓を通して外へ流す)


 大結界に穴を開けず、しかし内部の術式に触れながら情報だけ抜き取るやり方。

 かつて私が、自分の逃げ道のために作った「抜け道」と、発想がよく似ている。


「ノエル。窓側の術式に、こちらから干渉できる余地はありますか?」


「……ギリギリですけど、あります。相手の術式の縁をなぞるだけなら。主任の魔力量が前提ですけど」


「十分です」


 私は、指先に少しだけ魔力を込めた。


「向こうが開けた窓の縁に、こちらから薄く膜を張ります。盗みに使われている経路を、そのまま逆流させる形で」


「逆流……ですか?」


「ええ。相手が情報を盗もうとした瞬間、その魔力を追いかけて、術者の居場所まで辿るんです」


 ノエルが目を輝かせた。


「それ、名前つけません? 逆結界、とか」


「では、そのまま採用しましょう」


 私は笑い、そして真顔に戻る。


「罠を仕掛けます。正式な許可を取りに行きましょう」


     ◇


「逆結界か。物騒な単語だな」


 執務室で説明を終えると、セイジュが低く呟いた。


 水晶板の上には、王都、小結界、ラヴェル倉庫、国境方面へ伸びる線。

 その一部に、私が描き足した細い回路が重なっている。


「ラヴェル子爵家の倉庫で、データを抜き取る術式が動いています。それ自体は、今のところ『倉庫の私的結界強化』として処理されているようですが」


「だが実態は、第三国との通信路だと」


「ログと波形、魔力消費の記録、全部合わせると、そうとしか思えません」


 私は、図の一角を指で叩いた。


「こちらから先に術式を壊せば、『偶然似ていただけだ』と逃げられるでしょう。ですから、向こうが動いた瞬間に、私はその術式の縁をなぞるだけにします」


「なぞる、だけ」


 セイジュの眉がわずかに寄る。


「相手の術式に乗りながら、結界の安定も保つ必要がある。負担は小さくないはずだ」


「……楽ではありませんが、できます」


 本当は、少し怖かった。


 他人の術式に魔力を流し込むのは、綱渡りのような作業だ。

 読み違えれば、こちらが弾かれるか、逆流で怪我をする。


 それでも。


「私が大結界の中で覚えた癖を、都合よく利用した相手です。少しくらい、こちらからも手の内を使わせてもらわないと」


 軽く笑ってみせると、セイジュが目を細めた。


「……分かった。必要な権限と人員は、すべて出す」


 そこで一旦言葉を切り、私をまっすぐに見つめる。


「ただし、一人で抱え込むな。危険だと判断した瞬間、すぐ手を離せ。いいな」


「はい。約束します」


 私が頷くと、彼はようやく視線を外し、リカルドへ向き直った。


「ラヴェル子爵家の倉庫周辺、監視を強化してくれ。怪しまれない程度にな」


「了解。団員を何人か、倉庫番と商隊護衛に紛れ込ませます」


「カイルにもログの確認を手伝わせろ。貴族家系の儀式魔法には、やつのほうが詳しい」


「承知。外様の主任殿がどこまでやるか、目の前で見せてやらないとな」


 リカルドの冗談めいた言い方に、私も小さく笑う。


(結果で黙らせる。最初にここへ来たとき、自分で決めたことだ)


     ◇


 罠を発動させる夜は、妙に静かだった。


 塔の最上階、観測室。

 窓の外に広がる王都の灯りを背に、私は魔術陣の中央に立つ。


「ノエル、準備は?」


「計測器フル稼働です。ノイズの閾値も下げました。ちょっとしたくしゃみでも反応しますよ」


「さすがに、くしゃみまでは拾わなくて結構です」


 軽口を交わして、少しだけ肩の力を抜く。


 リゼットとカイルが壁際に待機し、後方にはセイジュが腕を組んで立っていた。


「団長様、本当に見てるだけでいいんですか?」


「アリアから『途中で術式を奪わないこと』と釘を刺された」


「それはそれは。暴走しそうになったら、うちの副団長が止めますからね」


 リゼットの冗談に、リカルドが「おい」と小さく抗議する。

 観測室の空気が、ほんの少し和らいだ。


 私は、静かに魔力を練り上げる。


 王都全体を覆う結界。その一部、小結界の網。

 その中に紛れ込んでいる、ラヴェル倉庫の術式に、自分の魔力を薄く触れさせた。


(……ざらついている。第三国側の術式)


