表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「完結済」婚約破棄された令嬢ですが、この国の大結界を張っていたのは私なので、隣国の魔導師団長にスカウトされました  作者: 夢見叶
第1部婚約破棄と「国の盾」の放棄 第4章 婚約破棄本番と国との決別

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/98

番外編2 グラナの昼休み

 国境都市グラナの鐘は、王都のものより少しうるさい。


 でも、この街には、その騒がしさがよく似合っていた。


「昼だな。ひとまず、休憩にしよう」


 外壁上で結界の状態を確認していた私に、副団長のリカルドさんが声をかけてくる。


「北側の緩衝層、少し厚くしておきました。瘴気の流れが変わりそうなので」


「助かる。……さて、団長、降りるか?」


 リカルドさんが背後を見ると、いつのまにかセイジュ様が結界の端を見上げていた。


「問題ない。行く」


 短くそう言って、私たちは階段を降りる。外壁の上から見下ろすグラナの市街は、いつ見ても不思議な景色だ。


 戦の影が常にあるのに、人々はちゃんと暮らしている。

 洗濯物が揺れ、子どもたちが内壁の近くで走り回り、商人たちが声を張り上げている。


「今日は、市場の奥の食堂に行くぞ。ここの煮込みはうまい」


 リカルドさんに連れられて辿り着いたのは、兵士たちで賑わう食堂だった。木の扉を開けると、香辛料と肉と野菜の匂いが一気に押し寄せる。


「団長だ」「結界の魔導師様も来てるぞ」


 ざわっと視線が集まって、思わず背筋が伸びた。


「アリア様、いつもありがとうございます。ここのところ、本当に街が楽で」


 給仕のお姉さんが、深々と頭を下げてくる。


「いえ、皆さんが前線で戦ってくださっているからこそです。私は、少し結界をいじっているだけで」


「その少しが、命綱なんですよ」


 そんなふうにまっすぐ言われると、どう返していいか分からなくなる。


 席に案内され、ほどなくして大きな器が運ばれてきた。

 ぐつぐつと音を立てる煮込みスープ。ジャガイモと豆と肉がたっぷり入っていて、パンを浸すにはちょうどいい濃さだ。


「いただきます」


 一口飲んだ瞬間、体の芯まで温かさが染み渡る。


「おいしい……」


「だろう。前線帰りにはこれが一番だ」


 リカルドさんが豪快にパンをちぎりながら笑う。


 向かいでは、セイジュ様が黙々と食べていた。

 こういう場所でも、姿勢は変わらない。でも、時々視線がこちらに滑ってきているのには気づいている。


「何か、ついていますか?」


「いや」


 即答したあと、彼は少し考えるようにスプーンを止めた。


「……少し、増えてもいい」


「何が、ですか」


「おまえの、全体的にだ」


 全体的に。


 全体的に、とは。


「それは、つまり……太れということでしょうか」


「健康的な範囲で」


 真顔だ。


「結界を張るとき、あまりにも細すぎると、見ていて落ち着かない」


「魔力の器は大きいので、見た目ほど虚弱ではありません」


「分かっているが、気分の問題だ」


 周囲の兵士たちが、なぜかうんうんと頷いているのが見えた。


「団長、分かります。うちの子どもも、冬はよく食べさせて……」


「おまえたちは黙って食え」


 セイジュ様の低い一言で、テーブルが慌てて静かになる。


 私はというと、顔から火が出そうだった。


「……気をつけます。せめて、倒れない程度には」


「倒れるな」


「はい」


 食事を終え、店を出ると、外の空気は少し冷たくなっていた。

 北の山脈から吹き下ろす風が、街全体を撫でるように抜けていく。


「午後は?」


「内壁側の避難結界をもう一度確認しておきたいです。避難所の出入り口も」


「ああ、大神殿の地下のやつか」


 リカルドさんが頷く。


「最近ようやく、『避難訓練』って言葉が街に浸透してきた。あんたの案だろう?」


「いざというときにきちんと動けなければ、結界を強くしても意味がありませんから」


 最悪の事態を想定して結界を設計するのは、仕事柄当たり前の癖だ。


 子どもたちが遊んでいた内壁の前を通ると、昼休みも終わりらしく、親が呼びに来ていた。


「お母さん、今日も魔物来ない?」


「来ないように、お姉さんたちががんばってくれてるんでしょ」


 その会話が、胸にしまってある何かを静かに叩く。


 王都を守っていた大結界は、顔の見えない人々のためのものだった。

 グラナの結界は、こうして名前も表情も分かる人たちのためのものだ。


「……この街は、好きです」


 ぽつりとこぼすと、隣を歩いていたセイジュ様がこちらを見た。


「そうか」


「はい。怖くないと言えば嘘になりますけれど。でも、怖いからこそ、きちんと守りたいと思える場所です」


「なら、そのために結界を張れ。俺たちはその外側で殴る」


 とてもシンプルで、とても心強い役割分担だ。


「頼りにしています」


「当然だ」


 夕方にはまた外壁の上に戻り、夜には瘴気の光る谷を見下ろすのだろう。

 それでも、この昼の温かさを知っているから、私は夜の闇に立ち向かえる。


 国境の鐘の音が、遠くで鳴った。


番外編2まで読んでくださりありがとうございます!

国境都市グラナの、少し物騒で少しあたたかい昼休みを楽しんでいただけましたでしょうか。

「この街をもっと見てみたい」「アリアたちの戦う日常を追いかけたい」と感じていただけたら、★評価やブックマークで応援してもらえると、とても励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編掲載中!
よろしければ応援お願いします!
婚約破棄?上等、封印証拠で公開監査し監査公爵と溺愛契約
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