 ガルディア式でも、アストリア式でもない、異質な感触。

けれど、その境界線を読めば、干渉する隙はある。


「ノエル、ノイズの変化は?」


「緩やかに上昇中……あ、加速しました。向こう、窓を本格的に開けましたね」


「カイルさん、現地の様子は?」


『倉庫の内部、魔力が一気に増えた。床の陣が光ってる。……主任、これは通信陣だな』


「こちらからも反応を確認しました。警戒を続けてください」


 私は、術式の縁に沿って魔力を流す。


 向こうから押し寄せてくる情報の波を、壊さないように受け止め、その裏側にもう一本の道を引く。


「……今です」


 ノイズが一定値を超えた瞬間。

 私は、自分の魔力の向きを切り替えた。


 窓を通って入ってきた魔力の波形を、そのまま反転させる。

 糸電話の紐を手繰るように、情報の線を逆方向へ辿っていく。


「追跡回路、展開。ノエル、座標を」


「ロック完了! 王都外縁部、ラヴェル子爵領の離れです!」


「現地班、聞こえていますか?」


『聞こえてる。倉庫の奥の床が開いた。地下に通信室がある』


 カイルの声が、少し早口になる。


『ローブの男が一人。魔力の癖、完全にさっきの波形と一致だ』


「包囲を。術式を完全に止める前に、魔力だけは確保してください。ログを残したいので」


『了解、主任』


 地下の魔力が一度跳ね上がり、すぐに押さえ込まれる気配があった。

 第三国側へ伸びていた細い線が、ぷつりと切れる。


「……成功ですね」


 魔術陣から一歩下がった瞬間、足に力が入らなくなりかけた。


「アリア」


 背後から伸びてきた手を、私は素直に掴む。

 セイジュの手は、思ったよりも熱かった。


「どこか痛むか」


「少し、頭が重いだけです。想定内です」


「その『想定内』が信用ならんと、何度言えば分かる」


 呆れたような声。

 けれど、その奥にある安堵は、隠しきれていなかった。


 私は苦笑しながらも、しっかりと頷く。


     ◇


 事件の全容がまとまるのに、それほど時間はかからなかった。


 ラヴェル子爵家当主は、貴族派の一員として穏やかな顔を保ちながら、その裏で第三国と通じていた。

 国境結界の仕様や王都防衛網の一部を、小出しに売り渡していたという。


 王城の一室。

 私は、セイジュ、宰相ユリウス様、そして拘束されたラヴェル子爵と向かい合っていた。


「言い訳は、あるか」


 セイジュの声は、いつも以上に冷たかった。


「わ、私は……国のために、予算を――」


「国のためなら、第三国と手を組んで自国の結界情報を売るのか」


 一刀両断。

 ラヴェル子爵の顔が歪む。


「その過程で、誰を疑わせようとしたのかも分かっている。アリア・レインを、だ」


 銀の瞳が、わずかに細められる。


「今後、彼女を根拠なく疑うことは、誰であろうと許さない」


 室内の空気が、ぴたりと張りつめた。


 私は、思わずセイジュの横顔を見上げる。

 彼は前だけを見ていて、こちらを見ようとはしなかった。


(……そこまで言われると、さすがに照れます)


 胸の奥が、くすぐったく温かくなる。


 ユリウス様が、わざとらしく咳払いをした。


「ともあれ。アリア君」


 宰相が穏やかに笑う。


「今回の綻びは、内側にいた者には見えなかった。外から来た君だからこそ、線を繋げたのだろう」


「私一人の力ではありません。ノエルの計測器と、皆さんの協力があってこそです」


「もちろんだ。だが、最初に『おかしい』と指をさしたのは君だ。その事実は変わらない」


 ユリウス様は、さらりと言葉を重ねる。


「この国は、君を『疑惑』ではなく『功績』で覚える。そこは安心してくれていい」


「……ありがとうございます」


 本心からの礼だった。


 あの会議室で浴びせられた視線が、今度は少しだけ柔らかくなっている気がする。


(外様だからこそ見えるものがある。その一方で――)


 私は、そっと拳を握る。


(外様のままではいられない部分も、きっと出てくる)


 ここは、私の選んだ場所だ。

 ならば、ただの「居候」ではなく、この国の結界を担うひとりとして胸を張りたい。


「次は、もっと分かりやすく『役に立っている』と言わせてみせます」


 そう口にすると、セイジュが小さく息を呑むのが聞こえた。


「……おまえは、本当に遠慮というものを知らないな」


「褒め言葉として受け取っておきます」


 私が笑うと、室内の空気がほんの少し緩んだ。


 貴族派と実力主義派の綱引きは、まだ終わらない。

 けれど少なくとも今だけは、「外様の魔導師」ではなく、「ガルディアの主任」として肩を並べて立っている――そんな実感が、胸の奥に灯っていた。


「逆結界」作戦、いかがでしたでしょうか。

演習ログや倉庫の違和感、ラヴェル子爵家の動き……ここまで散りばめてきたピースが一気に繋がる回になっていたら嬉しいです。外様と見られていたアリアが“功績”で名を刻んだ第一歩の章でもあります。

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